テラーノベル
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十文字は地を蹴り、容赦なくこちらへ向かってきた。
「来る!」
雷光を纏った巨体が、一直線に距離を詰める。
その圧だけで、空気が悲鳴を上げた。
――その瞬間。
「悠人! 雫ちゃん、伏せて!システムコード、オーバーレイ・ネット!」
美咲の叫びと同時に、弓弦が鋭く鳴る。
矢は十文字の足元に突き立ち――
次の瞬間、着弾点を中心にホログラム化されたネットが何重にも展開された。
光の網が絡み合い、巨体を包み込む。
「……っ」
何重にも重なったネットが、十文字の動きを束縛した。
「今よ!」
拘束された、ほんの一瞬。
雫は迷わず死角へ回り込む。
雷光を纏った木刀が、背後から振り抜かれた。
――だが。
ガンッ!!
片手のガントレットが、正確無比に一撃を受け止める。
そして再び、力が吸い上げられていく感覚。
(また……吸収!?)
だが、その刹那。
雫の視界に、確かな“穴”が映った。
――胸元が、空いている。
「今だ……!」
悠人は一切の迷いなく、
《過剰放出型アサルトライフル〈オーバーフロー・アサルト〉》を肩に担ぐ。
チャージ完了の警告音を無視し、引き金を引いた。
「もらったッ!!」
収束されたエネルギーが解き放たれ、
眩い光線が正面から十文字の胸元を撃ち抜く。
――ドォンッ!!
爆音が森林を揺るがし、
衝撃波と熱が周囲の木々を薙ぎ倒す。
白煙が一気に立ち込め、視界は完全に遮断された。
「……やった、か?」
悠人が息を詰め、呟く。
やがて――
風に押されるように、煙がゆっくりと晴れていく。
現れたのは――
無傷の巨体。
十文字は肩を鳴らし、平然と立っていた。
装備にも、肉体にも、致命的な損傷は一切見当たらない。
「いい連携だ」
低く、だがはっきりと響く声。
「だがな――」
十文字は胸元を叩き、歪んだ笑みを浮かべる。
「俺はサイバー部隊所属。
陛下直属のボディーガードだ」
ネットの残骸を、力任せに引きちぎりながら続ける。
「電流なんてものは……
とっくに訓練で慣らしてある」
美咲の顔から、血の気が引いた。
「……嘘、でしょ」
雫も思わず呟く。
「……化け物」
十文字は、ゆっくりと拳を握りしめる。
ガントレットが再び光を帯び、空気が軋んだ。
「――しっかり、受け止めろよ」
次の瞬間。
巨体からは想像もできない速度で、十文字は美咲へと肉薄する。
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「――っ!」
拳が振り抜かれる。
だが、その前に――
雫が一瞬で割り込み、木刀で受け止めた。
ガキィンッ!!
衝撃が爆ぜた。
次の瞬間――
雫と美咲の二人の身体が、同時に宙を舞う。
為す術もなく吹き飛ばされ、
背後の巨木へと、叩きつけられた。
ドンッ――!
鈍い音が森林に響き、
幹が大きく軋む。
雫は地面へと転がり、木刀を手放したまま動かない。
淡く灯っていた雷光も、静かに掻き消えていく。
美咲もまた、木の根元に崩れ落ち、
弓を握る指から力が抜けていた。
二人とも、息はある。
だが――
返事は、ない。
「……っ」
悠人の喉が、ひくりと鳴った。
戦場に残ったのは、悠人と――十文字。
たった、二人。
「……っ!」
悠人の視界が、一気に赤く染まる。
そんな彼に向かって、十文字は笑った。
「さあ、悠人」
低く、楽しげな声。
「実は俺はなずっと、お前と一対一で勝負したかったんだ」
一歩、また一歩と距離を詰めながら続ける。
その言葉と同時に、
十文字の足が地面を蹴った。
――来る。
悠人の背筋を、氷のような予感が走る。
巨体が、視界から消えた。
「っ――!?」
次の瞬間、
空気が爆ぜる。
「《スカウター》、起動!」
反射的に叫び、視界に情報層を展開する。
速度解析、軌道予測、筋出力――
警告表示が、赤に染まった。
《警告:反応限界超過》
「クソ……速すぎる!」
だが、見えないわけじゃない。
スカウターが捉えた“未来の軌道”が、
一瞬だけ、脳裏に焼き付く。
(――右、上段!)
悠人は転がるように回避する。
その直後、
彼が立っていた場所を、雷光を纏った拳が粉砕した。
地面が抉れ、土と木片が吹き上がる。
「ははっ!」
十文字が、楽しそうに笑った。
「いい反応だ。
だが――」
雷光を纏った巨体が、再び消える。
「遅い」
次の瞬間、
悠人の腹部に――重圧が叩き込まれた。
「ぐっ――!?」
空気を圧縮したかのような一撃。
防御の構えすら間に合わず、悠人の身体は宙を舞う。
背中から地面に叩きつけられ、
肺の中の空気が、一気に吐き出された。
「――っ!」
声にならない悲鳴。
(……ヤバい)
視界が歪み、世界が左右に揺れる。
鼓動だけが、耳の奥で異様に大きく響いていた。
それでも――意識だけは、必死に繋ぎ止める。
(十文字はもっと強いよ)
唐突に、記憶が弾けた。
ゲームセンター。
薄暗いフロア、ネオンの光。
筐体の前で、何気なく放たれたあの一言。
蒼空の声が、鮮明に蘇る。
十文字は、ゆっくりと歩み寄ってくる。
まるで、獲物が立ち上がるのを待つ捕食者のように。
「安心しろ」
低い声が、降りかかる。
「一瞬で終わらせてやる」
拳が、再び光を帯びる。
その瞬間――
悠人の視界の端に、スカウターの補助ログが走った。
《エネルギー流入傾向:ガントレット集中》
《反応遅延:0.3秒》
(……ある)
悠人は、ゆっくりと立ち上がった。
全身が軋み、呼吸のたびに肺が痛む。それでも――視線だけは、十文字から逸らさない。
(俺の能力……)
脳裏に浮かぶのは、かつて誰にも理解されなかった“異能”。
一度見たもの。
脳内に刻み込まれたデータやイメージを、
そのまま現実へと具現化する力。
そして、それを起動できるのは――
この世界で、俺だけ。
(記憶喪失する前に作られた。俺専用のアサルトライフル……そして、隠しコード。ここで使わなきゃ、意味がない)
悠人は、アサルトライフルをゆっくりと天空へ向けた。
十文字の視線が、怪訝そうに細められる。
「……?」
次の瞬間、悠人ははっきりと告げた。
「――シークレットコード369」
引き金が引かれる。
轟音。
放たれたチャージショットは、十文字ではなく――空を撃ち抜いた。
上空でエネルギー弾が炸裂し、眩い閃光とともに分裂。
無数の光の粒子となって、雨のように降り注ぐ。
ドン、ドン、ドン――!
分散したエネルギーが地面へ叩きつけられ、
衝撃とともに土砂と木片を巻き上げた。
瞬く間に、視界は白煙に覆われる。
森が、戦場が、音すらも掻き消されていく。
「……チッ」
煙の向こうから、十文字の低い声が響いた。
「おい、悠人。小細工はやめろ」
だが――
悠人は、煙の中で静かに笑った。
(小細工じゃない、――これは、再現だ)
白煙が、ゆっくりと風に押し流されていく。
やがて視界が開けた、その先で――
十文字は、思わず目を細めた。
そこに立っていたのは、悠人。
――そして。
「……なに?」
同じ姿、同じ装備、同じ立ち姿。
悠人が、三十人以上。
戦場を取り囲むように並ぶその全員が、
実体と見紛うほど精密なホログラムだった。
呼吸の揺れ。
足元に落ちる影。
武器に走る光の反射。
どれ一つとして、違いはない。
《ホログラム投影:三十六体》
《同期率:99.8%》
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