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新月の夜だった。
天を覆い尽くす厚い雲が、星々の瞬きさえも執拗に遮断している。
森は、自らの手さえ見失うほどの一寸先も見えない濃密な闇に包まれていた。
だが、そんな絶対的な暗黒の中でも、俺の感覚は研ぎ澄まされていた。
屋敷を円状に包囲し、徐々に、そして確実に距離を詰めてくる十二の不快な気配。
それは静寂を乱す羽虫のように、俺の魔力感知にありありと引っかかっていた。
「……ようやく来たか」
テラスの長椅子に深く腰掛け、俺は手元のグラスを傾けて静かに赤ワインを口にする。
侵入者たちの正体は、わざわざ鑑定魔法を使うまでもない。
元ギルド『聖域』が、表沙汰にできない汚れ仕事のために裏で飼っている暗殺特化部隊──
『影の処刑人』
姿を見せず、音も立てず、ただ死だけを運ぶ連中だ。
表の騎士団が束になっても、彼らの一人さえ捕らえることはできないだろう。
だが、それはあくまで「常識的」な戦場での話だ。
《……ゼノン、様》
背後の闇が、生き物のようにゆらりと揺れた。
そこから染み出すように、涼やかで凛とした声が脳内に直接響く。
ルナが俺の影から這い出し、いつの間にか傍らに跪いていた。
彼女の瞳は、昼間にケーキをねだっていた時の甘えた色を完全に排し
今はただ、獲物を凍らせるためだけの絶対的な殺意を宿している。
「掃除の時間だ、ルナ。庭を汚されるのは癪だからな。……一人も逃がすな」
「……ん」
短く、意志の籠もった声で応じると、彼女の輪郭が夜の闇に溶け込み、霧のように消え失せた。
森の闇の中で、暗殺部隊のリーダーは焦燥に駆られ、内心で激しく舌打ちした。
「……おかしい。ターゲットの屋敷は目と鼻の先だというのに、妙に暗すぎる。これでは闇というより、虚無だ」
彼らは闇に生きる専門家であり、その瞳には高度な暗視魔術が付与されている。
気配探知も、熱感知も、あらゆる手段で敵を追い詰めるプロ中のプロだ。
だが、今の彼らが感じているのは、単なる光の欠如ではない。
もっと濃密で、物理的な質量さえ伴った「影」そのものに
世界の理が侵食され、塗り替えられている感覚。
「何だ……足元が動か……っ!? 影が、掴んで……」
一人の暗殺者が悲鳴を上げる暇さえなかった。
自分の足元に伸びる、あってはならない角度の「影」から突き出した漆黒の槍が、音もなくその胸を貫く。
断末魔すら上がらない。
影の槍は肺を正確に潰し、溢れ出す血液さえも瞬時に凍結させ、周囲を汚すことすら許さなかった。
「敵襲! 散れっ! 隊列を組むな、影から離れろ!」
リーダーが喉を潰したような声で叫ぶ。