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──食卓の用意を整えながら、父のことを思い出していた。


子供の頃たまの休日に、父が料理を作ってくれたことがあって、


テーブルに頬づえをつき、出来上がるのを楽しみに待っていた。


父の手料理はとても美味しくて、どんな味付けをしているんだろうと作る手元をじっと眺めていると、


「一臣、教えてあげるから、こっちにおいで」


と、そばに呼び寄せられて、


「ここで、隠し味にお酒を少し入れるんだよ」


作り方の手ほどきをしてくれた。


……まだ幼かったあの頃の、ジュッと油の焦げる匂いの香ばしさは、今だに憶えている。


父に教えてもらった料理を、一人暮らしをするようになって改めて自分で作り直してみようかと思い立って、料理をすることに嵌っていった……。


……もし、こんなにも父が早くに逝ってしまうことをわかっていたら、私の料理をせめて一度くらいは食べてほしかったのにと、思わずにはいられなかった。


テーブルに料理を並べ、自分の作ったものは受け入れてもらえるんだろうかと感じながら、


「召し上がってみてください」


彼女に箸を取るよう勧めた。


一口を食べた後、「美味しい…」と声が聞けて、


「良かったです…」


幸せな気分が満ちて、思わず笑みがこぼれた。


「こんな料理を、どこで覚えられたんですか?」


彼女に尋ねられて、


「全くの独学です。ただ料理を美味しく食べたくて、いろいろと試している内に、出来るようにもなった感じですね」


そう返して、けれどもし父に料理を教えてもらっていなければ、こんな風に作ってみようという気さえ起こらなかっただろうと感じた。


……テーブルを挟んで向かい合いながら、こんなに和やかな雰囲気で女性と食事をしたこともないと思っていた。


自分の記憶の中にある食事のシーンはいつも独りきりで、誰かと共に打ち解けて食事をしたことと言えば父ぐらいしか思いつかなかった。


過去をかえりみると箸が止まって、「先生…?」と、彼女に呼びかけられた。


「……私の父も、料理が上手だったのを、思い出していました……」


懐かしむ想いを彼女に伝えると、目尻が薄く潤んだ。


「そうだったんですね…」


「ええ……母は著名な外科医だったので、講演や学会などで家を空けることの方が多くて、代わりに父が、よく料理を作ってくれました……」


喋りながら、彼女と並びまるで父がそこに居るようにも思えた……。


「……私には、父との思い出しかないのです。……母は家庭には興味がない人だったので、私にとっては、父だけが唯一の家族でした……」


口にすると、手から箸がカタン…と音を立てて取り落とされた。


「……大丈夫ですか? 先生…」


箸を拾い彼女から手渡されて、「ああ、大丈夫です…すいません」メガネを外して、涙が滲んだ目の両端を親指と人差し指でぐっと押さえた──。


「責め恋」政宗一臣先生Ver.

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