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**さくらんぼんさん、#166読みました!** カエデの「逃げた結果、背後取って倒しちゃう」スタイル、完全に開き直ってて笑ったわw 「卑怯」「暗殺」「経験値0」の流れ、不憫なんだけどウィルソンとイオナ姉が全力で肯定してくれるの好きすぎる。そしてリモコンでまさかのツバキたちに金ダライ降らせるとか、このカオス感がたまらん。勇者って難しいよね…でも生き残ったからOK🔥
『逃げるために、まず投げろ!!』
ウィルソンの熱い声が、頭の中に響きました。
「勢いがサクラっぽいね……ちょっと安心する……」
私はポケットの中の石を握りしめたまま、小さく呟きました。
目の前には、巨大な魔物。
左右には、瓦礫とひび割れた壁。
後ろには、さっき落ちてきた穴。
そして、魔物の向こう側にだけ、人ひとりが隠れられそうな岩陰があります。
つまり。
逃げたいなら、魔物の背後に行くしかありません。
意味が分かりません。
『虫王カエデヨ』
「虫王じゃないよ……」
魔物が、ゆっくりと腕を振り上げました。
その腕だけで、私の身体より大きいです。
私は反射的にしゃがみました。
ズガァァァンッ!!
魔物の腕が、頭上を通り過ぎ、後ろの岩壁を砕きました。
「ひゃ」
怖すぎて、声が小さくなりました。
大きい悲鳴を出す余裕もありません。
『カエデ。右へ』
イオナお姉ちゃんの声が響きます。
「右……?」
『右です』
「私の右……?」
『あなたの右以外に何がありますか』
「魔物から見た右とか……」
『今は討論している場合ではありません』
たしかに。
私は言われた通り、右へ転がりました。
ごろっ。
転がった先に、小さな段差がありました。
「……あ」
足が引っかかりました。
そのまま、体が前へ倒れます。
「待って……」
待っても、倒れました。
ずるっ。
転んだ勢いで、私は魔物の足元へ滑り込みました。
『好機です』
「どこが……?」
『敵の懐に入りました』
「入りたかったわけじゃないよ……」
『このまま背後へ抜けなさい』
「はい……」
私は四つん這いのまま、魔物の足元に入り込みました。
勇者としては、たぶん最低の姿勢です。
でも、生きるためには仕方ありません。
魔物の足は岩みたいに太くて、熱を持っていました。
踏まれたら、きっと平たくなります。
私はおせんべいになりたくありません。
『ナニヲシテイル』
頭上から、魔物の声が降ってきました。
「通ります……」
もちろん、聞こえていないと思います。
聞こえていても、たぶん許してはくれません。
その時です。
さっきの羽虫が、ふらふらと戻ってきました。
「あ……」
#ライトノベル
こはる
610
#異世界
あのち
1,452
上野文
4,351
#探偵
橘靖竜
4,825
羽虫は、私の頭の上を通り過ぎました。
そして、そのまま魔物の顔の方へ飛んでいきます。
『虫……』
魔物が、低く呟きました。
『我ヲ起コシタ虫……』
「そこ、覚えてるんだ? その子でまた寝直せるよ!?」
羽虫は悪気なく飛んでいました。
たぶん、また休む場所を探していたんだと思います。
そして。
魔物の鼻に入りました。
『…………』
「…………ぁ」
『……フ』
「え」
『フ、フ、フ』
「待って……」
『フエックシォォォォン!!』
奈落の底が揺れました。
すごいくしゃみでした。
私のくしゃみとは、規模が違います。
近所の子犬どころではありません。
山です。
くしゃみをする山です。
その衝撃で、私は地面を少し転がりました。
「ひゃ……」
『カエデ。そのまま進みなさい』
「そのままが、魔物の下なんだけど……?」
『今です』
「ええ?そうなの……?」
私はほとんど泣きながら、そのまま這いました。
カサカサカサッ!!
勇者としては、たぶん最低の音です。
魔物はくしゃみで目を細めていました。
大きすぎる体を揺らしながら、鼻を押さえています。
『ドコヘ消エタ……』
「ここです……」
小さく答えました。
答えない方がよかった気もします。
私は泣きそうになりながら、魔物の足の間を抜けました。
そして。
出ました。
魔物の背後に。
「…………」
『…………』
イオナお姉ちゃんが沈黙しました。
「……イオナお姉ちゃん」
『なんですか』
「私、隠れたかっただけだよ」
『完璧に背後を取りました』
「違うよ……」
『敵の視界外、攻撃射線外、逃走経路確保。教科書に載せたい動きです』
「載せないで」
魔物が、ゆっくりと振り返ろうとしました。
『……背後?』
「いません……」
『声ガスル』
「気のせいです……」
『今、我ノ股下ヲ通ッタカ』
「できれば、そこは確認しないでほしい……」
『虫王ヨ……』
「虫王じゃないよ……」
『我ノ股下ヲ……』
「二回言わないで……」
背後には、さっき見えた岩陰がありました。
私はそこへ急いで隠れようとしました。
その時です。
魔物の背中に、赤黒く光る丸いものが見えました。
背骨の真ん中。
岩のような皮膚の隙間に、古い封印文字が絡みついた、心臓みたいな結晶。
どくん。
結晶が脈打ちました。
「……なに、あれ」
『封印核です』
イオナお姉ちゃんの声が低くなりました。
「封印核……」
『あの懲罰個体を封印残滓に接続している中枢です』
「言葉がまだ怖い」
『破壊すれば、行動停止する可能性があります』
「破壊……」
私はポケットの中のウィルソンを握りました。
『おぅ! カエデ! 今だ!!』
「今なの……?」
『背中の赤いやつ! あれ、絶対に当てたら気持ちいい音がするぞ!!』
「基準が音!!」
『投げろ! カエデ! お前の投げは世界一だ!!』
「世界一は、ちょっと広すぎるよ……」
『早くしろ!!チャンスだぞ!!』
魔物の背中の封印核が、また脈打ちました。
どくん。
どくん。
赤黒い光が、通路の壁を照らします。
『カエデ』
イオナお姉ちゃんの声が、静かに響きました。
『正面戦闘は不可能です。今しかありません』
「でも、背後から投げたら……」
『はい』
「また、卑怯って言われる……?」
『おそらく』
「爽やかさも足りない……?」
『かなり足りません』
「経験値は……?」
『期待しない方がいいでしょう』
「そっか……」
私は少しだけ考えました。
経験値は欲しいです。
レベルも上がってほしいです。
できれば、ちゃんと勇者らしくなりたいです。
でも。
今は、それよりも。
「食べられたくないな……」
『それで十分です』
イオナお姉ちゃんが言いました。
『生存は、最優先事項です』
『そうだぜ!!』
ウィルソンが叫びました。
『生きてりゃ飯も食える!! 投げろ、カエデ!!』
「ご飯で説得してきた……」
少しだけ、効きました。
私は岩陰から身を乗り出しました。
手の中のウィルソンを握り直します。
冷たい石の感触。
いつもの重さ。
いつもの声。
『まっすぐだ! 迷うな!』
「うん……」
『腕を振れ! 心を燃やせ!』
「燃やすのは怖いから、少し温めるくらいで……」
『いけぇぇぇぇぇ!!』
私は、魔物の背中に向かってウィルソンを投げました。
びゅんっ。
小さな石が、暗闇をまっすぐ裂いて飛んでいきます。
そして。
コォォォォンッ!!
気持ちいい音がしました。
『ほらな!! そしてアバよ!! ヴァルハラで待ってるぜ!!』
ウィルソンが砕け散りながら叫びました。
封印核に命中した石は、赤黒い光を砕きました。
封印文字がばらばらにほどけ、魔物の背中から光のひびが全身へ走ります。
「ウィルソン……」
私は少しだけ悲しくなりました。
でも、奈落の底には石がたくさん落ちています。
私は足元にあった、良い形の石を拾いました。
「……ウィルソン」
『おぅ! カエデ! 呼んだか!!』
「引き継ぎが早い……」
『ナ……』
魔物が動きを止めました。
『背後……カラ……』
「ごめんなさい……」
『虫王……卑怯……』
「否定しづらい……」
魔物の身体が、ゆっくり崩れ始めました。
岩の肩が砕け、爪が砂になり、赤黒い光が霧のように薄れていきます。
『我ノ……千年……』
「それは、本当にごめん……」
『起コサレ……虫……鼻ニ入リ……』
「それは、ほんとに嫌だったと思う……」
『見失イ……股下……』
「できれば、それは忘れてほしい……」
『倒サレ……石……』
「並べると、すごく嫌だね……」
『厳カ……ドコ……』
最後にそう呟いて、巨大な魔物は光の粒になって消えました。
しん、と静まり返りました。
そして。
ピコン。
嫌な音がしました。
「……来た」
【経験値の算定をします】
「はい……」
【封印残滓接続個体の行動停止を確認】
「うん……」
【攻撃手段:背後からの投擲】
「うん……」
【攻撃位置:敵の死角】
「うん……」
【攻撃対象:背面封印核】
「うん……」
【戦闘態度:逃走目的】
「うん……」
【総合判定】
ログが一瞬止まりました。
私は少しだけ祈りました。
今度こそ。
ほんの少しでいいから。
経験値が、入りますように。
【極めて完成度の高い暗殺です】
「……そっち……」
【勇者としての正面性、宣戦布告、爽やかさ、正々堂々感が確認できません】
「正々堂々感……」
【獲得経験値:0】
「やっぱり……」
私はその場にしゃがみ込みました。
レベルは上がりませんでした。
でも、生き残りました。
イオナお姉ちゃんも、たぶん誇らしそうです。
『見事です、カエデ』
やっぱり誇らしそうでした。
『背後への移動、死角確保、弱点破壊。完璧です』
「褒められるほど、勇者から遠ざかってる気がする……」
『最高の暗殺勇者です』
「その二つ、混ぜていい言葉なの……?」
『次も背中です。カエデ。』
「イオナお姉ちゃん……落ち着いて?」
私はため息をつきました。
お腹が鳴りました。
ぐう。
「……戦ったら、お腹空いた」
*
奈落の底は、まだ暗いです。
みんなとも、まだ合流できていません。
道も、よく分かりません。
でも、少しだけ分かったことがあります。
私は勇者です。
たぶん、勇者です。
でも、私が勇者らしく戦おうとすると、だいたい失敗します。
そして、怖くて逃げようとすると。
なぜか、敵の背後にいます。
……この方向で強くなっていいのかな。
そう思いながら、私はポケットを探りました。
「……あれ」
指先に、リモコンが触れました。
そういえば、異世界に来た時からずっと持っているやつです。
何の役に立つのか分かりません。
でも、捨てるのもなんだか怖いので、ずっと持っていました。
『カエデ。それは?』
イオナお姉ちゃんが尋ねました。
「リモコン……」
『武器ですか』
「たぶん、テレビを消すもの……」
『テレビとは』
「説明が難しい……」
私はなんとなく、電源ボタンを押しました。
ピッ。
何も起きません。
「まあ、そうだよね……」
もう一回押しました。
ピッ。
やっぱり何も起きません。
少し安心しました。
安心したので、他のボタンも押してみました。
ピッ。
ピピッ。
ピピピッ。
「……何も起きないね」
『何も起きないなら、なぜ押すのですか』
「なんとなく……」
『カエデ、なんとなくで古代機構を刺激するのは危険です』
「でも、これはリモコンだよ……」
私は、なんとなくボタンを連打しました。
ピピピピピピピッ。
その瞬間。
遠くの通路の奥から、聞き覚えのある悲鳴が響きました。
「ぎゃあああああああああ!? なんで空から金ダライがドンドン落ちてくるのぉぉぉ!?」
「空間のチャンネル変えたの誰だぁああああああ!! カエデでしょぉぉぉぉぉぉ!?」
「聖女様、落ち着いてください!!」
私は、ぴたりと手を止めました。
「……ツバキ?」
声のした方角から、何かが派手に落ちる音がしました。
ガァンッ!
ゴォンッ!
カァンッ!
「…………」
私はリモコンを見ました。
リモコンは、何も言いません。
ただ、ボタンだけが静かに並んでいます。
「今のは、たぶん関係ないよね……」
私は、そっとリモコンをポケットに戻しました。
ピコン。
【遠隔干渉を確認】
「関係あった」
勇者って、やっぱり難しいです。
(つづく)