(いつぶりかな、思い出したくないこと、思い出すのは)
それでも話そうと思ったきっかけと、離してもいいと思える人に出会えたことは幸いである。そんな人になかなか出会えないだろうし、何よりも、フィーバス卿に出会えたことは、これ以上ない幸いだろう。
前の世界では、どんな人か全くわからなかったし、びくびくしていたけれど、今なら、この人だったから、っていう、この人の養子になれたことに幸せさえ感じている。
でも、まだまだ距離がある気がして、義家族……でも、本当の家族にはなれていない気がした。
「ステラの口から、そういう話を聞くのは初めてだな」
「誰にも言うつもりなかったので……その、記憶があいまいなので、そこは大目に見てもらいたいです」
「別に、いい。辛いことは思い出さなくても」
「それでも、今、はなしたい気分なので」
「ステラの好きにすればいい。俺は、ずっとここで話を聞いているつもりだ」
と、フィーバス卿は、聞く姿勢を作ると、すこし柔らかく微笑んだ。その笑みに、安堵し、私は言葉を紡ぐ。
「私の両親は、私のことが嫌いでした。理由は、まあ、いろいろあったみたいだったんですけど、幼いころの私には理解できなくて。両親の気を引こうとあの手この手を使いました。頑張った、努力した。それを認めてほしかった。でも、両親は私の努力を、無意味だと吐き捨てて、私に、親に期待することを諦めさせました」
「……」
ピアノとか、勉強とか。いろいろ頑張った、絵も描いたし、詩のコンクールだって。今思えば幼稚かもしれないけれど、それでも、あの頃は、同じ年の子供たちよりも自分はずば抜けていたと思う。けれど、私の褒められたい対象というのが親だったため、そういった周りの子供たちには興味なくて、ただ一身に親を求め続けていた。だから、友達が多かったわけじゃない。授業参観に親が来てくれる子供たちを子供ながらに、うらやましいって、嫉妬していた。私の親だけいない。仕事ばかりの人たちだったから仕方がない。彼らは、仕事に生きていた。
じゃあ、何で子供を作ったのか。いまだに分からない。
ううん、分かってる。それは、妹である廻が生きていたら、きっと両親は仕事と家庭の均衡をちゃんと取って、私たちを愛してくれたかもしれない。でも、妹が死んでから、両親は冷たくなって。私は、その妹のことを、あまりにも幼かったがために覚えていなかった。だって、赤ちゃんも同然だったんだもん。
まあ、その縁が、ここまで続いて、彼女は――妹はヒロインとしてこの世界に転生し、再び、私たちは会うことが出来たんだけど。
(そんなこと、親が知るはずもないし、もう両親は私の事どうだっていいのよね)
子供を産まなければよかった、と一概には言えない。産んだ時は、幸せだっただろうし、これから育てていくぞという気持ちもあったんだろう。けれど、妹が死んで、感情を整理できないままいて、整理するために、仕事に打ち込んだ結果が、これなのだ。
かわいそうではあるというか、私も妹を失ったし、その話を、両親がしてくれないというのもまた不思議な話だった。もしかしたら、始めから、両親はどこか欠陥が……とかいろいろ考えてしまう。今になってはどうでもいいことなのかもしれないけれど。
「それで、諦めてどうしたんだ……ステラは」
「どうもしていません。息を殺して生きていました。見てもらえないのなら、もらえるお金を頼りに、生きる。死を選べば、またそれはそれで両親に迷惑をかけますからね。それに、別にs抜きはなかったので」
「……」
「ま、まあ、それから流れるように、いろんなところ転々としているうちに、たぶん記憶失って、とある老夫婦に拾われて!なんかまた、流れて、アルベドにって……」
「その、両親というのは、魔導士だったのか。ステラがこれほどの魔力を持つということは……それなりの、家門か」
「さ、さあ、分かりません。顔も、名前も覚えていなくて。でも、されたことは、覚えているって感じで」
「そうだろうな、苦しい記憶ほどい、鮮明に残るものだ」
フィーバス卿は、そういって頷く。
本当は、誰とか知っているし、前世の話だから、そこまでは言えない。確かに私の出自が気になるのは、当然のことだろう。
(代理で、誰かたててもらうとか……フィーバス卿が調べ始めると、少しまずいんだよね)
没落貴族のーとか、いや、もうそこまで配慮しなくちゃいけないのかと、私は心の中でため息をつく。
つじつまが合わなければ、この話が嘘になってしまうからだ。
ごくりと、固唾をのみながら、私は話を続ける。
「まあ、どこにいっても、私は求められないというか、はみ出し者です。この力のせい……というよりかは、私の性格とか、周りの悪意というか」
中学の時いじめられていたのは、私が単に周りの事、好きなものが違っただけ。協調性がないと、弾かれてしまうあの社会は嫌いだった。好きになれそうになかった。でも、高校に行って、蛍と出会えたから、少しは軽くなって、好きな話も胸張って話せるようになった。
「周りの悪意、か。確かに、それで気がまいってしまうこともあるだろうな」
「――というところです。あまり、覚えていないのでここらへんで……」
「ステラ、はなしてくれてありがとう」
「こんな、面白い話じゃないですよ」
もっと違う話がしたい。面白い話をして、笑いたい、フィーバス卿は、あんまり笑わないから、笑っている姿を見たい、とかいろいろ思ってしみあう。私の話で、両親も笑ってくれたのなら、それが一番幸せだっただろうけれど、そんなことは、もう一生訪れないから。
「お前の口から、きけて良かったと俺は思っている。やはり、俺はステラのことを何も知らなかったらしい」
「話していないので、そりゃそうですって。私も、お父様の事、分からないので」
歩み寄る努力をしていないから。
もっと私が素直になって、もっと、フィーバス卿のことを知りたいと、父親だから、もっと甘えていいと吹っ切れるようになれば、私たちの関係はもっと良くなるんだろうなっていうのだけは分かった。
「前も言ったと思うが、これから、歩み寄っていけばいい。無理にとは言わない。ステラが、気が向いたら、また話してくれればいい。それを続けていけば、どうにかなれるだろう」
「はい」
「……辛かったな」
フィーバス卿は、そういって、立ち上がり、私の頭を撫でた。その瞬間、別にこらえていたわけでもないのに、涙があふれてきた。フィーバス卿は一瞬驚いたが、それでも優しくなでてくれて、私は無意識に伸びた手で、フィーバス卿を求めるように漂わせ、フィーバス卿の腰に抱き着いた。
「ごめんなさ、い。なんか、泣けてきて」
「いい。大丈夫だ」
「あ、り、がとう、ございます」
こういう時は、きっとごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言った方がいいんだって、なんとなく思い、私はかすれた声で言葉を何とか紡いだ。
ごめんなさいばかりいうのは、もう嫌だ。ありがとうって、伝えたい。伝えられるのなら。
そんな気持ちもあって私は、みっともないなと思いながらも、フィーバス卿に抱き着いて泣きじゃくった。前世では考えられなかった行動だし、こんなにもまだ自分が泣けるんだと思わされた。まだ泣けるし、泣くだけの心はあると。そんな気もした。
「いっぱいなけ。胸ぐらいは貸してやる。ステラ、辛かったな、よく頑張った」
「お父様、ありがとうございます……ありがとうございます」
そのありがとうございますはきっと、私を娘として扱ってありがとうございます、だったのだと、自分でもそうはっきりと自覚していた。






