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「……お邪魔します」
若井は、コンビニ袋を握りしめたまま、
301号室の敷居を跨いだ。
自分の部屋と左右対称の間取りのはずなのに、空気の匂いが全く違う。
微かに漂うシダーウッドの香水と、生活感のない、洗練されたインテリア。
「適当に座って。
あ、ビールは冷蔵庫入れといてくれる?」
元貴は、慣れた手つきでパーカーを脱ぎ捨て、
下に着ていた薄手のニット姿になった。
鎖骨が覗く首筋や、少し長めの髪をかき上げる仕草。
若井は、それがいちいち「年上の男」
としての余裕に見えて、目のやり場に困ってしまう。
「……元貴さん?……って、おいくつなんですか?」
「ん? 僕? 若井くんよりは、少しだけお兄さんかな。2つか、3つか……。それとも、もっと?」
元貴は冷蔵庫からビールを取り出し、
プシュッと小気味いい音を立てた。
「敬語、いらないよ。お隣さんなんだからさ」
ソファに深く腰掛けた元貴は、
グラスも使わずにビールを一口飲むと、
隣に座るよう若井を手招きした。
若井は、心臓の音が元貴に聞こえてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしながら、こわごわと隣に腰を下ろす。
「……昨日さ、ベランダで言ったこと。覚えてる?」
「……はい。……癒やされるって、言いました」
「そう。……正直、嬉しかったよ。
僕、仕事で歌ってるわけじゃないからさ。
誰かに届いてるなんて、思ってもみなかった」
元貴の瞳が、少しだけ真剣な色を帯びる。
「……リクエスト、何がいい?」
「え、……じゃあ、……昨日歌ってた、
あの曲の続きを」
若井が答えると、元貴は少しだけ驚いたように目を見開き、それから優しく目を細めた。
「……耳がいいね、若井くん」
元貴はギターを手に取ることもなく、ただ若井の目を見つめたまま、静かに歌い出した。
ベランダ越しとは違う、喉の震えや、息を吸い込む音までが聞こえる距離。
「——……♪」
その歌声は、若井の疲れ切った心に、
温かい液体を注ぎ込むように染み渡っていく。
歌い終えた元貴が、
不意に若井の肩に頭を預けてきた。
「……ねえ、若井くん」
「……はい」
「……君、すごくいい匂いがする。
……仕事頑張った人の、匂いだ」
年上の余裕で翻弄していたはずの元貴の声が、
少しだけ甘く掠れる。
若井の右腕に、元貴の柔らかな髪が触れる。
「癒やしてあげようか?」
耳元で囁かれたその言葉に、若井の理性が、音を立てて崩れそうになった。
コメント
2件
なんか大人っぽさが見える… かっこいい元貴さん…!!!
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