朔弥「 」
攻めの人喰『 』
人間【 】
人喰《》
僕はまだ、泣きそうな顔のまま人喰の腕の中にいた。
なぜ自分が抱えられているのかも、よく分からない。
分かるのは、怖い。という僕の本当の気持ちだけ。
「……離して…。」
小さな声で言ってみる。
もしかしたら帰してくれるかもしれない。そんな小さな希望を抱いていた。
でも人喰は、腕をほんの少し強く抱き直すだけだった。
『大丈夫だ。危なくない。』
声は低く、とても落ち着いていた。
でも、僕の気持ちのざわめきは消えない。
どんなに安心させられても、この体が安心を拒絶してるみたいだった。
「…なんで、ぼくを…。」
一番の疑問だった。
怖くて言葉が途中で途切れる。
どうして僕はここにいるのか。
何をされるのか。
まだ何も分からない。
(もしかしたら殺されるのかもしれない。)
そんな恐怖がずっと僕の心の中身あった。
ルシアンは少しだけ目を細め、僕を見た。
その目はうっすらと光っていて、人の目じゃないことがはっきり分かる。
『気になったからだ。』
──気になった…?
意味がわからなくて僕は首を傾げた。
「……気になった…だけ?」
人喰は軽く肩を竦めて笑った。
怖いのに、不思議と胸がギュッ、となる。
『そうだ。大した理由なんて無い。』
理由がないのに僕を連れてくって……どういうことだろう。
いくら逃げたくても体は重くて動かない。
「…いやだ…。」
声が震える。
反論したら何をされるか分からなかったから。
でも、人喰は僕に何もしなかった。
腕の中で僕を抱えたまま、静かに歩いている。
『…怖いのか?』
「…うん…。」
『なら、安心しろ。俺が守る。』
僕にその言葉の意味は、まだ全部理解できない。
でも…少しだけ、ほんの少しだけ、心が震えた。
──この人喰に、守られるのか。
怖いはずなのに、どこか安心もしてしまう。
森の奥に続く道を歩きながら、僕は思った。
──この道がどこに続いているのか、まだ分からない。…でも、逃げられないのは確かだ。
──…それなら、名前ぐらい聞こう。名前が分からないのは、もっと怖くなるだけ。
「…名前…なんて言うの…?」
『ルシアン』
「る、しあん…?」
口に出して呼ぶと、少しだけ不思議な安心感があった。
名前は分かった。
でも、名前以外まだ知らない。
『…お前は?』
「ぼ、ぼく…?…ぼくは…さく、や…。」
『…サクヤ。…俺の名前は覚えていてくれなくていい。何度でも教えてやる。』
その言葉に、胸の奥がギュッと締め付けれた。
怖いのに、守ってくれそうで。
こんな気持ち、初めてだった。
森を抜けた先に、何があるのか分からない。
だけど、僕は覚悟した。
──これから先も、ずっとルシアンと一緒なのかもしれない、と。






