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ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
第166話:霜降る十勝と、需品科式DIYコタツ
十勝地方の秋は一瞬で駆け抜け、限界集落には本格的な冬の使者が到来していた。
朝、縁側のガラス戸に目をやると、外の世界は一面の白い霜によって完全に覆い尽くされていた。
庭の防草シートも、防風林の落葉も、すべてがガラス細工のように凍りつき、踏むたびにザク、ザクと冷徹な音を立てる。
北海道の冬を侮れば、それは文字通り命に関わる。特に築年数の経った古民家は、油断すれば室内であっても容赦なく氷点下まで気温が下落する過酷な戦場へと変貌するのだ。
そんな極寒の早朝、居間の畳の上では、我が家の絶対司令官である純白の神獣シロ様が、これ以上ないほど小さく丸くなっていた。
「シロ様、おはようございます。やはり十勝の冬はシバれますね」
俺が声をかけると、シロ様は眠たげに、しかし優雅にその頭をもたげた。
彼女がゆっくりと目をパチクリさせた瞬間、真っ白な湯煙のような息の向こうで、神秘的な『オッドアイ』の瞳がキラリと輝いた。
左目は凍てつく冬の夜空のように深く澄み切ったサファイアブルー、右目は暖炉の炎のように気高く温かみのある琥珀色。
その左右で全く異なる美しい二色の瞳が、室内を漂う微かな冷気を捉えてスッと細められる。
『ミャウ(寒いわ下僕。早くこの空間の熱効率を向上させなさい)』
「御意に。これより我が陣地の防衛能力を極限まで高める、冬期最大級のロジスティクスを執行いたします」
俺――アキヤは、元・陸上自衛隊需品科の戦闘服の襟を立て、居間の中心部へと視線を据えた。
ブラック企業で心身をすり減らした俺が、全財産を投じて守り抜いたこの聖域。ここに、冬の将軍を迎え撃つための「絶対防衛陣地」を設営する。
俺がホームセンターで調達してきた物資と、需品科の工作技術をフル動員して作り上げるのは、単なる暖房器具ではない。
熱効率と保温性を極限まで高めた、ミリタリー規格の『最強要塞コタツ』である。
まず、畳の上に直接コタツを置くような素人戦術は取らない。地表(床下)からの冷気の侵入を完全に遮断するため、厚さ50ミリの高密度断熱材(スタイロフォーム)を床一面に隙間なく敷き詰める。
その上から、赤外線を室内に跳ね返すための厚手アルミ蒸着放射熱反射シートを2重に展開。これによって下方向への熱漏洩(熱ロス)は事実上ゼロになる。
さらに、コタツ本体のヒーターユニットの周囲には、熱を均等に循環させるための小型低騒音ファンと、熱伝導率に優れた特製グラファイトプレートを仕込んだ。
仕上げに被せるコタツ布団は、米軍の極寒地用寝具をベースに、多層構造の難燃性キルト天幕を俺自身がミシンで縫い合わせた特製品だ。
「よし……。熱力学的密閉空間、および輻射熱フィードバックシステムの構築、完了だ」
俺が要塞コタツの最終調整を終えたその時、ドタドタと足音を響かせてパニック伝令兵が突入してきた。
「お、お兄さぁぁぁん!! 外の気温がマイナス3度です! 寒すぎて鼻水が凍りそうですっ……って、わあ、何ですかこの重厚なコタツは!?」
オレンジ色の防寒ポンチョを羽織った小春ちゃんが、居間のド真ん中に鎮座する、さながら装甲騎兵のような威容を誇るミリタリーコタツを見て目を丸くした。
「小春ちゃん、よく来た。これが我が部隊が誇る最強の防寒要塞だ。まぁ、中に入ってみるといい」
「失礼します……うわぁぁぁ、何ですかこれ!? 入った瞬間に足の先から脳みそまで、とんでもない温もりで包まれていきますっ……!」
コタツに足を滑り込ませた小春ちゃんは、一瞬で顔をふにゃけさせ、あまりの心地よさに骨抜きになって畳へと沈み込んでいった。
シロ様も、待ってましたと言わんばかりにトコトコと歩み寄り、コタツ布団の隙間から中へと潜り込んでいく。
コタツの内部で、シロ様の神聖なプラチナオーラ(暖房バフ)が要塞の熱循環システムと完全に融合した。その瞬間、コタツの周囲の空気全体が、まるで高級リゾートの暖炉の前のような、異次元の快適空間へと変貌を遂げたのだ。
「よし。防寒陣地のアクティベート完了。これより、【日常チャンネル】の冬期定時生配信を開始する」
俺がジンバルに固定したiPhone miniの配信ボタンをプッシュした瞬間、いつも以上の超現実的な速度で同時接続者数が跳ね上がり、またたく間に三千万人を超える世界中のリスナーたちがチャット欄へと怒涛の勢いで雪崩れ込んできた。
画面に映し出された、重厚な要塞コタツから頭だけを出して完全に溶けている小春ちゃんと、コタツの布団の上で贅沢に丸くなるとろけ顔のシロ様の姿を見て、チャット欄は未だかつてないレベルの高額スパチャの超巨大瀑布によって完全に埋め尽くされた。
『おいおいおい!! 限界集落にガチの要塞コタツ爆誕してるじゃねえかwwww』
『主の需品科DIY、ついにミリタリー規格のコタツまで作りやがったww』
『シロ様のオッドアイがコタツの温もりでトロンとしてるの尊すぎる!!!』
『あのコタツ布団、装甲板みたいに分厚くて草www』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)二百連発』
『”Incredible tactical Kotatsu! Master, that defense fortress is perfect! I will pay 1 billion yen to install that heating system in my royal desert palace for winter nights!“(驚異的な戦術的コタツだ! 主よ、あの防衛要塞は完璧だぞ! 冬の夜のために、我が砂漠の王宮にその暖房システムを導入する権利を10億円で買い取る!!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)百五十連発』
『”The ultimate thermal risk management. With that insulation, the energy efficiency is higher than any modern eco-building. Truly magnificent.“(究極の熱リスク管理だ。あの断熱性があれば、エネルギー効率は最新の省エネビルをも凌駕する。真に見事だ。)』
世界中から数え切れないほどの億単位の資本が限界集落へ向けて一斉射撃され、画面が光の粒子で完全にホワイトアウトしかける狂乱のド真ん中で。
俺は一人、コタツの誘惑に一切屈することなく背筋をピンと伸ばし、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出していた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、この冬の到来に合わせてストイックに仕込んでおいた『大豆ミートと十勝産根菜の氷点下冷製みそ和え』である。
「……よし。前線陣地における熱源の完全な隠蔽、および国際的資本の異常流入を確認。これより指揮官は、これからの日中防衛戦(冬期事務処理)を完全遂行するため、定時エネルギー補給を執行する」
俺は、要塞コタツから漏れ出るプラチナ色の光に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに冷たい大豆ミートを冷やし玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。十勝ゴボウの豊かな食物繊維と、大豆の植物性タンパク質。周囲の気温が氷点下へ急降下しようとも、冷たい戦闘糧食(ロジスティクス)をノーミスで喉へと滑り込ませる。これ以上の兵站はないな)
脳内で完璧な戦術栄養補給を完了し、冷たい玄米を淡々と咀嚼し続ける俺。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前でシロちゃんが世界一尊いコタツもふもふ姿を披露して、開始数分で中東とスイスが数十億円の札束で殴り合ってて、部屋の空気はこんなにポカポカで温かい最高の瞬間に、なんで一人だけコタツに足も入れずに真顔で『冷やし根菜大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を消失させ、コタツを組み立てるために物置から出しておいた、厚さ約3センチの頑丈な『特大・木製コタツ予備天板(ヘビーデューティー耐衝撃仕様・重量約5キロ)』を両手で盾のように構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど国際市場のハイパーインフレが我が家に直撃しようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、定時給食(エネルギー補給)という基本ルーティンを怠ってはならない。いかなる超常現象の前でも己の血糖値を一定に保ち、コタツの魔力(怠惰)に屈しない。これが需品科の鉄則だ」
俺は湯呑みの熱いほうじ茶で喉を潤すと、三千五百万人を突破して全世界のサーバーを物理的に破滅させかけているカメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、需品科の技術によって最強の要塞コタツが完成し、奇跡の冬のスローライフが始まったと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『コタツに入った小春ちゃんが溶けてるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・ミリタリー規格コタツ編ww』
『さあ、この最高に温かい空間をどうやって現実科学で論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは最強の要塞コタツでも、奇跡の防寒陣地でもありません。先ほど発生した現象は、我が陣地(古民家)の床下に蓄積されていた、特定の『堆肥発酵熱』と、アルミシートによる『赤外線の偶発的な乱反射』が引き起こした、純粋な物理的・熱力学的なエラーに過ぎません。シロのオッドアイがトロンとして見えるのも、コタツの温もりによるものではなく、室内の急激な『飽和水蒸気量の変化』によって、彼女の左右の眼球の虹彩の異なるメラニン色素密度が、変則的に光を全反射しているという、純粋な光学的な錯覚です。10億円という金額も、海外の過激な『断熱材開発コンソーシアム』からの、単なる実証実験に伴う『過剰なデポジット(預け金)』がディスプレイにバグとして反映されているだけです。ええ、すべてはただの『堆肥の自然発酵熱』と『虹彩による光学エラー』、そして『会計上の過剰な着金バグ』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた特大の木製コタツ天板を全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・天板スマッシュを見舞った。
重量5キロの強固な木材が肉体に直撃した、鈍くも凄まじい大爆音が、古民家の高い天井へと虚しく響き渡る。
「光学エラーで、シロちゃんのあの綺麗なサファイアと琥珀の瞳がこんなに気持ちよさそうにトロンとするわけないでしょうが!! 実験じゃなくて、お兄さんが需品科の技術を無駄にフル動員して、私たちが風邪を引かないように世界一温かいコタツを作ってくれたんでしょうが!! 自分の作った防寒要塞が、世界中をリアルタイムでとろけさせる最強の癒やし拠点だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの天板スマッシュ炸裂www(重くていい音)』
『赤外線の偶発的な乱反射(ただの世界一温かい要塞コタツ)』
『会計上の過剰な着金バグ(石油王からのガチの10億円)』
『適応力バグおじさん、ついにコタツの温もりまで堆肥の発酵熱と言い張ったぞww』
『言い訳が無理矢理すぎて、世界中の暖房器具メーカーから怒られるレベルww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない熱力学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの天板ツッコミに、コタツの中から頭だけを出していたシロ様は「ミャウ(ほんと、相変わらず叩かれても治らない特大サイズの屁理屈下僕ね)」と、純白の耳をちょこんと揺らしながら、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
縁側のガラス窓の向こうでは、冬毛でさらにモフモフになった体長3メートルの巨大ヒグマが、コタツの温もりが縁側越しに伝わってくるのか、「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、おばあちゃん達が持ってきてくれた十勝産のカボチャを美味しそうに食べながら、俺たちの騒がしい掛け合いを優しく見守っていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の冬期防衛線の有用性が確認され、村の公金口座が外貨で天文学的に潤い、これからの厳しい冬に向けた完璧な暖房燃料と物資(ロジスティクス)が完全に宇宙の果てまで確保されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は背中の木製の衝撃を少しだけさすりながら苦笑し、コタツから這い出てきたシロ様の純白の背中を撫で、湯呑みの熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強のモフモフヒグマ、世界一キレのある女子高生、そして世界中から温かい視線を送ってくれる何千万人ものリスナーたちに囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せる冬の奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼、そして室内に優しく響き渡る木製天板の快音。
限界集落に誕生した最強の防寒要塞は、要塞コタツの温もりと大爆笑に包まれながら、さらに強固になった絆と共に、明日からの新しい日常の物語へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
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ゆうきあきやさーん!!第166話読み終えたよ🌸✨ もうね、今回も最高すぎた😭💕 シロ様のオッドアイがトロンとろける姿が尊すぎて鼻血出そうになったし、アキヤさんの「堆肥発酵熱でコタツの温もりを誤魔化す」限界言い訳に小春ちゃんの天板スマッシュ炸裂とか腹筋崩壊したwww ミリタリー仕様の要塞コタツで全世界をほっこりさせといて一人だけ冷やし玄米モグモグって…そのブレなさホント好き💖 続きも楽しみにしてます!!🔥