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フランス料理をゆっくりと1品1品味わい、とても幸せな時間を過ごした。そこまで固いルールもなくて、集中して食事を楽しめた。
それは、間違いなく、お店の方の温かい気遣いと樹のサポートのおかげだった。
「すごく美味しい。こんなに綺麗なお料理があるなんて。お皿に絵が描かれてるみたい」
使い慣れない言葉を思わず口にしてしまった。
ちょっと恥ずかしい。
一通り食事も終わり、最後のデザートが運ばれてきた時だった。
「樹!!」
その声に振り向くと、そこには沙也加さんがいた。
沙也加さんのドレスアップした姿が鮮やかに目に飛び込んできた。
ど、どうして? こんなところで会うなんて……
本当に……嘘みたいに綺麗だ。
こうして並んだら、私なんて霞んでしまう。
「樹、どうしてここに?」
「柚葉と食事に来た」
沙也加さんのこの様子じゃあ、これは本当に偶然なの?
「いやぁ、樹君じゃないか。こんなところで会うなんてね」
すぐ後から来た紳士が、樹に声をかけた。
ロマンスグレーで、随分と貫禄のある男性。
「綾元社長、本当ですね、私も驚きました。いつもありがとうございます」
「おや、こちらの可愛らしい女性は樹君の彼女かな」
「はい、私の婚約者の間宮 柚葉さんです」
樹のセリフにドキッとした。
「あ、あの、間宮 柚葉と申します。樹さんがいつもお世話になっています」
とにかく今はお芝居するしかない。
「沙也加の父です。娘がいつもありがとう」
「お父様、柚葉さんにはお世話になってないわ。お父様にも話してたけど、私は樹のことが好きなの。なのに、樹はこんな人と……」
沙也加さんが、きつい口調で言った。
何だかちょっと怖くて、私は下を向いてしまった。
こんな美しい人に言われて、何も言い返せない。
「樹君、ここでは他の方にご迷惑だ。個室で話そう」
この展開は良くない展開?
どうしよう、私のせいで会社に迷惑がかかったら……
とにかく、私達は沙也加さんの御家族が食事される個室に呼ばれた。
その部屋には、沙也加さんのご両親、弟さんもいた。
「綾元社長には、日頃から大変お世話になっています。お嬢さんの沙也加さんにも、モデル時代は友人として仲良くしていただきました。沙也加さんの気持ちは有難いですが、私には結婚を心に誓った大切な彼女がいます。どうか……ご理解下さい」
樹……
お芝居だけど、「結婚を心に誓った大切な彼女」なんて、胸がキュンとなる。
「お父様、樹と柚葉さんがお似合いだと思う? こんな地味な人より、私の方が……」
「沙也加、よしなさい。それは間宮さんに失礼だ。この方は素敵な女性じゃないか」
「お父様……」
沙也加さんはとても悲しい顔をした。
「社長、本当に申し訳ございません。ですが、私は、沙也加さんには幸せになっていただきたいと思っています。その相手は、私ではありませんが、沙也加さんならもっと素敵なお相手が見つかります」