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M_Yuzu
626
待ちに待った内見の日。
岩本が少し遅れて現地に到着すると、既に阿部はそこにいた。
「阿部、お待たせ。ごめん、おそ…く、なっ…て…?」
声をかけて歩み寄り、岩本はポカンとした。
阿部の隣に目黒がいる。しかもその肩に馴れ馴れしく手を置いて。
「あ、岩本くん」
遅いよ、と目黒は言う。阿部は困ったような複雑な顔で、岩本に笑いかけた。
「え?………何で?」
岩本は当然の疑問をぶつける。と、その時、
「えー、いいな。新築だろ、ここ」
背後から聞き覚えのある声が飛んできた。慌てて振り返って見れば、佐久間が歩いてこちらへ向かってきていた。
他のメンバー全員を引き連れて。
「あ、照、おはよ」
疑問符で頭がいっぱいの岩本に、佐久間が軽く挨拶する。
「ひかる、今日の内見の予定、共有スケジュールの方に入れてたよ…」
阿部が苦笑しながら言った。
その言葉に岩本はハッとする。
そう言えば先日、スマホからスケジュールを登録した。
——皆が見るスケジュールの方に。
岩本は天を仰いだ。
やった。
盛大にやらかした。
自分で埋めた地雷を、自分で踏んでいる。
「俺も昨日、目黒から迎えに行くからって連絡が来て、気づいた」
「照がお知らせしてくれたから、これは行かねば!って、みんな集まったんだぞ」
阿部の言葉に続けて、佐久間が胸を張る。
「いや…お知らせしたわけじゃねーし…。つか、遠慮しろ」
岩本が呆れたように言うが、誰一人として帰る気配がない。
そうこうしているうちに、不動産屋の営業担当が到着した。彼は、集まっている9人の男性に一瞬たじろいだが、すぐ営業スマイルに戻った。
「本日はよろしくお願いします。…皆様は、ご親族…でいらっしゃいますか?」
「家族です!」
佐久間が元気よく割り込んでくる。
「違います。仕事仲間です」
その佐久間を押し退けて、岩本がきっぱりと言った。
「まあ、家族みたいなもんです」
深澤がしれっと続ける。営業担当は一瞬、困惑した表情をしたが、すぐに笑顔に戻って”承知いたしました”と処理した。
ではご案内します、と営業担当はエントランスのオートロックを解除した。ドアが開くと同時に、
「高級感あるねー」
「広っ」
「エレベーター全員乗れる?」
「乗れるやろ」
「何階?」
「高層階?やっぱり」
皆が我先にとエントランスになだれ込んで、口々に言う。
「お前らうるさいよ。…で、何階ですか?」
深澤が騒ぐメンバーを嗜めて、営業担当に尋ねた。
営業担当は、ちらりと岩本の様子をうかがった後、本日は最上階のお部屋を、と答えた。
「最上階だってよ」
エレベーターに向かいながら深澤は言う。最上階と聞いて沸く彼らを見て、岩本は頭を抱えた。
こんなはずではなかった。
本来なら阿部と二人でゆっくり、これからの生活に想いを馳せながら、内見するはずだったのだ。なのに団体ツアー、しかも誰が契約者かわからない有様。
岩本は、自分の凡ミスを呪った。
「ほら、行くぞー」
エレベーターの前で佐久間が呼ぶ。岩本は一つため息をつき、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの中で、”最上階には一戸のみです”と説明されると、全員の期待は一気に高まる。
恭しく営業担当がドアを開けた。
「わー、広い!」
ラウールが声を上げると、真っ先に靴を脱いで部屋に入った。岩本と阿部を差し置き、他のメンバーも続く。
「スリッパ履けって」
阿部が苦笑しながら、皆に促す。が、誰も話を聞いていない。彼らは好き勝手に部屋に散って、あれやこれやを見始めていた。
「ねー、リビング広い!踊れるよ!」
なぜか踊ろうとするラウール。
「風呂、広いな。2人でも余裕で入れんじゃん」
浴室に直行し、遠慮のない発言をする渡辺。
「ここに長いテーブル置いて、みんなでタコパしよや」
部屋の写真を撮りながら、タコパを計画する向井。
「冷蔵庫をここに置いて…オーブンがここにあるから…」
キッチンでウロウロと動線を確認する宮舘。
「この寝室なら、キングサイズのベッドもいけるね。ね、阿部ちゃん」
主寝室らしき部屋で彼氏気取りで、まるで自分が住むかのような目黒。
「ねー、ここコレクションルームにしたい!俺の嫁住まわせたい!」
嫁まで連れてこようとする佐久間。
「ウォークインクローゼット、めっちゃ良いな。服、無限にかけられるじゃん」
収納に感嘆の声を上げる深澤。
皆が自分の見たいところを好きにうろつく。収拾がつかない。
岩本と阿部を誰も気にしていない。いや、目黒だけは阿部にぴたりとくっついていた。かと言って、有益なアドバイスが出るわけでもなく、彼は擬似彼氏感を楽しんでいる。
営業担当は、誰に何を説明すべきかわからなくなり、リビングの真ん中に立ち尽くした。
「あべちゃん、見ろよ!見晴らし超良い!」
佐久間がカーテンを一気に開けて声を上げると、全員が窓に注目した。
高層階ならではの遮るものが何もない開放的な風景。少し離れたところにはビル群があり、夜は夜景も楽しめそうだ。
「今日は生憎ですが、冬など天気が良い日は、富士山も見えますよ」
営業担当が笑顔で、ようやく仕事をした。
「景色いいね。ね、ひかる」
窓辺に近付き阿部が微笑む。
「そうだね」
岩本は隣に並び、微笑み返した。
そう。こういう和やかな内見がしたいのだ。
しかし…。
「富士山どっちに見えるん?」
「方角的にあっちでしょ」
向井とラウールが、窓に張り付く。
「俺、夜景見ながらワインとか飲みたいわ」
「ワインか。…照、ワインセラー置く?置くならどこかな」
渡辺と宮舘は、もうワインを飲む気でいる。
「…夜景が映える間接照明で、ムーディにして過ごしたいね」
目黒は相変わらず、彼氏みたいに阿部に微笑む。
「ベランダも広いな」
「照、ここにハンモックかけよ!俺、それで寝たい!」
深澤と佐久間はいつの間にか、広いベランダに出ていた。
岩本はため息をつく。そんな岩本を阿部はチラリと見やった。
和やかとは程遠い、賑やかな内見だ。
「あの…」
営業担当が、おずおずと岩本に話しかけた。
「ご入居予定の方は…お二人、でよろしいんですよね?」
「あ、はい。俺と…彼が」
岩本は、隣の阿部を指して言った。営業担当がホッとした顔をした、その時、
「やっぱり二人で住むんだ!」
ラウールが声を上げた。
皆なんとなく、そうなのだろうとは思っていたが、ようやく確信が持てた瞬間だった。
「だよな。一人なら広すぎるもんな」
深澤が、言う。
岩本は照れくさそうに、耳を掻いた。別に隠すつもりはなかったが、もっと落ち着いてから話すつもりだったのだ。
ふと隣を見ると、阿部も少し照れたように笑っている。
その顔を見て、岩本は小さく息を吐いた。
――二人で住む。
改めて口にされると、思っていた以上に嬉しかった。
「えー。もう実質、夫婦じゃん」
ラウールが、はしゃいだ感じで言う。
「良かったね。阿部」
宮舘は穏やかに微笑んだ。阿部は、はにかんだ笑顔を見せる。
「…人妻の阿部ちゃんもいいな…」
「めめ、何言うとるん?」
目黒の呟きに、向井が引き気味に言った。
「お前、ブレないな」
渡辺が呆れを超えて、感心したように言う。
「………人妻って何が良いの?」
「ラウは分からんでええよ」
こそっと尋ねるラウールに、向井が優しく諭すように言った。
「引っ越したら、みんな遊びに来てよ」
阿部が何気なく言う。その言葉に岩本は、阿部を見た。
「お前、それ言ったら本当に来るぞ」
「絶対、遊びに行くー!」
佐久間が無邪気に声を上げる。
「パーティーしたい。まずは引越し祝い?」
ラウールが楽しそうに切り出した。
それを受けて、パーティーの相談が始まる。
タコパだ、鍋だ、ワインが飲みたい、ワインに合うたこ焼きの具は何かと、かしましい。
「気が早いなあ」
阿部は、楽しそうなメンバーの様子に笑った。
「今日この後、2軒ご案内の予定ですが、見に行きます?みなさん、だいぶ気に入られたようですが…」
「いや、行きます」
岩本は目眩を覚えながら、営業担当に言った。
「え、まだ内見あるの?」
深澤がベランダから顔を出して尋ねる。
「あるけど、ふっかは全員連れて帰れ」
「いや、行くよ?」
岩本の言葉に、深澤は当然だというふうに返す。そして、
「次の物件行くってよ」
と、メンバーに声をかけた。
「次もあんの?楽しみー」
ついていくことになんの疑問も抱かず、皆ぞろぞろと玄関に向かう。
「あ、次の住所教えて下さい」
深澤は営業担当に住所を共有して貰うと、
「先、行ってるな」
と言って、部屋を出て行った。
「賑やかだったね」
阿部が苦笑しながら言った。
「あいつら全然遠慮しないから…」
「…まあ、こうなったのは、ひかるのミスだけどね」
阿部の言葉に岩本は振り向く。
「ちゃんとして?」
目が合うと阿部はそれだけ言って、玄関へ向かった。
(あ。ヤバイ)
岩本はサッと青ざめた。
「あっ、阿部、帰らせる!あいつら帰らせるから!」
慌てて追いかけて言う。
「いいよ。もう。みんな次のとこ行ったし」
靴を履きながら、阿部が淡々と返す。
「…怒ってる、よね?」
「ほら、行くよ」
それだけ。肯定も否定もせず、阿部はドアを開けた。いつもの阿部なら『怒ってないよ』と言って笑ってくれる。それなのに今は、岩本の方を見ようとしない。
(あ、本当にヤバイ)
岩本の背中に、冷たい汗が流れた。
岩本も急いで靴を履き、もつれる足で玄関を出る。
「ちょっ、待っ」
エレベーターを待つ阿部の隣に並ぶが、阿部はエレベーターのドアを見つめたままだ。
「ねえ、一緒に住むのやめるとか言わないよね?なんか言って。その…俺、ちゃんとするから。ねえって!」
機嫌を損ねた恋人に必死で追いすがる契約希望者を、営業担当は笑顔をキープしたまま見ていた。
(たまにいるんだよな。内見で揉めるお客さん)
まあ、今回のような理由で揉めるのも珍しいが。
(…ちゃんと契約になるのかな…)
この後もあの7人がついてくる。
次の物件での大騒ぎを想像して、営業担当は遠い目をして、エレベーターの階数表示を見上げるのだった。
コメント
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グループ皆でのわちゃわちゃ話ありがとうございます。皆の前だと不満な気持ちを見せないような💚が、💛の前だけでしっかり拗ねていらしててかわよい。
💛💚のイチャイチャもいいけど、9人揃ったワチャワチャも最高です〜(*‘ω‘ *)♡
やっちまった💛も可愛いけど…笑 ちょっぴり拗ねちゃった💚と必死な💛もまたいいですね!(*˘︶˘*).。*♡