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そう思ってナディエルを見つめたら、「本当はお嬢様のお傍にいたいのに……足がすくんでしまうのです」と、ナディエルの絞り出すような声が聞こえてきた。


「ナディ?」


リリアンナとカイルは平気だと言ったが、ナディエルはまだオオカミに襲われた場所へ近付くのが怖いらしい。

本来ならばリリアンナに付き従い、自分もカイルの介助を手伝うべきなのにそれが出来ないことを、気に病んでいるようだった。


「それは気にしなくていいと言っただろう?」


ランディリックの声音に被せるようにリリアンナも言う。


「ランディの言う通りよ?」


だからこそ、ランディリックがリリアンナをカイルの小屋までエスコートするのだ。


「旦那様にまでお手数をお掛けして申し訳ありません」


しゅんとするナディエルの手をリリアンナがギュッと握った。


「ナディ、無理なことを無理だって教えてもらって、私、嬉しかったのよ? だから本当に気にしないで? それより!」


そこで自分をじっと見つめてくるナディエルにニコッと微笑んで見せると、リリアンナが続ける。


「帰ってきた時、きっと私、へとへとだと思うの。だから……いっぱい撫でて、うんと甘やかして欲しいの」


「かしこまりました。あと、お湯あみの準備もしておきますね?」


「わぁー、それ最高! 楽しみ!」



笑顔を取り戻したナディエルに見送られながら、リリアンナはランディリックに差し出された手を握る。


「……リリーは、本当にカイルのところへ行くのが楽しみなのか?」


長い廊下を歩きながら、ランディリックがすぐそばを歩くリリアンナへ、探るように尋ねた。


「もちろん! カイルを元気づけてあげたいもの!」


リリアンナは一瞬だけ目を瞬かせ――すぐに花のように笑った。


「……何度も聞いて悪いが……リリーは厩舎へ近付くのが怖くはないのか?」


無邪気なリリアンナの答えを受けて、ランディリックはさらに問いかけずにはいられない。


「怖くないわ。だって……ランディが傍にいてくれるんでしょう? 壁を直している兵士さんたちもたくさんいて下さるみたいだし……頼もしいことこの上ないじゃない!」


天真爛漫てんしんらんまんなその笑顔に、ランディリックは瞳を見開いた。

握られた小さな手の温もりが、まるで自分にしか向けられていないもののように錯覚させられる。


(……そうだ、リリー。キミは僕だけを信じていればいい。僕だけを気にしておいで?)


「ああ、……そうだね。何も恐れることはない。僕が全力でリリーを守ると誓おう」


こんなに幼い少女の言葉に、ここまで胸を高鳴らせてしまう自分は相当ヤバイ。いつか親友のウィリアムから揶揄い混じりに心配されたのを思い出しながら、時折リリアンナを横目にしつつ歩を進める。


彼女の小さな手を握って歩けるのは至福の時だ。だがこの道行きの先にあるのは、カイルの小屋。

愛らしいリリアンナがこれから寄り添うのは、自分ではなく別の男だと考えたら、冷たい棘が胸の奥に突き立った。

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