「――竜之介くん」
「ん? 何?」
「竜之介くん……大好き」
「ど、どうしたの? 急に」
「言いたくなったの」
並んで座っていた私は竜之介くんに『好き』と伝えながら彼に寄りかかる。
「あのね、私……これからも、この先も、ずっとずっと、竜之介くんと一緒に居たい」
「俺もだよ。っていうか、ずっと一緒だよ、離さないもん。亜子さんの事も、凜の事も」
「うん……嬉しい」
私が『一緒に居たい』と言うと、竜之介くんは当たり前かのように『ずっと一緒』と答えてくれる。
今までは、その言葉だけでも十分嬉しかった。
でも、竜之介くんの家柄の事を考えると、どんなに彼が『大丈夫』、『ずっと一緒』と言ってくれても、やっぱり不安は拭いきれなかった。
彼の将来や、ご両親の気持ちを考えたら、私と一緒になんてならない方がいいと、何度考えたか分からない。
それでも、やっぱり私には竜之介くんが必要で、彼との未来を生きていきたい。
だから――
「あのね、私、一度竜之介くんのご両親に会いたいの」
逃げずに立ち向かう。
ご両親に話して、何とか分かってもらいたい。
そう考えて、竜之介くんに今の私の思いを余す事なく伝えていく。
「竜之介くんは大丈夫って言うけど、やっぱりご両親の立場からすれば、納得なんて出来ないと思う。私もね、凜の母親だから、子を思う親の気持ちはよく分かるの。だけど、私も竜之介くんと居たいから、どうしても別れたく無い。全てを納得してもらう事は無理かもしれないけど、ほんの少しだけでも、私の本気の気持ちを……知ってもらいたいの……だから、ご両親に会わせて欲しい」
そんな私の思いを黙って聞いていた竜之介くんは無言で私を抱き締めてきた。
「竜之介くん?」
「亜子さん……俺、すげぇ嬉しい」
「え?」
「俺との未来を考えてくれてる事、凄い嬉しい。夢見てるみたいだ」
「竜之介くん……」
「ごめんね、家の事で不安な思いばかりさせて」
「ううん、大丈夫」
「俺さ、亜子さんに出逢うまでは親の決めた相手と結婚するのも仕方ないって思ってたから恋愛にも興味が持てなかった。けど、亜子さんを好きになって、人を好きになる大切さを知った。家の事も大切だって分かってるけど、俺だって一人の人間だから、感情だってある。好きな気持ちを無くす事なんて出来ない。それを伝えてはいるけど……親父は交際については自由にしていいって言ってるだけで、恐らく交際と結婚は別だって考えてる。はっきりとは言わないけど、納得してないんだって分かってる。けど、どうにかして分かってもらうつもりなんだけど……亜子さんに会ったら、酷い事を言うかもしれない……」
「大丈夫、何を言われても、私は平気だよ。覚悟を決めた上で、会いたいって思ってるから」
本当は、酷い事を言われたら怖いし、何を言っても認めて貰えないかもしれないと思うと、会うのを躊躇う。
だけど、それじゃあ何も変わらないし、話せばいつかは分かってもらえるかもしれない。
竜之介くんだって私との未来を望んでくれているって知れたから、何もしないで諦めるなんて、絶対に出来ない。
「ご両親は私になんて会いたくないかもしれないけど、私が竜之介くんを好きな気持ちは分かってもらいたい。だから、どうにか時間を取ってもらえるように話してみてくれるかな?」
「うん、分かった。話してみるよ。俺ももっと話をする。最終的にいつも感情的になっちゃうからさ……分かってもらえるよう、きちんと話してみる。必ず、認めてもらえるようにするから……絶対、俺から離れないでくれる?」
いつになく不安そうな表情を浮かべる竜之介くん。
しっかりしているし、頼りになるけど、私より六つも年下の彼は、まだまだ年相応の男の子。
不安だってあるに決まってる。
こうして弱さを見せてくれることは、やっぱり嬉しい。
私が彼を支えてあげなきゃって思えるから。
不安そうな竜之介くんを今度は私から抱き締めて、
「離れないよ。絶対に、離れたりしないから大丈夫」
少しでも彼の不安を取り除けるように『大丈夫』と言い続けていた。
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