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まぁ支払い自体、これを発注した際、とっくの昔に済ませてあるのだから駄目だと言われるはずもないのだけれど。


実篤さねあつさん、……あの、お、お願いします」


店員の言葉を聞くや否やくるみがソワソワした様子で自分の指輪と左手を実篤こちらの方へ差し出してくるから、 実篤はくるみの華奢きゃしゃな指先に、受け取ったばかりの指輪をそっと差し込んでやった。


まるで結婚式での儀式みたいじゃわ、と思っていたら、くるみが「うちも……」と言って実篤のリングを指さしてくる。


くるみの細くて小さな左手薬指には実篤が贈った婚約指輪と、今はめてあげたばかりの結婚指輪が重ね付けされてキラキラと輝いている。

それを見るとはなしに見やりながら実篤が自分のリングをくるみに手渡すと、くるみがそれを指先につまんで「実篤さんの指輪、すっごく大きいです」と、溜め息を落とした。


「何かもう、そういう違いを感じただけでここら辺がキュンってなってソワソワするん……変でしょうか?」


くるみが自らの胸の辺りにそっと手を載せてつぶやく。

彼女の指では親指に入れたってブカブカであろう実篤の指輪を、うっとりした様子でめつすがめつするから、 実篤は思わず「俺もおんなじよ」と返していた。


「……実篤さんも?」


くるみがキョトンとした様子で自分を見上げてくるのが可愛すぎてたまらない。

衝動が抑えきれなくなった実篤は、指輪を持ったくるみの手をそっと両手で包み込んだ。


「くるみちゃんの小さい手ぇ、見よったらね。俺、キミを守っちゃげたいって気持ちがあふれて何かよくよぉ分からんけどムズムズするんよ」


くるみの両手を内側に閉じ込めたままギュッと手指に力を込めたら、くるみがポワッと頬を赤く染める。


「うち、実篤さんに愛されて……ホンマ幸せもんですね」


言って、実篤をじっと上目遣いで見上げてくるから。

実篤はここが宝石店のカウンターで、 目の前に困ったような顔をして座る店員がいることも忘れて…… 思わずくるみを抱き寄せて口付けそうになってしまった。


コホンッと小さく、 店員が二人だけのお花畑に旅立ちそうになっていたくるみと実篤を咳払いで現実に連れ戻してくれなかったら、危うく大変なことになるところだった。


「あ、あのっ。……うち、さ、実篤さんにも指輪を」


現状を思い出したくるみが、慌てたようにしどろもどろで言って、 実篤もいい年して馬鹿ップル丸出し展開になってしまっていた自分を殴りたいくらい恥ずかしくてたまらなくなる。

結果、テンパり過ぎて「お願いします!」とまるで告白番組のひとこまみたいにくるみに向かってを突き出していた。


「さ、実篤さんっ、……手、……逆です」


くるみがますます小さく縮こまってそうつぶやくから、 実篤も真っ赤になってうつむいていた。

おずおずと差し出し直した左手に、くるみがそっと指輪をはめてくれる劇的瞬間がほとんど頭に入ってこなかった。


結局そのまま指輪はお互い指にはめたまま宝石店を後にしたのだけれど。



「ヤバ……」

店を出たと同時、実篤が思わずそうつぶやいたら、それに重ねるようにくるみが「何かうちら、すっごくぶぅーち! 恥ずかしかったですねっ」と実篤の手をギュッと掴んできた。


その指にキラリと光る指輪を見て、実篤はふっと肩の力が抜ける。


「……あんね、くるみちゃん。出来たらこのまま……、その……こ、婚姻届けを出しに行きたいんじゃけど……ダメ……かな?」


書類自体は結婚を決めて程なくして、いわゆるお守り替わり。二人で書いて、ちゃんと準備してあった。


証人欄は天涯孤独な身になってしまったくるみのため、実篤の両親がきっちり埋めてくれている。


それを鞄の中から取り出した実篤に、くるみがキョトンとした顔をして、

「やっぱりダメ……じゃろーか?」

そのままフリーズしたみたいに固まって何も言ってくれないくるみに実篤が不安になり始めたころ…… くるみがキュッと実篤を掴んだままの手に力を込めてきた。


「う、嬉しいです……! ダメなんかじゃありません! けど……うち……うち……。こんなにこんとに幸せで……ホンマにいいのええん? 夢落ちとかじゃ……ないです、よ、ね?」


くるみが実篤を見上げてポロリと涙を落とす。

実篤はくるみをギュウッと抱き締めて、「ほら。痛かろ? 夢なんかじゃないって分かった?」と問いかけて、そのまま畳み掛けるみたいに

「それに……こんなに可愛かわゆぅーて良いええ子が幸せになれんわけないじゃ? は俺の大事な女性ひとなんじゃけ、誰よりも幸せになってもらわんと、俺が困るんよ」

そう言わずにはいられなかった。


というより――。


正直ぶっちゃけ俺の方がくるみちゃんより数倍幸せじゃけぇね」


こんな可愛い奥さんに恵まれるのだから。

そうつぶやいたら「ううん。うちの方が……」とくるみが返してきて、『 いや、自分の方が!』の押収が始まってしまった。


ひとしきり二人で自分の方が幸せに違いないと言い合いをしてから、ふっと静かになった瞬間。

二人しておかしくなって、

「うちら、ホンマ似た者同士ですね」

「俺ら、ホント似たもん同士じゃね」

同時に同じようなことを言って。それが、二人ともたまらなく幸せなことだと思えた。



たまたま指輪が出来た日の、直近のお休みだった今日。

日付にもお日柄にも、何の思い入れもない六月十七日水曜日晴れ。


幸いにも偶然大安だったこの日。


木下きのしたくるみ〟は〝栗野くりのくるみ〟になりました。

社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味!?

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