そんなお客さん大好きタイプのネコさんが嫌うって、よっぽどうるさい人なんだろう。
「あ」
ひとつ、大事なことを聞き忘れてた。
「お客さん、お散歩もおうちの中でしてますか?」
最近は、ネコは家の中で飼おう! 外に出したりしちゃダメ! ってよく言われてるけど、まだまだ自由に外に行けるにゃんこもいるらしい。
もし外にお散歩に行けるなら、覚えていないだけで外で事故にあったのかもしれない。
私の質問に、ネコさんはニッコリ笑った。
「ええ。お外につれて行かれるときもあるけど、いつも大きなカバンに入れられるのよ。そのときは決まって痛いことをされるものだから、あまり外には行きたくないの。つい最近なんですよ、地面にもあるって知ったのは。ジャリッとしてフワッとして、いろんな地面を走るのは楽しいんですけれど」
「そうですか」
あー、これって病院でワクチン打たれるときなんだろうなぁ。
お家でゆっくり生きているネコさんなら、やっぱり外遊びなんてしてないのか。
……でもこのネコさん、本当に可愛がられてるんだなぁ。
ずっと笑顔で、なんだかゆったりしてる。イライラピリピリしている感じがどこにもない。
「家族が優しいせいもあるんだろうけど、お客さんがいい子でいるから全力で愛されてるんだろうなぁ。いいなぁ、叱られたりしたことなさそうで」
「そうですねぇ。家族に叱られたなんて、子猫のころくらい──いえ、違ったかしら?」
ネコさんが首をかしげた。
「えぇと、いつだかはわかりませんが、お父さんに大きな声で呼ばれたことがある気がします。普段お父さん、私を怒鳴ったりしないのだけれど……なんでだったかしら。私、それをずいぶん遠くで聞いた気がするんだけれど」
──なんだか、少し引っかかる気がする。
きっとネコさんも同じことを考えているんだろう。なんだか戸惑っているように見えた。
「わおんっ」
シャバラが小さく鳴いた。
「なぁに? シャバラ」
一生懸命、鼻先でマヌさんを押している。
「読めってこと?」
なにが起こるかわからないけど、とにかくマヌさんを開いてみる。
☆ 違和感はっけん ☆
お客さまとのコミュニケーションは完璧ですね! たくさんお話しできていて素晴らしいです!
今ゆかりさんは、お客さまのお話に「なんだかヘンだな?」と思っていますね。
では、どこに違和感を覚えたんでしょう。
少し書き出してみましょう。
・お客さまは家の中でお昼寝していた。いいお天気だったけど、熱中症ではない
・寝ているときに、うるさい人が来て起きた。この人が来ると家の中がうるさくなる
・家の外に出るときはいつもカバンに入れられる。痛いことをされるから好きではない
・地面を走るのは好き。いろんな地面があって楽しい
・家族からは可愛がられているが、最近お父さんに大きな声を出された気がする
勝手に文字が浮かんでくる時点で普通じゃないんだけど、マヌさん、どういう仕組みになってるんだろう。
わからないけど、いくらなんでも便利すぎる。
自分でメモをしなくても勝手に記録してくれるなんて、すごすぎない?
「でも、なにが変なんだろう……」
マヌさんが書き出してくれたメモを見ながら、うーんと声が出る。
なにかが変なのは確かなんだけど、どこが変なのかは、うまくわからない。
そのとき、どこかの薬棚がガシャンと鳴った。
「ちょ、なに!?」
あわてて立ち上がって見てみる。どうも、シュヤーマがお店の中を走り回ってるみたいだ。
「こらシュヤーマ、どうしたの急に! そんなに走ったら、お店の中がめちゃくちゃに……!」
薬棚がガタガタ揺れて、心配になるくらいお店の中がうるさい。ネコさんも、怯えた顔で耳を倒している。
どこかに逃げ場がないか、不安そうにお店の中を見回していた。
……あれ?
「うるさい人なら、その人だけがうるさいだけで──家の中までうるさいなんてこと、なかなかないんじゃない?」
それこそシュヤーマみたいに、走り回って家具を揺らしたりしないかぎり。
「っ、シュヤーマ、もういいの! ありがとう、分かった気がする!」
叫ぶと、シュヤーマは嘘みたいにおとなしくなって歩いてきた。むしろ、一仕事終えたドヤ顔にも見える。
シャバラもシュヤーマも、きっとヒントをくれているんだ。
「あの、お客さん。もしかしてうるさい人って、おうちの中でなにか作業をしていました? 例えば……なにか切ったり、叩いたり」
「ああ、ええそうですね。お母さんがいつも私のご飯を入れてくれる場所をなくしたり、別のものを持ってきたり──」
「ちなみに、お家に庭はありますか?」
「お庭……よくわからないわ」
「そうですか。──わかりました」
やっぱり。
たぶんその人は、リフォームの業者さんだったんだ。だからその人が来ると、家の中がうるさくなる。
それでこのネコさんはきっと、耐えられなくて外に逃げたんだろう。
キッチンのリフォームなら、かなり大きなものも運ばなきゃいけない。そのとき、足元をすり抜けたんじゃないかな。
でなきゃ、絶対おかしいんだ。
外に出るときはいつもキャリーで運ばれていたネコさんが、「地面を走るのが好き」だなんて。
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