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王都に新設された「ルカ公爵様専用・離宮」。その最高級のシルクが敷かれたベッドに横たわりながら、ルカ(健二)はふと、前世の記憶を反芻していた。(……そういえば、昔の俺は、どうやって生きてたんだっけな)
思い出されるのは、42歳、無職、独身。
四畳半の湿った部屋で、カップ麺の残り香に囲まれ、液晶画面の光だけを頼りに世の中を呪っていた日々。コンビニに行くための数分間の外出さえ、世間の目が怖くて「通報されるんじゃないか」と震えていた。あの頃の俺にとって、幸せとは「誰からも見つからず、ただ静かに消えていくこと」だった。
「ルカ様? どうされましたか? 顔色が優れないようですが……。すぐに私が全快の祈りを捧げますね!」
心配そうに顔を覗き込んできたのは、ミナだった。彼女の瞳には、かつての掲示板で浴びせられた罵詈雑言とは正反対の、純粋で深い慈愛が宿っている。
「解析の結果、ルカ様のバイタルに異常はありません。……もしかして、あの『神の板』の副作用ですか!? 私が魔力供給で安定させますわ!」
アヤが必死な顔でルカの手を取り、その滑らかな肌に自分の頬を寄せている。
「案ずるな、ルカ様。何が起きようと、このナツメが貴方様の盾となり、運命ごと斬り伏せてみせる!」
傍らではナツメが、ルカの一挙一動を逃すまいと、凛々しく、そして熱烈な忠誠心(と恋心)を燃やして控えている。
ルカは、彼女たちの顔を順番に見つめた。
(……ああ。そうだ。俺、今はもう独りじゃないんだな)
前世では、誰かに心配されることも、必要とされることもなかった。鏡を見れば自己嫌悪し、外を歩けば石を投げられるような気がしていた。
それが今では、ただ横になっているだけで「瞑想」だと崇められ、少し肩が凝れば「国を揺るがす危機」として解決してもらえる。
何より、この美しき女性たちが、俺という存在そのものを肯定し、愛してくれている。
「……みんな。ありがとう」
ルカは、心の底から溢れ出た本物の感謝を込めて、穏やかに、そしてかつてないほど優しく微笑んだ。
それは「顔面兵器」としての技術的な微笑みではなく、42年間の孤独を癒やされた一人の男としての、真実の微笑みだった。
「…………っ!!」
三人の乙女たちは、そのあまりの破壊的な美しさと、そこに込められた「深い愛」を感じ取り、一瞬で思考が停止した。
「ルカ様が……今、私に『ありがとう』と……(ミナ)」
「計算不能です……。この微笑みの魔力、全大陸のエネルギーを凌駕していますわ……(アヤ)」
「ああ……! 私は、このお方に出会うために生まれてきたのだ……!(ナツメ)」
ルカは、窓から差し込む美しい夕日を眺めながら、確信した。
(ニートだった俺が転生して、こんなに騒がしくて、勘違いだらけで、めちゃくちゃな生活だけど……。……今、俺は、めちゃくちゃ幸せだわ)
健二は、手元のスマホの真っ暗な画面に映る、自分の神々しい姿を見た。前世の絶望的な顔はもうどこにもない。
「よし。……明日も、一生懸命サボることにしよう」
ルカが満足げに目を閉じると、それを見た三人は「ああ! 救世主様が安らぎを得られたわ!」と、その寝顔を永遠に守り続けることを誓い、王都には平和な(?)沈黙が訪れたのである。