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冴先生は音楽室の中に私を入れてくれた。入部希望ではないこと。気づけばここにいたことを伝えた。すると冴先生は、「そう。でも一度弾いてくれない?ピアノ」。
私は驚いた。なぜ、私がピアノをやっていることを知っているんだ。中学の定期演奏会とかに来ていたのだろうか。そして、その勘は的中していた。 「定期演奏会、見ていましたよ。普通に上手いじゃないですか。なぜ、すぐに音楽部に入らなかったのですか?」。私は、少しだけ嬉しい気持ちになったが、すぐにお世辞だと振り切った。そうしないと、また幼少期の頃のように、調子に乗ってしまう。
「全然。私なんかより上手い人はいますし、私はただ『ピアノが弾ける人』でしかありません。幼少期から、ピアノをしていましたが、自己満足の趣味程度」。
「 中学でも、きっと褒め称えられるだろうと天狗になった結果、ある先輩の演奏を見て、自分の視界だけが世界じゃないと気付かされました」。
気づけば、冴先生に、今まで思ったことを全て吐き出していた。ここまで本音を言えた人、初めてかもしれない。そして、冴先生は言った。
「別に、いいじゃないですか。自分の視界が世界で」。
「え?」と思わず声を漏らした。冴先生は続けた。
「あなたは、幼少期の頃が一番楽しかったはずです。自分が一番だと思っていたんでしょ?それでいいんですよ。貴方は、もっと傲慢に、我儘になりなさい。幼少期の頃に戻る気で。何も気にせず、自分の演奏が一番だと思える傲慢で自信を持つ演奏者は、素晴らしい才能を持っていると、私は思います」
この言葉を聞いて、自分の世界が中学の頃のように、360度変わった。中学の頃の絶望感ではなく、希望に近い感覚だった。この先生の元なら、音楽をやりたい。素晴らしい演奏をしたい。
なぜか、そう思えた。