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朝の空気は、ひどく冷たかった。
ノアは目を覚ますと、焚き火の残り火をぼんやりと見つめた。
夢を、見ていた気がする。
カイが、何か言いかけて——
そこで、いつも目が覚める。
「……おはよう」
背後から、低い声。
振り返ると、レイヴンが水筒を差し出していた。
「水。飲んどけ」
「……ありがとう」
短いやり取り。
それ以上、言葉は続かなかった。
少し離れたところで、アイリスが朝食の準備をしている。
「今日の目的地、決めた?」
ノアは首を振る。
「……町で見た張り紙。
黒い毒で死んだ商人の件、調べたい」
アイリスは、少しだけ眉を寄せた。
「それ、二日前の事件よね」
「……うん」
レイヴンが静かに口を開く。
「その商人、最後に“黒い霧みたいなものを見た”って証言がある。
現場は、この先の廃村だ」
ノアの手が、ぎゅっと握られる。
「……行く」
⸻
廃村は、思っていたよりも静かだった。
家々は半壊し、風が吹くたびに、壊れた看板がぎい……と音を立てる。
「嫌な感じね」
アイリスが小さく呟く。
ノアは、地面に膝をついた。
「……ここ」
焼け焦げたような跡が、地面に残っている。
それは、ただの火事の痕じゃなかった。
空気が、微かに歪んでいる。
「魔力痕……?」
レイヴンが低く言う。
「……カイの時と、同じ」
ノアの声は、震えていた。
その瞬間——
背後から、魔物の唸り声。
三体の影が、瓦礫の間から現れる。
「来る!」
ノアが剣を抜く。
戦闘は、短かった。
ノアの剣が一体を斬り伏せ、
レイヴンが背後から二体目を仕留める。
最後の一体がノアに飛びかかった、その瞬間——
「ノア!」
レイヴンが、彼女を突き飛ばした。
鋭い爪が、レイヴンの肩を裂く。
「……っ」
「……なんで……!」
ノアは、すぐに魔物を斬り伏せる。
血を流すレイヴンを見て、胸が締めつけられた。
「……なんで、庇ったの」
「……反射的に、だ」
アイリスが駆け寄り、回復魔法をかける。
「動くな。
……あんた、本当に無茶するわね」
レイヴンは、苦笑した。
「慣れてる」
ノアは、視線を逸らした。
「……私のせい」
「違う」
レイヴンの声は、思ったより強かった。
「……誰かを失う顔、してた。
だから、ああなった」
ノアは、何も言えなかった。
⸻
廃村の奥で、三人は小さな地下室を見つけた。
中には、割れた瓶と、黒い液体の染み。
「……毒?」
アイリスが顔をしかめる。
ノアが、その瓶を手に取る。
指先が、じんわりと痺れた。
「……異能力由来の毒」
レイヴンが、息を呑む。
「……やっぱり、か」
ノアの脳裏に、あの日の光景が蘇る。
紫がかった唇。
弱っていく鼓動。
(……同じ、だ)
「……犯人、近くにいる」
そのとき——
地下室の壁に、奇妙な紋様が浮かび上がった。
黒い円。
その中心に、歪んだ文字。
「……マーク?」
アイリスが呟く。
レイヴンの顔色が、変わる。
「……その印……」
「知ってるの?」
「……裏の組織の紋章だ。
“黄昏の徒(たそがれのと)”」
ノアは、ゆっくり立ち上がる。
「……そいつらが、カイを……?」
「可能性は高い」
拳が、震えた。
⸻
夜。
三人は、廃村の外で野営していた。
焚き火の前で、ノアはぼんやりと炎を見つめている。
「……今日の、ありがとう」
ぽつりと、言った。
レイヴンは驚いたように目を瞬かせる。
「……何が」
「……庇ってくれたこと」
「……気にすんな」
少し沈黙。
ノアは、意を決したように言う。
「……二年前、恋人が死んだ」
レイヴンの動きが、止まる。
「……その人、毒で殺された」
「……そうか」
「……私、復讐する」
その言葉は、静かだった。
でも、重かった。
レイヴンは、しばらく黙ってから言う。
「……止めない」
ノアは、少しだけ目を見開いた。
「……でも」
レイヴンは、彼女を見る。
「……一人でやらせない」
ノアの喉が、詰まった。
少し離れたところで、アイリスが二人を見ていた。
何も言わず、ただ静かに。
その夜、ノアは久しぶりに、少しだけ眠れた。
夢の中で、カイは何も言わず、ただ微笑んでいた。