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部屋は暗い。電気をつけるほどの気力もなくて、スマホの光だけが顔を照らしていた。
「……お腹空いた〜……」
誰に聞かせるでもない独り言。
言葉にした瞬間、少しだけ実感が湧いて、
それが逆に怖くなって、涼ちゃんは口を閉じた。
空腹は、ずっとそこにある。
でも“空いてる”って認めると、何かを選ばなきゃいけなくなる気がして。
スマホが震える。
【元気〜?】
【最近どう?】
両親からのメッセージ。
いつもの、短くて軽い文。
涼ちゃんは画面を見つめたまま、返事を打たない。
元気かどうかなんて、自分が一番分からなかった。
元気そうに見せることはできる。
大丈夫って言葉も、もう癖みたいに打てる。
でも――
今のこの空腹を、
「順調」や「問題ない」の一言で包んでいいのか、分からない。
【仕事は順調?】
少し遅れて、もう一通。
条件。
体型。
進まないドラマ。
体重計。
全部が頭の中をよぎって、
涼ちゃんはスマホを伏せた。
「順調だよ」
そう返すのは簡単だった。
でも今日は、
嘘を重ねるのが、少しだけしんどかった。
再び、ぽつりと声が漏れる。
「……お腹、空いたな」
今度は、さっきよりはっきり。
キッチンの方を見る。
立ち上がる。
また座る。
そのとき、別の通知。
【今どこ?】
元貴からだった。
涼ちゃんは少しだけ考えて、短く返した。
【家】
すぐに返事が来る。
【何か食べてる?】
指が止まる。
迷って、迷って、
正直すぎるくらいの言葉を打った。
【お腹空いてる】
送信。
それだけで、胸の奥が少し緩んだ。
解決したわけじゃない。
食べられるとも限らない。
でも、
“空腹を認めた自分”を、
誰かが受け取った気がした。
両親からのメッセージは、まだ未読のまま。
今はそれでいい、と涼ちゃんは思った。
まずはこの空腹を、
ひとりごとで終わらせないこと。
それだけで、今日は十分だった。