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なにこの幸せな空間。好き。 遂にかぁ〜。続き楽しみにしています。
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M_Yuzu
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ロードサイドは瑠璃色に染まりつつあった。
街灯がポツポツと点き始め、対向車のヘッドライトも少しずつ増えていく。
西の空には沈みゆく太陽がいて、まだほんのりとオレンジ色を残していた。
1日の終わりの始まる時間。なぜだか少しセンチメンタルな気分になる。
流れる車窓の景色を見ながら、阿部は何度目かのため息をついた。
「阿部」
苦笑しながらも、なだめるように岩本が呼ぶ。
「まだこの後、飯行くから」
優しく言って阿部の肩を撫でる。
とはいえ、特別な店を予約しているわけではない。国道沿いの、広い駐車場があるチェーン店に、寄ることになっていた。
郊外に出かけた時の2人の行きつけだ。
「でも、それで終わりじゃん」
阿部は外を見たまま小さく呟いた。
不満そうに。名残惜しそうに。
「………帰りたくない」
言わないつもりだった。なのに、ぽろりと本音が溢れてしまった。
2ヶ月ぶりに会えたかと思えば、一緒にいられるのは数時間。
明日は2人とも早朝から予定が組まれており、甘い夜もお預けだ。
「俺も同じ気持ちだけどさ、仕方ないよ」
岩本は優しく言う。阿部を帰したくない。一晩中抱いて、翌朝も一緒にいたい。そう思っているけれど、そう出来ないのも理解している。
だからこそ、阿部の肩を撫でる手に、いつもより少しだけ力を込めた。
「次って、いつ会えるかな」
阿部がぽつりと口にした。
「ゆっくり会えるのは、だいぶ先だな」
岩本はなるべく感情を乗せず、淡々と返す。
阿部はまた一つため息をついた。
今なら、終電間近の改札口で抱き合っていた、あのカップルの気持ちが良くわかる。
「………あのさ」
信号で停車した。岩本が何か言いかけて口を閉じる。一度息を吸い、ハンドルを握り直した。
「……一緒に、住む?」
「へ?」
窓の外を見ていた阿部は、その言葉に驚いて岩本を振り返る。きょとんとする阿部を岩本も見た。
「俺と、ひかるが?一緒に?」
「うん、どう?」
ちょっと緊張気味に岩本は尋ねる。
一瞬の間の後、暗く沈んでいた阿部の顔がパッと明るくなる。まるで夕暮れの空に、朝が戻って来たみたいだった
「いいの?」
ちょっと前のめりになって聞く。
「本当に?冗談じゃなくて?」
「本気。…ちょっと前から、考えてた」
信号が青に変わる。岩本はアクセルを踏み込んで続けた。
「まあ、こういう仕事だし、生活時間も合わないこともあるかもだけど、帰るところが同じなら、顔ぐらい見れるじゃん」
少し笑って言う。
「またね、って別れなくていいし、おかえり、って言える」
その言葉に阿部の胸は、ぎゅっと締め付けられる。今まで漠然と感じていた寂しさがサッと溶けて、代わりに温かい感情が湧いてきた。
嬉しい。
「住みたい」
阿部は小さく呟いた。
「ひかると住みたい」
もう一度、今度は大きくはっきりと言う。
その声は嬉しそうに弾んでいて、岩本も釣られるように微笑んだ。
「よかった」
ずっと考えていたが、言い出せずにいたことが受け入れられて、岩本は安堵した。
「断られたらどうしようかと思った」
「俺が断ると思う?」
阿部は心外だという風に返す。
「いや、阿部って合理的だからさ。デメリットとか並べて、断られるかと思って」
「まあ、物事にはメリット、デメリットがあるけどさ」
岩本の言葉に阿部は苦笑して言った。
「でもさ、ひかるとのことは、理屈じゃないんだよ」
そう。理屈じゃない。その言葉に岩本は黙って阿部を見た。
「一緒にいて楽しいとか、話ができて嬉しいとか。そういうのって、いちいち計算して決めることじゃ無いでしょ」
阿部は岩本を見て、照れくさそうに微笑んだ。
「だから『一緒に住みたい』それだけ」
岩本はちらりと阿部を見る。目が合って、照れくさそうに笑った。
「ありがと」
小さく言って、阿部の肩を一撫でした。
ふふ、と阿部は笑う。今日はずっと、帰ることばかり気にして暗い気持ちに支配されていたが、今は晴々とした明るい気分だった。
「まずは部屋探しだな」
お互いの部屋は、2人で住むとなると手狭だ。新たに部屋を借りなくてはいけない。
「譲れないポイントある?」
岩本が尋ねた。阿部は、うーん、としばし考える。
「本棚を置くスペースがあるといいなぁ」
そして言った。真っ先に本棚が出てくるあたりが、いかにも阿部らしくて、岩本は思わず微笑んだ。
「あとは、主寝室は広めがいい。大きいベッド入れたい」
阿部の言葉に、自室のベッドを思い出す。確かに2人で寝ると、少々窮屈だ。これを機に大きめのベッドを入れるのもいいかもしれないと思った。
「家具も新しくしよう」
心機一転、部屋の雰囲気を全部変えるのも悪くない。
「…一人暮らし始める時も楽しかったけど、二人暮らしの準備は、もっと楽しい気がする」
阿部が笑顔で言った。
「相談できるし、しかも相手がひかるだなんて、最高だよ」
再びの赤信号で、岩本は阿部を見た。さっきまで帰りたくないと拗ねていた相手と同一人物と思えないくらい楽しそうで、岩本も自然と笑顔になる。しみじみと幸せを感じた。
再び車は動き出す。
ロードサイドの店にも夜間照明が点き出して、夕闇はいよいよ濃くなってきた。夕焼けはもう空の端に消えて、わずかにオレンジの名残を残すのみだ。
けれど2人の間には、さっきまであった暗い雰囲気はない。今日は終わるが、この先の近い未来の約束が、前向きな気持ちにしてくれていた。
「これから色々相談するんだから、俺のLINEちゃんと見てよ?」
「わかった」
岩本の言葉に、阿部は勢い込んで頷く。
「次に会えるときに、内見できるようにしていこう」
「うん」
車はゆっくりと、レストランの駐車場に入って行った。
「今、気になった物件、URL送っといた。後で見て」
阿部が言った。
「さすが、行動早い」
岩本は驚き、笑いながらエンジンを切った。
車内の音楽が消える。
けれど、その静けさはもう寂しくなかった。
これから始まる二人の暮らしを思えば、胸の中は楽しみで満たされている。
二人は同時にドアを開け、夜の温かい空気の中へと踏み出した。