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次の日、冒険者達がそれぞれ依頼を受け、ギルドが落ち着いたのを見計らって顔を出した。
「こんにちはソフィアさん。何かわかりました?」
「ああ、九条さん。お待ちしてました。ちゃんと聞いておきましたよ」
ソフィアがカウンターの下から取り出したのは一枚の紙。そこにはキャラバンの募集要項が書き記されてあった。
『カーゴ商会によるキャラバン結成につき、期間限定冒険者の募集』
ウルフ製品の需要増により高騰している素材の回収を目的とするキャラバンを設立。
募集人数:狩猟適性を持つブロンズ以上の冒険者。上限二十名。
日程:最低でも十五日拘束。(五十匹程度の討伐で早期終了の可能性あり)
報酬:最終日にお支払い。金貨二十枚+出来高(努力次第で金貨三十枚も可能!)
備考:朝晩の食事付き、宿泊装備支給(野外テント+寝袋)、キャラバン未経験者も歓迎、アットホームなキャラバンです。
「本部に問い合わせたところ、キャラバンカラーはグリーンで登録されているようなので、緑の腕章を付けているならこれで間違いないかと」
「ありがとうございます。それにしてもウルフ討伐で金貨二十枚ですか……」
「そうなんですよ。気になって色々と聞いたんですが、逆に怒られてしまって……」
「え? なぜです?」
「ウチがウルフ狩りを止めてしまったというのもあって、相場が高騰しているみたいなんですよね」
「あっ……」
「あっ、いえ、九条さんの所為じゃないですからね? 気にしないで下さいね?」
気まずい雰囲気にわちゃわちゃと焦るソフィアは、機嫌を悪くしないようにと若干のフォローを入れつつも、タイミングが悪かったとも話した。
「ウルフ素材の産地は他にも何カ所かあるんですけど、ベルモントの南西辺りで魔獣騒ぎがあるらしく、そちらでもウルフ狩りを一時的に中止しているみたいで、需要に追い付かなくなっているみたいなんです」
「その魔獣ってのは?」
「はい。詳細はわかりませんが、現在緊急案件でゴールドの冒険者が指揮を執り、討伐が行われているみたいなので、いずれ収まるかと思われます」
「そうですか……」
恐らくその魔獣というのが、コクセイ達の言っていた|金の鬣《きんのたてがみ》という奴なのだろう。
やはり当初の予定通り、討伐されるまではダンジョンで匿っておくのが得策か……。
考え込む俺を見て心配そうにしていたソフィアは、何かを閃いたらしく、ポンっと手を合わせると笑顔を見せた。
「そうだ! ネストさんに助力を請うのはどうでしょう?」
「ああ、なるほど。確かに領主であれば可能かもしれませんね」
「でしょ?」
「ありがとうございますソフィアさん。相談してよかった」
「いえいえ。また何かあればいつでもどうぞ」
ネストに助けを求めるとなると、王都スタッグまで足を運ばなければならない。
ミアを連れて行かなければならない為、別途休暇を取る必要があり、時間が掛かる。
カガリに手紙を持たせて行ってもらうという方法も考えたが、カガリはネストに近づけないからな……。
そもそもネストがこの提案を受け入れてくれるかもわからない。領主の娘とはいっても、出来ないこともあるだろう。
出来れば人に迷惑をかけないよう解決を図りたいが……。
そんな事を考えながらギルドの階段を降りていくと、二人の男性とすれ違った。
一人はこの村では見かけない冒険者。シルバープレートに革製品の鎧を身に着けた狩人風の男。歳は四十代で無精髭がよく似合うワイルドなおっさんだ。
もう一人は商人で、隣の冒険者と同じくらいの歳。腰のベルトからは複数の革袋がぶら下げられ、肩にはケープ、頭にはバレット帽を被っていた。
狭い階段だ。肩がぶつかりそうになるのを、ギリギリで躱す。
考え事をしていた俺が悪いのだが、ぶつからずに済んで良かったと安堵していると、チラリと見えたその腕には緑色の腕章が巻かれていた。
そのままギルドへと入って行く二人。
俺はこっそりギルドへと戻ると、一般冒険者のフリをして依頼掲示板の前に立ち、ソフィアとの会話に聞き耳を立てた。
「すいません。ここにプラチナプレートの冒険者が在籍していると聞いたのですが……」
「はい。在籍はしていますが、面会には領主様の許可が必要になります。許可証はお持ちではありませんか?」
「なんだと!? それは知らなかった……。どうするべきか……」
「ちなみに領主様は今どちらに?」
「えーっと。王都かノーピークス、どちらかに滞在されていると思いますが……」
それを聞いた男達はカウンターを離れ、ヒソヒソとやり取りをする。
「どうします? 今更目標を変えるのも……」
「そうだな……さすがにここからだと遠すぎる……。しかし、洞窟から出て来ると思うか?」
「いえ、人間の匂いがすればウルフ達は警戒するはずです。出てこない確率の方が高いですね」
やはりウルフを狩っているキャラバンというのは、彼等で間違いないようだ。
俺を探しに来たという事は、既に炭鉱にウルフ達がいることを知っている。
恐らくは弓適性の索敵スキルを持ち合わせているからだろう。炭鉱の入場許可を求めに来たと考えるのが妥当だ。
「九条さんに用事でしたら、言伝であればお預かりすることは可能ですが……」
「え? あ……あぁ。ではお願いします。九条様の管理されている炭鉱跡がありますよね? そこの入場許可を頂きたいと……」
「いや、その必要はない」
振り返る男達に真剣な表情を向ける。
「お前は?」
「俺が九条だ」
「おお、丁度良かった。今そなたの話をしていたところだが……。……本当にプラチナプレートなのか?」
あ……忘れてた……。
疑いの目を向ける商人に、ポケットの中から取り出したプレートを見せる。
「おお、これはまさしく。失礼致しました」
「ソフィアさん、応接室は空いてますか?」
「ええ、大丈夫です。……こちらへどうぞ」
「ここでは何ですので、応接室にてお話をお伺いしますよ?」
ぎこちない笑みを浮かべる二人は、安堵と同時に若干の緊張も見せていた。