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隣国バイルンの件以来、ルカ(健二)は迂闊な言動を一切慎むようになり、周囲の目はさらに「深遠なる思考の持ち主」として彼を崇めるようになった。そんな中、帝国の存亡に関わる重大な危機が訪れた。古代の邪悪な魔物が復活し、その魔物を討伐するためには、人魚族が守る伝説の聖剣「アクア・スレイヤー」が不可欠だと判明したのだ。「人魚族は人間を極度に嫌悪しており、聖剣を譲ることはまず不可能でしょうな……」
宮廷魔導士のアヤが深刻な顔で告げた。ルカは「(そりゃそうだよな、人間なんてクソみたいな存在だし、簡単に譲ってくれるわけないよな……面倒くさいなぁ)」と心の中で呟き、力なく微笑んだ。
「……無理だよな」
健二は諦めと面倒臭さから、自嘲気味にそう呟いた。しかし、その微笑みは、彼らを悩ませる困難な状況を前にしても決して揺るがぬ「揺るぎない覚悟と慈悲深き諦念」と解釈された。
「なんと……! ルカ様は、そのご尊顔で、我々の想像を絶する困難さを理解しておられるのですね!(ナツメ)」
「ですが、ルカ様。貴方様のためならば、このミナ、人魚族との交渉、必ずや成功させてみせます!(ミナ)」
「ええ、霊薬探しで隣国を滅ぼしたように、必要とあらば人魚の里も解析対象ですわ(アヤ)」
こうして、ルカの「人魚から聖剣を借りるのは無理だろうな……」という諦めの言葉は、「この困難な使命を、我が身一つで達成してみせよう」という、静かな決意の表明として受け取られ、一行は人魚の里へと向かった。
人魚の里、そして伝説の聖剣
人魚の里に到着した一行は、長である美しい人魚の女性に謁見した。彼女は陸に上がった魚のように警戒心を露わにし、ルカたちを敵意のこもった目で睨みつけていた。
ルカは、そんな彼女の様子に「(わー、美人だけど怖いな。早く終わらせて帰りたい……)」と前世のコミュ障ぶりを発揮し、つい目を逸らして俯いた。
しかし、その瞬間、人魚の長は息を呑んだ。
(このお方は……! 私の敵意を真っ向から受け止めず、あえて目を伏せてくださるとは……! 私の誇りを傷つけないための、何と奥ゆかしい配慮なのだ!)
ルカが「(どうせ無理だろうし、もう帰りたい……)」と心の中で溜息をつき、無意識に口角を少しだけ上げた時だった。
「…………っ!!」
人魚の長は、その完璧な微笑みに完全に恋に落ちた。彼女の頬は真っ赤に染まり、これまでの警戒心はどこへやら、メロメロになった声で囁いた。
「わ、わたくし、貴方様のようなお優しいお方に、お会いしたことはございません……。ルカ様……わたくし、貴方様のためなら、この命、惜しくはございません……!」
そして、人魚の長は、伝説の聖剣「アクア・スレイヤー」を何の躊躇もなくルカに差し出した。
「ささ、どうぞ、ルカ様。こんなものより、わたくしの愛を……! ええ、貴方様の御心のままに!」
ルカは「(え、まじで? チョロいなこの人魚……)」と呆気に取られながらも、あっさりと聖剣を手に入れた。周囲のアヤ、ミナ、ナツメも、ルカの「無言の美」が人魚をも魅了したことに感銘を受けていた。
邪悪な魔物の討伐、そして英雄は寝ていた
聖剣を手に入れた一行は、復活した邪悪な魔物の巣窟へと向かった。
しかし、肝心のルカは、強烈な魔物の瘴気に「(うわ、空気が悪い。頭痛い。しんどい……)」と体調を崩し、ナツメの背後に隠れるどころか、その場で座り込み、目を閉じてしまった。
「ルカ様! ご無事ですか!?」
ナツメが焦って振り返ると、ルカは座ったまま、顔を少し赤らめて静かに寝息を立てていた。
「(……ああ。私の主は、邪悪な瘴気にまで慈悲を向けて、その魂を癒しておられるのだ。私がこの魔物を斬り伏せれば、きっとお目覚めになられるだろう……!)」
ナツメはそう解釈し、愛するルカの寝顔を守るため、咆哮を上げて魔物へと突撃した。アヤとミナも、ルカの「無言の激励」に応えるべく、最強の連携で魔物を攻め立てる。
ルカが目を覚ました時、魔物はナツメの剣によって完全に塵と化していた。
「……あれ? 魔物、倒れたの?」
ルカが状況を把握できずに首を傾げると、兵士たちが興奮のあまり叫んだ。
「見ろ! ルカ様だ! 伝説の聖剣を片手に、静かに瞑想しながら魔物を討伐された!」
「アヤ殿の魔法と、ミナ殿の治癒、ナツメ殿の剣術、すべてルカ様の指示だったのだ!」
ナツメは疲労困憊でルカの前に跪いた。
「ルカ様……貴方様の聖なる瞑想のおかげで、私たちは勝利できました。やはり貴方様は、戦わずしてすべてを制する真の英雄です!」
「……ああ、そうだね(よく分からんけど、俺の手柄でいいや、やったー!)」
ルカが安堵から微笑むと、その光景は「苦戦を強いられた部下を労う、慈悲深き英雄の微笑み」として、また一つ伝説が生まれた。
こうしてルカは、ただ「人魚の前でコミュ障を発揮し、魔物の瘴気で寝ていた」だけで、伝説の聖剣を手に入れ、さらに巨大な魔物すら討伐した英雄として、その名を帝国全土に轟かせることになったのである。