無題（仮）

ありがたいことに“2024年の顔”に選ばれた俺は様々な人と一緒に仕事をすることが増えた。

俺たちの関係はメンバーとマネージャー数人以外に公表してないが、俺が仁人の話ばかりしてしまってるからか勘が鋭い人には気付かれてしまった。

「吉田くんってベータだよね？どうして付き合ってるの？」

気付いた人にそう聞かれることもある。

どうしてって何？とこっちが聞きたい。

好きだから。一緒に生きていきたいから。それだけじゃダメ？

じゃあアルファのあなたはどうしてオメガと付き合ってるの？

「やっぱりそう見えます？仁ちゃん距離感バグってるからかもしれませんね。」

「俺、仁ちゃんの匂いも好きやから気がつくと隣にいちゃうんですよ！勇ちゃんもそうなんちゃいます？メンバーの特権ですね！」

俺が心の中でどうこう言ってるあいだに近くにいた柔太朗と舜太が答えてくれた。

この世界は正直に言うことが必ずしも正解ではない。いつもなら機転を利かして軽く答えられるはずなのに仁人のことになるとどうもうまくいかない。

たまに思う。もしかすると仁人も俺に対して同じように思ってるのかもって。

仁人はどんな人にも平等に接しているから誰も気付いていないと思うが、彼はアルファのことがあまり好きじゃない。

むかーしむかし、仁人が好きだったあの子の恋人アルファを見る目が嫌悪感溢れていた。

その時は好きな人を奪った人だからだと思っていたけどそんなことなかった。

そんなアルファの性を持つ俺が告白したんだ。

俺の気持ちをまだ疑ってるのかも。

仁人は積極的に友人を作りにいこうとしないから、交友関係も俺が把握してる限りここ数年でこれといった変化はないはずだ。

あいつが可愛がってる後輩も飯に行ったヤツも把握して、俺の存在を知らせるように色んな形で挨拶しておいた。

でももし俺が知らない交友関係があったら？あの子とは違う好きな人がいたとしたら？本当はベータの方が良かったって思ってたとしたら？

昔の真面目な頃からオラオラしだした時も俺はずっと仁人の隣にいた。カメラロールに残ってる仁人の写真の枚数なんか比較対象にならないくらい多くの仁人を見てきた。仁人のことをよく知ってるはずなのに。

一度考えだすと不安が募ってきてしまう。

そんな隙を見せてしまったのか、足を掬われた。