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「小麦粉と…バターと…そういえば卵も切らしていたわ。お願いね」
放浪者「はぁ?」
行く宛もないから、仕方なく、スラサタンナ聖処に身を置いて数週間。
今僕は博識な知恵の神で、スメールを統治するクラクサナリデビに買い物を頼まれている。
放浪者「まさか、その為だけに僕を呼んだんじゃないよね?」
ナヒーダ「別にいいじゃない。」
この草神、本当にその為だけに僕を呼んだのか。
放浪者「聡明で博識な知恵の神の君が、まさかここまで僕を信用するとはね」
放浪者「分かっているんだろう?僕の罪のことは」
散兵としての記憶、邪眼を使い、抵抗軍の殆どを死へ追いやり、ファデュイとして他の多くの民を巻き込んだ。
創神計画で新たな神となろうとし、数百回も草神を殺した。
それでも尚、この神は僕を信じ、歩み寄ろうとする。
とてつもなく吐き気がする。
ナヒーダ「確かに貴方がしてきたことを赦す気はないわ。」
放浪者「なら…何故僕を殺さない?」
放浪者「また君の愛する民を傷付けるかもしれないんだ」
ナヒーダ「そんなことは貴方はしないわ」
ナヒーダ「貴方はする理由がないもの」
放浪者「ッ…!」
ナヒーダ「貴方がその神の目を持てるのも、改心した立派な証拠よ」
ナヒーダ「それに貴方には生きて紡いで欲しいの」
放浪者「紡ぐ…だと?」
放浪者「ハハハッ!…笑わせるね」
人は醜く争うもの。紡いできたものは全て人間そのものの手で壊してきたんじゃないか。
放浪者「なら僕は…何で…」
放浪者「何であの時捨てられる必要があったんだ?」
あの忌まわしい神は僕を捨てた。
何年も何年もあの場で帰りを待った。
でも何年間も…帰ってくることなどなかった…。
そんな雷神は今、のろのろと動き、ようやく考えを変え、鎖国を解除したらしい。
その間、僕が裏切りを知り、また裏切られ、三度も紡ぎたいものを壊されたことも知らずに。
ナヒーダ「それでも私は貴方を生かすわ」
ナヒーダ「いつか、貴方のような人に手を伸ばせるように、蕾が潰されて汚されてしまわないように。」
彼女の比喩はやはりよくわからない。
ナヒーダ「小鳥が親鳥を殺されるのを見てしまったら、成長しきる前に飛ぶことを恐れ、黒い感情に支配されてしまうわ」
ナヒーダ「誰も傷付かないような世界」
その言葉を聞き、なんて魅力的な言葉だろうと思うと同時に、なんて馬鹿で浅はかな発言だろうと思う。
ナヒーダ「それが叶うとき、既に私は磨耗してるのかもしれない。」
ナヒーダ「何百年、何千年。いつになるかかはわからないけれど、私はそんな世界を夢見ているの」
ナヒーダ「その為には、貴方のような、永遠に生き、人の辛い感情を救い、それを紡げる存在が必要よ。」
ナヒーダ「貴方の経験はきっとそれに大きく響かせるわ」
放浪者「馬鹿馬鹿しい、本当に叶うと思ってるの?」
放浪者「幸せという感じは辛いに1個足して出来るというけれど、その1個は誰かの幸せから奪ったもの。」
放浪者「犠牲の上に正義が成り立ち、幸福が現れるのさ」
ナヒーダ「誰かから奪う必要はないわ」
ナヒーダ「だって、二つに割れば二人にささやかな幸せが訪れるじゃない。」
こういうとき、きっと僕を救ったあの主人公のお供はこんな回答できないだろうね。
ナヒーダ「それを伝えればきっといつか…放浪者…これは私が貴方を殺さない理由よ」
ナヒーダ「そして、貴方が犯した罪への償いよ。」
この神はなんてことを考えるのだろう。
死よりも辛い罰を与えるというのか。
勿論一番は旅人が助けたからだけど、と答える彼女の顔は穏やかであった。
放浪者「本当に、恐ろしい神様だね」
傘をしっかり被り外へ出る。
小麦粉とバターとあと卵だっけ?
なんせ知恵の神からのお言葉だ。
この罪が消えることはない。ただ、この残った辛さは紡ぐうちにいろいろ付け加えられて幸せに変わるのだろう。
知恵の神からのありがたいお言葉だ。間違いないだろう。
あの執行官が言っていたっけ、「悪いことをしたら謝る。与えた夢は最後まで守る」
あの脳筋の言葉は宛にしたくないがまぁいいか。
一歩ずつ、前に出てみるのもいいかもね。
その後、デーツを伝え忘れ、また買いに行く羽目になったのは別の話…