テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
SOMAMON7A
8
154
142
8,169
風柱と花柱
・・・・・・・・・・
柊依はこの日、蝶屋敷を訪ねていた。アオイたちの話によると、しのぶはお館様から命じられた研究で忙しく、出てこられないとのことだった。仕方がないので差し入れだけ託け、帰る前に親友の眠る仏壇の前に腰を下ろした。
マッチを擦り、蝋燭と線香に火をつけて手を合わせ、目を閉じる。
……カナエちゃん…。大きな戦いが近付いてきてるの。しのぶちゃんは随分前から身体を張った研究をしてるみたい。隠してるようだけど顔色が悪い時があって、何となくだけど何してるか想像がついちゃったの。やめてって言いたいけど、彼女の覚悟を踏みにじるわけにはいかないから……。どうか命懸けの作戦が上手くいくよう見守ってあげて……。
私も…、やっと家族の仇をとれるかもしれない。それはカナエちゃんや、カナエちゃんとしのぶちゃんのご両親を殺した鬼の、その始祖を倒すってことだから…。手足がもげたって身体を斬り刻まれたって穴を空けられたって、絶対に諦めない。“力を貸して”なんて言わない。でも天国から見ててね。
心の中で親友に語り掛ける。
しばらく経ち、そっと顔を上げ、柊依は後ろを振り向きもせずに口を開いた。
『…不死川さん。そんなところに立ってないで入っていらしたら?』
「気付かれてたか」
声の主が仏間に入ってくる。そこでようやく顔を合わせた。
「別に気配消してたわけじゃねェけどよ、お前があんまり真剣に拝んでるから、ちと遠慮したんだよ」
『そう。ごめんなさいね。…カナエちゃんに挨拶しに来たの?』
「ああ。……月命日だろ、今日」
『うん…』
実弥も持ってきたおはぎを仏壇に供え、手を合わせる。
数十秒後、静かに目を開け、顔を上げた。
『カナエちゃん、またね』
「………」
柊依は仏壇に声を掛け、実弥は無言で立ち上がり、2人で仏間を後にした。
『柱稽古はどう?』
「どいつもこいつもへなちょこばかりだ。あんなんじゃすーぐ鬼に喰われちまう」
呆れたように溜め息をつく実弥。
「一般の隊士たち相手じゃ軽い運動くらいにしかならねェ。正直、夜に伊黒とか時透と手合わせしてるののほうがよっぽど稽古になってるわ」
『無一郎くんがお世話になってます。…痣に関しては?』
「時透も毎晩よくあんな遠いとこまで来るわ。痣は出ねェな。俺も伊黒も。1回発現させてる時透もまだ稽古中出てねェ」
『そう……』
並んで廊下を歩く。
「お前は?なんか稽古してんだろ?竈門のクソガキが使う技の」
『クソガキなんて。炭治郎くんいい子なのに。…うん、ヒノカミ神楽を教えてもらって練習してる。任務でも使ってみたけど、鬼を倒すのにすごい効果的よ』
「へえ。…ならお前は水と花の呼吸に加えて、そのヒノカミ何ちゃらも実戦で使えるっつーことか。すげえな」
『無惨を倒せるのなら、使えるもの全部利用してやらなくちゃね。呼吸も神楽も、…夢の内容も……』
「夢?」
『ヒノカミ神楽を舞ったら必ず見る夢があるの。毎回内容は同じで。でも自分じゃない“誰か”の目線なの。誰かは分からないけど』
「ふーん。気味悪ィな」
話しながら、庭の桜の木の前に来た。初代花の呼吸の剣士が植えた、“必勝”と名付けられた木だ。
『同じ条件で同じ夢を繰り返し見てるから、何か意味があるんだろうとは思ってる』
「まあ…、そうかもな」
桜の木を見上げる柊依の横顔を、実弥がじっと見つめる。
「……なぁ」
『?』
実弥と目が合う。いつになく真剣な眼差しに少し戸惑う。
「…無惨を倒したら、今度の戦いが終わったら…、お前はどうしたい?」
『どう…、って…?』
「もし、全部終わったその後に生きてられたら、どう過ごしたい?」
『……有一郎くんと無一郎くんと静かに暮らしたいとは思ってた。特別なことはなくていいの。…家族や殉職した仲間のお墓参りに行って…、美味しいものを食べて、いっぱい綺麗な景色を見て、穏やかに暮らせたらなって……』
「…そうかィ」
柊依の回答に耳を傾けていた実弥が、彼女を真っ直ぐに見つめたまま静かに口を開いた。
「俺は……。お前と…、倭と一緒になれたらと思ってる」
『えっ』
予想だにしなかった実弥の言葉に柊依が驚きの声を上げた。
不死川さんが?自分と??
冗談を言っているふうでもない。柊依の心臓が大きく脈打ち始める。
しかし、この男は生前カナエに密かに想いを寄せていたことを知っている。顔を合わせた時、実弥が親友を見る眼差しが僅かに熱を帯びていたことに柊依は気付いていた。
『……不死川さん。私はカナエちゃんじゃないよ?』
「ンなこたァ分かってる。お前は倭柊依だろ」
『…カナエちゃんのこと好きだったの、私知ってるのよ』
「…………。そうだな…、そんな頃があったのも事実だよ。…でも俺は、あいつと同じ“花柱”だからお前に惹かれたんじゃない。お前が…、“倭柊依”だから好きなんだ」
ほんの少しだけ顔を赤らめながら言葉を紡ぐ実弥。そんな彼の、普段の振る舞いからは想像もできない様子に、柊依もつられて顔に熱が集まるのを感じた。
「時透たちと穏やかに暮らすのはいいと思う。あいつらもお前のこと姉ちゃんみたいに慕ってるの知ってるし。……ただ、欲を言えばそこに、俺も加えてもらえやしないだろうか。お前ら3人まとめて幸せにすっから…」
『不死川さん…』
向かい合って立つ2人の間を、風が吹き抜けていく。
「返事は今すぐにとは言わねェ。ゆっくり考えてほしい。……今度の戦いでお互いに生き延びられたらでいい。…次いつ会えるか、生きて会えるかも分かんねェから。俺の気持ちを伝えておきたかった。それだけだ」
実弥が一歩、柊依に近付き、そっと彼女の頬に触れた。そして、風のせいで顔に掛かった黒髪を退かし、静かに耳に掛けてやると、柊依がいつも着けている紫水晶の耳飾りが姿を現す。
今度は柊依が真っ直ぐに実弥を見つめて口を開いた。
『…不死川さん。ちゃんとお返事するから、お互い生きてまた会いましょう。きっと無傷でとはいかないだろうからここで治療を受けると思うし。 …無惨を倒して、今度の戦いを生き延びて、この桜の木の下でまた会いましょう 』
「ああ、約束だ」
実弥を見つめたまま、柊依がこくんと頷いた。
本当は今すぐに目の前の想い人を抱き締めてしまいたい。それを必死に堪え、実弥は柊依と固い握手を交わした。
絶対に鬼の始祖を倒し、残りの人生を共にしたいと願った相手と生きてここで再会するのだと心に誓って。
続く
コメント
1件
うわあ…第21話、めちゃくちゃ胸が熱くなりました…! 実弥が柊依に「お前と一緒になりたい」って伝えるシーン、不器用だけど真っ直ぐで、彼の本気度が伝わってきて泣きそうになりました。カナエちゃんへの想いを乗り越えて、今の柊依を「倭柊依だから」好きだと言い切るところがすごく誠実で、グッときました。 桜の木の下で再会を誓う約束、切なくて美しい…。お互い生きてまた会ってほしいです。続きが楽しみです🌷