テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
全部が元に戻ったなんて言えない。
朝起きた瞬間、理由もなく胸が重くなる日もあるし、ふとした拍子に、自分がどこか欠けている気がして不安になることもある。
でも、ひとつだけ前と違うことがあった。
『仁人、大丈夫?』
そう聞かれたときに、 「大丈夫」じゃなくて、「今はちょっとしんどい」って言えるようになったこと。
勇斗は、特別なことはしない。
無理に笑わせないし、答えを急がせない。
ただ、隣に座って、同じ方向を向く。
「なぁ、今日はさ、何も頑張らなくていい日ってことでいい、?」
『…ずるっ言い方笑』
「ずるくていいだろ、笑」
『笑いいよ。そうしよっか、』
今はまだちゃんとは言えないけど、それでも勇斗は言葉を汲み取ってくれる。
肩に触れる手の温度が、ちゃんと現実で、ちゃんと今ここにあるって教えてくれる。
仁人は前より弱くなったわけじゃない。
むしろ、前よりずっと正直になった。
未送信メッセージは、もう消えた。
でも、あの文章があったことを俺は忘れない。
俺だけは忘れてはいけない気がした。
「なぁ〜、勇斗」
『ん?』
「俺さ、全部覚えてなくてよかったって、今は 思う」
少しだけ間を置いて、続ける。
「でも、忘れてた間も、勇斗がそばにいたってことは、ちゃんと信じてる」
胸の奥が、静かに熱くなる。
『それで十分だよ』
「…うん」
額に触れる距離で、息が混ざる。
この先も、きっと波は来る。
また、沈む夜もある。
それでも今度は、一人じゃないってことは確かだ。
「ねえ」
『なに?』
「次、しんどくなったらさ」
『うん』
「忘れる前に、ちゃんと呼ぶから」
俺は、迷わず答えた。
『おう。何回でも来い。俺が何回でも救ってやるから。』