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「なんなのですか、あれ……」「オートバイです………一応」
「そういう事を、聞いてるのんじゃないと思うよ……」
ホームルームが終わり、帰る前に朝倉くん、マヤちゃんを交えてお喋りをしている時、外からバカでかい排気音がして、そっちを見たら、学校の正門前にバイクが並んでいるのが見えた。
いや、あれはバイクとオートバイというより、単車と言った方がいいかもしれない。
遠くてもよく分かる、ド派手なカラーリングに、ド派手な装飾の単車達。
そして、特攻服姿の男達。
はい、どう見ても暴走族のカチコミです。本当にありがとうございました。
「この前の報復でなければ、いいのですが」
「報復?」
この前懲らしめた後藤ケンジロウの舎弟か兄貴分か仲間達が、敵討ちに来たとか、そういう理由も考えられる。
というか、それくらいしか考えられない。
「あのオートバイの主が、この前ケンカになった、後藤くんの仲間達で、彼を懲らしめた私達を、恨んでいるのかもしれません」
「恨んでいたら、何をすると言うの?」
私の説明に、マヤちゃんが反応して、朝倉くんが補足を付ける。
「例えば、全員で取り囲んで痛めつけるとか、場合によっては、攫って山奥に埋めるとか、海に沈めるとか……」
「そんな怖い話しないで!」
マヤちゃんは、両手で耳を覆って、やめてやめてと首を横に振る。
お嬢様にとっても、全くの無縁でもない話だから(身代金誘拐とかあるし)、一応含んでおいてもらいたいのだけど、嫌がる相手に無理強いはしなでおこう。
まあ、そんなヤクザ映画みたいな事が、ギャルゲーの世界で起こるかと言うと、多分起こら無いのだけど。
「ゴメンゴメン。まあ、狙われるのだとしたら、俺、佐伯さん、橘さんだろうから、伊集院さんが狙われる心配は少ないと思う」
朝倉くんが謝罪をしながらも、自分の見解を述べると、マヤちゃんは、彼の腕を握って、首を横に振った。
「ダメ、マヤが怪我しなくても、お友達に何かあったら嫌」
それはそう。私も、朝倉くんがタコ殴りにされてる所なんて、見たくは無い。
最後の切り札『中学二年の時ーーー!』も、後藤ケンジロウ以外には効かないかもしれない。
仲間のために義憤に燃えて、殴ってくるタイプの無法者とか、口を聞けぬようにしようとしてくる、バケモノが居るかもしれない。
なら、警察でも呼ぶしかないか。と思っていたら、パトカーが校門の前まで来た。
タイミングのよろしい事で。
パトランプもサイレンもつけてないから、パトロール中に、たまたま見かけただけっぽい。
タイミングのよろしい事で。
パトカーから、お巡りさんが降りてきて、単車の軍団と何やら揉めている。
けど、その揉め方がちょっと変。
ヤンキー達は、ペコペコ頭を下げてるし、お巡りさんは怒ってる様子も無い。
「なんだろう? 様子が変だね」
朝倉くんも、私と同じ違和感を覚えたのか、疑問を口にする。
「そうですね。こういう場面、生で見るのは初めてですが、もっと怒鳴り合いになるイメージがあります」
警察◯◯時みたいな番組だと、ああいうタイプの暴走族は、数を笠に『お巡り何をするものぞ』くらいのノリで威嚇してたりする。
場合によっては、お巡りさんは警棒を振り回し、倒れた族は足蹴にして制圧、みたいな暴力沙汰になる。
でも、校門前で繰り広げるられてる光景には、騒擾の気配は無い。和やかですらある。
あの特攻服の軍団。何をしに来たのか、ステータスオープンで見てやろうか。
危なそうなら、逃げる算段も立てないとだし。
(ステータスオープン!)
あ、出ない。てことは、あの中に非モブネームドキャラは居ないのか。後藤ケンジロウも居ないの?
「あら? お巡りさんが、こっちに来るわ」
お巡りさんが、校舎の方へ歩いてくる。その背中にも、彼らは頭を下げ続けている。
なんというか、学校に何か確認とか、何かを伝えに行く感じの足取りだ。
お巡りさんの姿は、校舎の真下まで来て見えなくなり、少ししてパトカーの方へ戻っていく。
「なんだったんでしょう?」
マヤちゃんが、不思議そうな顔をしているが、答えられる人は居ない。
朝倉くんが、私に視線を投げてくる。
「これは、情報屋の管轄外でございます」と言ったら、そういうつもりで見てたんじゃないよと、苦笑しながら返された。
ピンポンパンポーン………
校内放送の合図が、スピーカーから流れる。このタイミングで校内放送という事は、先程のお巡りさんの用事に関する事だろう。
『一年B組の 朝倉翔太さん 伊集院マヤさん 佐伯佳奈さん 一年 C組の 橘さやかさん 至急 一階職員室まで いらしてください』
「うわ〜……」
思わず、声が漏れた。
全員、あの時の関係者だ。てとこは、あの集団は後藤ケンジロウの関係者で間違い無いだろう。
朝倉くんも、マヤちゃんも、出来れば行きたくないという顔をしてる。
でも、なんであれ先生が呼んでるんだから、行かなきゃならない。放って逃げて、ヤンキー達が暴れ出そう物なら、それこそヤバいし。
「佐伯さん、伊集院さん、一緒に行こうか……」
「ええ、そうですね。行きたくはありませんが、行くしかないです……」
#R15
(株)姫神V
377
シュメール
364
華
155
16
「うん、マヤも行く……」
私たちは、観念して職員室へ向かった。
*******
「あなた達、校外でケンカしたんですって?」
職員室に行くと、学年主任の女先生が、私達に問い質した。
髪がだいぶ灰色になった、柔和で落ち着いた雰囲気の先生。なお、顔の無いモブだ、ステータスオープンが効けば、上手い言い訳が出来たかもしれないのに。
「はい……」
朝倉くんが、不承不承と言った感じに、こくんと頷いた。
ケンカを売ってきたのは相手だし(買ったのはマヤちゃんだけど)、最終的に、暴力行為は最小限(多分)で解決したのだかり、なるべく怒らないであげてほしい。
とは言っても、ケンカしたのは事実なので、朝倉くんは言い訳をしなかった。
「でもね、今日はその事を咎めるために呼んだんじゃないの」
「え?」
以外と言うかなんと言うかきょとんとした顔の朝倉くん。
私も多分、朝倉くんと同じ気持ち。
というか先生、それならそうと最初に言ってよ。無駄に緊張しちゃったじゃない。
「学校としても、ちょっとした小競り合いくらい、若気の至りだと思って流したいのよ。でもねぇ………」
先生は、そこで言葉を切って、窓の外に目線を投げる。
私達もつられて見ると、そこには相変わらず、ヤンキー、というか暴走族達がたむろしていた。
「あの人達が、どうしても謝りたいんですって。特に、佐伯さんと伊集院さんには、直接謝罪しないと気が済まないらしいわ」
「は……はぁ、左様ですか………」
特に謝罪したい相手、その中に私が居るのは、まあ分かる。
後藤ケンジロウの秘密を握っている私に対しては、きっちり筋を通しておかないと、不味いことになると思ったんだろう。
だけど、なんでマヤちゃん?
騒動の大元は、確かにマヤちゃんだけれども、謝るならむしろ、怪我をさせた橘さやかちゃんなのでは。
「という訳で、謝罪を受けた上で、追い払ってくれないかしら。もちろん、お巡りさんにも居てもらうし、危険が及ばない配慮はするから」
「わ……分かりました。皆さんも、それで構いませんか?」
*******
先生に言われて、私達四人は校門の方へと歩いていく。
近づいて見ると、迫力がある。
十数台の改造バイクが、並んでいて、そこにバイク以上の人数の特攻服姿の男達が並んでる。そこにパトカーとお巡りさんも居るもんだから、相乗効果で威圧感がマシマシだ。
やだなー、近寄りたくないなー、こうなると、お巡りさんまで怖く見えてくる。
私が若干尻込みしていると、朝倉くんが一歩先に出て、先陣を切ってくれた。
優男だけど、こういう時は男らしくて頼りになる、流石主人公。ヒロイン達の好感度数値、ちょっぴりアップ。
「あっ!」
暴走族の一人、特攻服じゃなくてツナギを着た、いかにも三下っぽい男が、私達に気づいた。
慌てて、白い特攻服に、昇り龍と、不動明王と、天上天下唯我独尊の文字を、金色の糸で刺繍した、リーダーっぽい男に報告する。
茶髪のリーゼントに、素肌に特攻服。腹にはサラシを巻いた、いかにもな見た目。でもモブ、顔の無いモブ、彼の舎弟であろう後藤ケンジロウはネームドだったのに、リーダーはモブ。世知辛い。
リーダーっぽい男は、三下の報告を受けると、仲間たちに激を飛ばして、ビシッと整列させた。
全員、後ろで手を組んで、胸を張って、仁王立ち。一応、敵意が無い事を示すつもりなのかな? 威圧感は、増しちゃってるけど。
その暴走族達に、朝倉くんがゴクリと唾を飲んでから、声をかける。
「俺たちに、なんの用ですか?」
緊張の一瞬……を感じる暇もなく、リーダーが直角に頭を下げて、号令をかけるかのような声で言った。
「ウチの舎弟が、大変失礼しやした!」
それに続いて、後ろの十数人も頭を下げて、謝罪の言葉を述べる。
「「「失礼しやした!」」」
この世界、ギャルゲーだよね? このイベント、原作にもあるの? あるとしたら当時TONAMie、尖りすぎじゃない?
「舎弟のした事とは言え、IJIグループのご令嬢にケンカを売った事、心からお詫び申し上げやす!!!」
え、IJIって………あのIJI? さくハイ世界の大企業、IJI?
世界的家電メーカーで、現実世界で言う所の、◯ニーとか、パ◯ソ◯ックみたいな立ち位置の会社。
初代さくハイのヒロインには、そこのご令嬢が居たのか。ガールズサイドで、やたら企業名が出てくるのは、そういう事だったのか。
しかし、情報屋、そんな事も知らんかった。
マヤちゃんのステータスに、IJIの事書いてあったっけ。無かった気がするけどなぁ。
「それと、佐伯佳奈さん! ありがとうございました!」
「へ?」
まさかお礼を言われるとは、全く思ってなかったから、思わず変な声が出た。
「天狗になってたケンの野郎の、鼻をへし折ってくれた事、深く感謝しておりやす! アイツ、学校はサボる、ムエタイのジムにも碌にいかねえ、そんな腑抜けた野郎を叩き直してくれた事、本当にありがとうございました!」
「え……あ……はい…………、そ……それは、どういたしまして……」
不良やってた彼が、真面目になったのは良いことだけど、そのきっかけが私でいいのか、私が彼の生き恥を暴露した事でいいのか、いや、多分ダメだろ。
********
「本日は、急に押しかけちまって、スミマセンでした! それでは!」
暴走族達は、朝倉くんとさやかちゃんにも詫びを入れた後、それぞれのバイクに跨り(一部は二人乗り)、爆音と共に去っていった。
お巡りさんは『あいつらヘルメットしとらん、マフラーも改造しとる』とかなんとか言いながら、パトカーに乗って追いかけていった。改造はマフラーどころじゃないと思うんだけど。
「佐伯さん、お手柄だね」
朝倉くんが、爽やかな笑顔で言ってくる。
くっ、そういうヒロインに向ける顔をされるとドキッとするんだが。
「お手柄……なのでしょうか? 私がやった事は、正直、嫌がらせでしかないですし、下手したら、彼が更に荒れていた可能性もあります。偶然うまくいっただけにすぎません」
なんなら、あの場で大暴れを始めて、全員半殺しの目にあっていた可能性もある訳で。今思うと、我ながら無茶をした。
「それでも、後藤くんは反省して、更生しようとしてるんだから、十分お手柄だよ」
朝倉くんは、私を励ますためか、そう言ってくれるけど、それで納得出来るかと言うと……う〜〜〜ん…………。
コロンブスが、新ルートでインドを目指したが、それは失敗、全然違う所に辿り着いたけど、それは新大陸の発見という偉業だった。ただし、当初の目的のインド新ルートは、見つけられなかった……みたいな。
偉業を成し遂げたけど、そのアプローチは間違ってるみたいな。釈然としない事には、変わりない。
「でも! 佐伯さんがいなかったら、アタシはもっと酷いケガをしてたかもしれないし、本当にありがとう。佐伯さんのおかげで助かったんだから」
さやかちゃんが、そうフォローしてくれる。まあ、それも事実ではある。
「もともとは、マヤのせいで始まった喧嘩で、さやかさんに怪我をさせて、翔太さんも危ない目に合わせて……。それを助けてくれたのは佳奈さんなんだから、もっと堂々としててよ」
マヤちゃんが、今にも涙を浮かべそうな顔で訴えてくる。
くっ、こんなカワイイ女の子に、そんな顔されたら、折れない訳にはいかないじゃないか。
これまでも、そうやって生きてきたから、ヤンキーの危険性に気づかなかったんだろうけど、そりゃそうなるよ。
このかわいさで、IJIのご令嬢なんて、敵対しようとする人間なんて、それこそ、この前の後藤ケンジロウくらいしか居ないだろうよ。
「分かりました。そこまで言われては、私も素直にお礼を受ける他ありません。ありがとうございます」
ヒロイン二人と主人公に、これだけ褒められてウジウジしてたら、それこそ情けない。
私は、三人に向けてお礼を言って、小さく笑った。
ただ、モブの私に青春イベントがこんなに発生するのは、こんなに無くてもいいと思うの。