『……ば、かな。僕様の、術は完ぺきで……ッ』
ヒギャアアアアアアと、これまた聞いたことのない叫び声が、アルフレートの中から聞こえた。そして、アルフレートがすかさず取り出した剣で、足元を突き刺すと、今まで見えなかった毒々しいピンクの魔法陣が粉々になって砕ける。刹那、アルフレートの中から何かが飛び出したような気がした。
それがガイツの魂かなにかであると気づいた僕は、ふらふらになりながらも、倒れているアヴァリスの身体に駆け寄ってぎゅっと抱きしめる。見えないはずのガイツは「その体をよこせえええええ!」と突進してきた。僕は、アヴァリスの身体を抱き寄せ、目を閉じる。すると、ぶつかるはずだったそのガイツの魂は、何かの衝撃を受け、弾かれた。
『チッ、聖女のちからか……ッ、忌々しい!! ならば、勇者の身体に戻るだ――ダアアアアア!!』
「二度も戻れるなんて思わないでほしいね。そもそも、テオ以外にこの身体は明け渡す予定ないんだけど」
アルフレートが、見えない何かを掴んだ。その何かはどうにかアルフレートの手から逃れようと暴れ、空気を震わせていたようだが、抜け出すことは不可能だったみたいだ。
『あ、ハハハハッ、話し合えばわかるじゃないっすか。だって、だって、だって、だって、だって、あいつ様のことめちゃくちゃにしたいって思ってたんでしょ? 引ん剝いて、アンアン啼かせてやりたいって、ひっでええ、勇者じゃねえこと思ってたじゃないっすか。僕様が、手を貸したら、それデキるんすよ。欲望のまま、愛しい人を蹂躙し――ガアアアアアアアア!!』
「お前の考えで、図らないでほしいなあ。テオへの愛を。そんなんじゃ生ぬるいんだよね。でも、しないよ? だって、テオに嫌われることは、死んだも同義だから」
にこりと、アルフレートは笑って、もう片手でその何かを切り裂く準備をしている。
ガイツの本体は結局何だったかわからない。ただ、意思や魂的、概念的存在であるとするのなら。もともとはガイツという魔物の身体があったとして、それを脱いで他の人間に憑依し、それを繰り返していたとするのなら。次の憑依先である体を失ったガイツは中身がずる向けている状態といってもいいだろう。戻れない不安定な存在であるからこそ、先ほどよりも倒すのが簡単になったと。
ガイツは、命乞いをしているようだったが、口も目もなければ、姿かたちもない存在で。そんなものが、アルフレートを動揺させられるはずもなく、彼に掴まれたまま無様に叫ぶことしかできていないようだった。
戻る先であるアヴァリスの身体も、僕が守っているため憑依できないと。
『テメェ様は、勇者じゃねえです。こんな邪悪な勇者いちゃダメですよ。ああああああああ! ガアアアアアアアアッ!!』
「うん、俺もそう思うよ。なんで俺みたいなのが勇者に選ばれたのかってね――ッ!!」
アルフレートはそういって虚空を斬った。その瞬間、文字ではあらせないような断末魔が響き、黒い煙となって、ガイツは消滅した。アルフレートはふぅ、と息を吐いて剣をパッと手から離した。
「アル!」
「……っ、テオ」
「アル、アルだ……大丈夫、アル。大丈夫……」
「……ありがとう。テオ、もう大丈夫だから」
するりと、僕の頭を撫でて、それから抱きしめてくれた。
彼の体の中にもうガイツはいない。本当に倒したんだと、彼に抱き着いて分かった。
アルフレートは心配をかけた、と口にしながらも、冷たくなった体を僕にあてて、温めてというようにすり寄ってきた。先ほど、彼の心の内を聞いてしまったから、拒むことも、怖がることもない。暫く抱きしめあって、互いの温度を感じていた。ごめんね、もありがとうも、言葉はもういらない。抱きしめあえば、互いの鼓動で何を思っているか伝わってくるようだったから。
それから、僕たちはアヴァリスが生きていることを確認し、下水道から出た。すると、ちょうど通りかかったランベルトに事情を話、アヴァリスを部屋へ連れて帰ってもらった。どうやら、まだ意識はあるらしく、ガイツが体を使っていたとはいえ、生きているようだった。本来なら、起きてから事情を聴くべきなのだが、ランベルトが「今日は休めよ」と言ってくれたこともあり、それに甘えてしまった。
そうして、僕たちは寮の部屋に戻ったのだが……
青白い月が空に浮かんでいる。部屋に差し込む色は、幻想的で、ついさっきまでの星天祭を思い出させる。時々、夜空で星が舞叩いて、それから流れていく。
そんな夜空をバックに、僕たちは見つめあっていた。
「テオ……さっきのこと」
「気にしてないよ。アルは、どこまで行ってもアルだから。それに、君にずっと我慢せていたんだってわかっちゃったから。僕こそごめん、君に甘えて、そして逃げてた」
「テオ」
僕は、不安げなアルフレートの唇にぶつかるようにキスをする。
最初は驚いていたようだったけど、それを受け入れ、アルフレートは嬉しそうに、僕に体をゆだねた。
あの欲求はすべてアルフレートの内なるものだった。だから、今も普通にしゃべっているように見えて、本当はいろいろ抑えているんだろうと想像がつく。
もちろん、軽く体を差し出すわけじゃないし、品がないとか思うところはある。けど、これはアルフレート特別仕様の僕だから。
僕も、好き。それを、もっとちゃんと伝えるべきだった。
彼とのキスは温かくて、甘くて、もう少ししていたかった。でも、僕は彼から離れて、美しいラピスラズリの瞳と目を合わせる。
「アル、もう逃げないよ。だから、アルの好きにして」
「で、も。さっきみたいに、傷つけるかもだし。それで、テオに嫌われたら」
「嫌わないよ。アルを嫌うことなんて絶対にない。アルのこと大好きなんだよ、昔からずっと。今の君も好き。だから、お願い、勇者だとか、アルフレート・エルフォルクだからとかじゃなくて、僕のアルフレートとして、僕だけを見てよ、アル」
僕も対外欲張りだから。
アルフレートは僕の言葉を受けて、喉を上下させる。その後、冷静さを取り戻すように、いいの? と確認してきた。
僕は、もちろんと笑顔で答える。アルフレートはまた僕の身体を抱き寄せた。僕も抱き返して彼の匂いをいっぱいに吸い込む。ああ、やっぱりだ、うん。今の方が落ち着くし、いい。ぎゅっとされると嬉しくなるんだ。なんだかようやく、不安が払拭されたようでとてもすっきりしている。アルフレートもそうなのかな? だとしたら嬉しいなあって思いながら僕たちはベッドへとはいる。
丁寧に、腫物を扱うようにアルフレートが僕を押し倒して、覆い被さってくる。ベッドには、僕の綿毛のような髪がふわりと広がり、アルフレートは耳にかけていた黄金色の髪がさらりと落ちてくる。
はあぁ……と色っぽいと息を吐いて、それから彼はまた緩く唇を結んだ。
「……本当にいいの? 抑え効かなくなるかもなんだよ。テオを、傷つける可能性だって」
「うん……アルならいい、ううん、君になら何されてもいい。だから、我慢しないで」
「……はあ、もう。そんな可愛いこといって俺をどうしたいの?」
「うーん……アルのすべてを暴きたいし、受け止めたい? かな」
君に触れられると、ドキドキして、恋してるってわかるから。そして、愛されてるんだって安心するし、アルフレートの顔も優しくなって。
僕の言葉に参ったよというような顔でアルフレートは笑った。そして、また僕たちは唇を触れ合わせる。僕の身体を緩く愛撫しながら服をはぎ取っていく手が、先ほどとは打って変わって性急で、でも優しさもちょっとあって。求められるってこんなにうれしいんだって、感じられた。アルフレートの唇と指が、僕の身体を余すことなく触れていく。その度、僕は小さく喘ぐ。
「あ……ん、っ」
「……テオ、可愛い」
「やっ、くすぐったい……っ、アルぅ」
もう何度もしているはずなのに、やっぱり恥ずかしくて顔を背けてしまう。でもそれは許してもらえず顎をつかまれてまたキスをされた。そのまま舌を入れられて絡まされ、逃げても舌を追いかけて絡ませてくる。くちゅくちゅという音が響いて、もう堪らなくなって腰を揺らした。アルフレートはそんな僕の動きに気づいたようで、クスリと笑う。
「ふふ……テオのえっち」
「……っ! だって……だって、アルとのキス、気持ちいんだもん」
「素直なテオ、大好き」
キスだって何回もした。でも、恥ずかしいし、回数が増えるたびに、気持ちよくなっていって、もっと欲しいとさえ思う。
アルフレートはもう我慢しないというように、さらに僕を貪った。歯を一本一本撫でるように、上あごをこしょこしょなぞって、チュッと、僕の舌を吸って。僕は何も考えられないほど頭がふわふわとして気持ちがよくて、それが幸せでたまらなかった。やがて、彼の手が下のほうへと伸びていく。ゆっくりと、僕の勃起したペニスを扱きながら、彼の指が僕の後孔に伸びていく。何日か前に触られて、先っぽだけ許したそこは、彼の指を容易に受け入れた。くぷりとアルフレートの指が沈んでいく。
「あ……ん……」
「……気持ちい? ここは?」
「う、ん……んっ……やあぁっ」
「テオの中、あったかくて指が溶けちゃいそう」
アルフレートはそういって中に二本入れて、何かを探すように動き回った。わかっているくせに、わざと僕を焦らして楽しんでいるんだと気づいてしまう。アルフレートの意地悪、と抗議の声を上げようかと思った瞬間、ピリリと頭に電撃が走る。
あ、そこだ。僕の弱いところ。そう思った時にはもう遅くて、アルフレートの指がその場所を擦るたびに僕は甲高い声をあげてしまう。狙っていたように、ここだよね、と吐息たっぷりの声でささやいて、攻め立てる。そのたびに恥ずかしさで顔から火が出そうだったけれど、それ以上に気持ち良くて何も考えられなくなってしまったんだ。次第に、指は三本となり、中をばらばらに動かし蹂躙する。
「あ、る……も、ぅ! もう、もう……!」
「うん、いいよテオ。いっぱい出して?」
アルフレートはそう言って僕自身に手を伸ばし激しく上下に動かす。前と後ろを同時に責められて僕はたまらずに精を吐き出した。
「あっあっ! あ――ッ!」
「……可愛いよ、テオ」
はーはーっと肩で大きく息をして余韻に浸っていたら、今度はアルフレートが僕の足の間に割って入り足を開かせた。そしてそのまま、ペニスを僕の後孔へと押し当てる。
「あ……あ……」
「……怖い? やめる?」
アルフレートが僕に優しく聞いてきたけれど、僕は首を横に振った。少し怖かったけど、それよりも早く彼が欲しくて仕方なかったからだった。逃げないって決めたから僕は「挿入れて?」と精一杯のおねだりをする。
アルフレートはそれを見て、嬉しそうに僕の顔を見るとふっと笑って額にキスをしてきた。それからゆっくりと腰を進めてくるのと同時に質量を増したそれが奥まで入ってきて息が詰まりそうになる。それを見越したかのようにアルフレートが唇を重ねてきて息継ぎをさせてくれた。
「んっ、んふ……んん……」
「もう少しで、全部入るからね」
もう全部? と、僕は驚いた。
だって、アルフレートのはすごく大きくて、怖くて、かっこよくて……それが、全部入るなんて。今までだったら想像できなかっただろう。でも、二日に一回のあの行為が、すべてつながったんだと、なんだかうれしく思った。
くっ、と苦しそうにうめきながらもアルフレートは腰を進め、ようやく、ぴたりと動きを止めた。全部入ったらしい。
だが、入っただけでは終わらず、アルフレートはぎらついたラピスラズリの瞳で僕を見下ろした。
「んっ、テオ、動くよ? 動いていい?」
「うん……」
アルフレートはゆっくりと動き出した。最初は緩慢な動きだったが次第に激しくなっていくそれに僕は翻弄される。
ぱちゅ、ぱちゅんと水音を立てながら、抽挿されて、そのたびに快楽が襲ってくる。先ほどまでは、まだまだ我慢していたということが分かる腰使い。ガツガツと進めて、的確に急所をえぐり上げる。中は、すっかりアルフレートの形に馴染んで、彼を包み込んでいる。
アルフレートが「テオ、愛してる」と囁いてくる度にきゅうっと中を締め付けてしまう。だって、そんなふうに愛おしそうに、必死に名前を呼ばれたら、こっちだって我慢できない。
「あ……あっ! だめぇっ、そこぉ……! んっ!」
「ここ? ここが気持ちいね。確かに、ちゅうちゅうって、キスしてくれるし」
「やっ! あっ!! ああッ!!」
ごりっという音が聞こえてきそうなほどの強烈な刺激に目の前が真っ白になった。入っちゃいけないところに入ったような感覚に体が跳ね、僕はまたびゅくびゅくと精を吐き出してしまう。僕の中が収縮すると、アルフレートのきれいでかっこいい顔が歪む。
「……っ、テオの中、すごく締まって……っ、俺も出ちゃいそう……」
我慢して、外に出そうとするアルフレートを、必死に止めようと、僕はさらに中を絞める。彼は、驚いたように、僕を見たが、限界のぎりぎりで耐えている顔で見下ろしている。
「ありゅ……ん……出してぇ……アルのいっぱい欲しい」
「……もう、煽るなって」
もう限界だというように、アルフレートが僕の腰を掴み激しくピストン運動を始めた。ぐちゅん! ずちゅんといやらしい音が部屋中に響く。
「あッ!! あああっ~~~~~~!!」
「テオ、好き……愛してるよ……」
耳元で囁かれる言葉にさえ感じてしまい、僕はまた精を吐き出す。アルフレートはそんな僕を抱きしめながらラストスパートをかけたようにさらにピストンが激しくなる。やがて小さく呻いて、彼は僕の中に大量の白濁を放った。
「あっ! あついのいっぱい出てるぅ……!」
「……っは、はぁ……大丈夫?」
「ん……平気……だと思う、いっぱい、だな」
ずるりと引き抜かれると後孔からとろりとした白い液が垂れてきて、そんな刺激にも感じてしまう。
アルフレートは僕を正面から抱きしめてキスをした。なんだかそれすらも愛おしいなと思いながら、僕は自然と目を閉じる。こうして触れ合うと、相手の大好きって気持ちを正面から受け止められる気がするから。好きだなって気持ちが、膨らんで、溢れていく。
「ありゅ……すき」
「うん、俺も」
そしてそのまま意識が遠のき始めたころにちゅっとリップ音が鳴り唇から離れる。
「テオ」
「アル、何……ひうっ」
「トばないで。もう一回。ううん、後四回」
「え、え、え、ああああんっ!」
腰を掴まれてそのまままたアルフレートの硬いそれがずぷりと中に入ってきて僕は喘ぐ。一階じゃ我慢ができないとは思っていなかったけど、四回……はたして、四回で終わるかも怪しい。
なんだかスイッチが入ってしまった様子の彼に、もう好きにしてという気持ちになりながら、僕たちはそのまま数回体を重ねた。だって、好きだから仕方がないじゃん。
もう何も考えられなくなるくらいに溶かされて。そして何度目かの絶頂後、僕は意識を飛ばしたのだった。