目覚めた私はうなりながらボーッとし、目を閉じたまま手探りをして尊さんを探す。
「んー……、んうぅぅうう……」
指先に彼の体を感じた私は、うなりながら尊さんに抱きつく。
「お前、寝起きはムニャムニャ言ってて、寝ぼけた猫みたいだな」
尊さんはもう起きていて、ベッドのヘッドボードにもたれかかってスマホを見ていた。
「完全に目が覚めるまで、食いたいもんの事でも考えとけ」
「んー……」
そう言われて、私はぽやぽやとしながらご飯について考え始めた。
ご飯の前に、私たちは朝のお風呂にゆったりと入る。なんとも贅沢だ。
「またスイートルーム泊まっちゃいましたね」
「いや、これは親父に払わせる」
きっぱり言うものだから、つい笑ってしまった。
私は背後から抱き締めてくる尊さんの腕を抱き、微笑んで言う。
「色々あっても、亘さんの事を〝親父〟って呼ぶんですね」
「んー……」
そう言うと、彼は少しの間考え、やがて溜め息をついて口を開く。
「あいつに実父としての愛情は求めてないし、頼りにしたいとも思わない。父親という役割を持つ存在、立場上の血縁、社長……、そういう感覚かな」
尊さんの言いたい事はなんとなく分かる気がした。
「縁を切るまでもないけど、繋がりはある?」
「何だろうな。あいつがいなくても生きていけるし、怜香の力が及ばなくなった今、篠宮ホールディングスを出ても誰も俺を邪魔しないだろう。……父親としては失格だし、一人の男としても最低だ。……けど、あいつがいたから俺とあかりが生まれた」
思考を辿るように言った尊さんは、自嘲する。
「世の中、毒親に愛想を尽かして、戸籍を抜いて本当に他人になる奴もいる。俺だってあいつと怜香が両親ならいらねぇよ。……でも」
そこまで言い、彼は息を吸ってしばし止める。
「……俺の心の底にいる母が『人として愛情深く、正しい道を歩め』と言っている。どんなにだらしねぇ最低な父親でも、母は縁を切って捨てる事を望んでいないと思う」
そのあと、尊さんは溜め息混じりに言った。
「……妹は〝おじさん〟に懐いてた。〝おじさん〟の事を好きだと言って、『いつか四人で住みたい』と望んでた。あんな奴でも妹にとっては〝父親〟なんだ。……妹が慕っていたなら、あいつと完全に縁を切って憎む訳にいかない」
私は尊さんの気持ちを汲み、彼の腕をギュッと抱き締める。
すると彼は「ははっ」と笑った。
「……マザコン、シスコンかなぁ……」
「ううん、そんな事ない。……尊さんは理性を失うギリギリのラインで生きてきました。客観的に見ても、いつ非行に走り、自暴自棄になってもおかしくなかった。そんな中、あなたの理性を守り続けたのは、お母さんとあかりさんとの優しい思い出です。確かに、見方によっては縛られていると言えるかもしれません。でも私は、尊さんが人らしく生きてきた事を誇りに思います」
「……サンキュ」
尊さんは小さく笑ってお礼を言ったあと、のしっと私の肩に顎を乗せる。
「これからはお前のために生きていく」
彼の言葉を聞いて、私はジワッと頬を染めた。
「初めて誰かのために生きる事ができるな……。すげぇ幸せな事だ。一人で金を持っていても、愛する人がいないと空しいから。……だから朱里も、幸せになる覚悟をしてくれよ?」
耳元で囁いた尊さんはクスッと笑い、私の頬にキスをしてきた。
朝食は洋食にし、私はバターの香りがするクロワッサンの香りをうっとりして嗅ぎ、噛み締めるように食べていた。
「お前、本当に美味そうに食うなぁ」
尊さんは笑顔で言い、スマホを手に取って私の写真を撮ってきた。
「だって本当に美味しいんですもん……。このオムレツ見てくださいよ。焼きムラのない綺麗な黄色で、表面はトゥルンッ! なのに中は綺麗に半熟トロトロで……、芸術……」
言いながら、私はオムレツに向かって小さく拍手をする。
そのあと、「あ」と言って彼に尋ねた。
コメント
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長年 酷い扱いを受け続けて、本当なら亘さんとはスッパリ縁を切りたいだろうけれど.... 母さゆりさんと 妹あかりちゃんを想い、父を見捨てない選択をした 尊さんの誠実さ、優しさ....😢🍀
聞きたい事は聞いたらいいよ!尊さんは答えてくれるよ😊