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今日の善悪スペシャルランチは牛丼だった。
根深汁としば漬け付、トッピングはお好みで。
コユキはラーメンどんぶりで、僅(わず)か七杯ぽっちで食事を終えた。
やはり先程の疲労困憊(ひろうこんぱい)ぶりでは、いつもの食欲は維持する事は難しいらしい。
一杯目ノーマル、二、三杯目は生卵付き。
四、五杯目はキムチトッピング、六杯目はチーズトッピング、七杯目は再びのノーマルであった。
今はデザートのオールドファッションドーナツ(五個目)を食べ終わったところだ。
「ゲェッツプ、ふぃ~、ねぇ…… またやるの? あの、さっきの……」
もの凄く嫌そうなコユキである。
善悪を睨み付けている。
同じく牛丼、こちらはどんぶり三杯、ドーナツ三個食べ終わった善悪が首を振りつつ答える。
「いやいや、今からコユキ殿にはお昼寝をして頂く! 食事の量から見て、些(いささ)か摂取カロリー不足でござろう? それを補い、更なるエネルギーをその身に備蓄する為にも、食って寝て、食って寝て…… で、ござる!」
まるで相撲部屋である。
「そうなの? ふーん? ……んじゃ、おやすみ」
コユキはほっとしたのも束の間、速攻でその場でゴロリと横になり、数秒もたたないうちにグオォォオオオ、グオォォオオオと鼾(イビキ)をかきはじめた。
善悪はほっと息を吐き、カチャカチャと、でもなるべく音を立て無い様に、どんぶりとドーナツ皿を手早く片付けた。
ヒラリとエプロンの裾を翻し、軽い足取りで台所へ向かう。
向かったと思ったら、片手にバスタオルを手にして戻ってきた。
仰向けに寝そべり、おっさんのような鼾をかいているコユキのでっぷりとした腹の上に、気休めの様なバスタオルをペラリと掛けた。
本来なら昼寝の後に、午後の訓練を想定していた善悪だったがコユキは眠り続けた。
夕方になって、善悪が台所で夕食の支度をしていると、匂いに釣られて起きて来たが時間も時間だ。
残念ながら、食事を摂ってその日はお開きとなってしまった。
善悪の表情には何か思う所がある様に見えた。
あくる日。
昨日と同じ様に、迎えに行った善悪の車に乗り込むと、早速とばかりにコユキが口を開く。
「ねぇ、善悪ぅ…… あれさ、昨日みたいなの、その、今日もやるの?」
すかさず、善悪は答えず質問に質問で返した。
「んん? 何故そんな事、聞くのでござるか?」
コユキは運転している善悪に眼差しをキッ! と向けて答えた。
「はぁ? 何でってそりゃ、アンタ、嫌だからに決まってんじゃん!」
だそうだ、あーあー。
暫し(しばし)黙り込んだ後、善悪は前を向いたまま、うっすらと笑顔を湛え(たたえ)たまま答えた。
「心配要らないでござるよ、今日は座学でござる」
「座薬?」
「座学っ! まあ今日は学科、でござる……」
「あ、ああ、学科ね! そっか、そっか♪ 判ってんじゃん! アタシ机上(きじょう)のベンキョ得意だからさ、まかしといて!」
善悪は返事もしないままで運転をし続け、程なく幸福寺へと到着するのだった。
コユキ的に言えば、今日のベンキョは本堂だった。
御本尊が横から見守る中、経机(きょうづくえ)を前にコユキはドデンと座布団に胡坐(あぐら)を掻いていた。
眼前には、どこから引っ張り出した物か、立派な黒板が威容を放ち、その横に黒縁メガネを光らせた善悪先生だ。
善悪はコユキが準備万端っぽいのを確認すると口を開いた。
「では、授業を始めるに当たって質問でござる! コユキ殿にとって戦いとは何ぞや?」
突然の質問。
だがここでうろたえる様なコユキでは無い。
ここはじっくり時間を掛けて正解を探り出そうとする。
優に数分の時間が経過してから、満を持してコユキは答えた。
「自分を貶(おとし)められ無い様にする事…… 自分より恵まれた存在に決して下に見下されないことかな」