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注意。
今回、短編じゃないです。長いです。
これ本当に夢?と思ったりする夢を何回も見てきた。
でもすぐに忘れて、また現実味のある夢を見る。そしてまた忘れる。のループが多い。
何で見るのか?何で忘れてしまうのか?分からない。分かるはずがない。
ただ。
一個だけ、忘れられない夢がある。
それは、小学六年の時に見た夢だ。
「…え。」
どこかの海岸、夕方。海岸近くの階段に私はいた。
日が沈もうとしていた。海の水面に柔らかい日光が差し、ゆらめく。
奇妙な事に、人が全くいない。道路はあるのに車は通っていない。
それなのに、建物は綺麗なままだった。
「………」
ふと目に止まったのは、水族館。
海岸の近くにある。言うまでもなく、人はいない。
異質な空気を放っていたそれに、吸い込まれるように、私は入って行った。
「あ、魚いるのね」
入口に入ると、いくつか魚の水槽があった。それを眺めながら淡々と独り言を呟く。
しかしながら、人のいない水族館はどこか不気味さを感じる。
いつもは人で賑わっているからだろうか?
『なんでお前、ここにいるんだよ』
「えぇ!?」
イソギンチャクに隠れるクマノミを見つめていたら、突然少年に話しかけられた。
しかもその少年、何を隠そう当時のクラスメイトだった。
更に更にそのクラスメイト、恐らく私を嫌っていた。いじめや嫌がらせはしないけども、いつも冷たい視線を浴びせてきたり、態度がそっけなかった。
『…迷い込んだのか?』
「よく分からん。」
『まぁいいや』
勝手に歩き出すあいつに、私はただ着いていく事しか出来なかった。
「うわぁー、久々にこういうデカい水槽見たわ」
『お前どんだけ行ってないんだよ。』
「お前ほどのクソリア充じゃないからな。」
たどり着いたのは、水族館には必ずある大きな水槽だった。
小魚の群れ、優雅に泳ぐエイ。迫力のあるサメ。
どこか懐かしい。
「てかさ、何でここにおるん?」
『言えねーよ』
「…ふーん。」
コイツ、全く視線を合わせようとしない。やはり私が嫌いなんだろう。
まぁ、水槽の魚達を眺めているから仕方ないのか。
「…………」
沈黙が続く。
ここが何なのか、何故こいつがここにいるのか。それが気になる。
だが、聞き出すのは気が進まなかった。
『お前、好きな海の動物答えてみ?』
「海月。」
『へぇ。そこ連れて行こうか?』
「エ?」
「本当に海月んとこ来たねぇー…」
彼について行くまま辿り着いたのは、海月のアクアリウムだった。
ミズクラゲ、アカクラゲ、タコクラゲ、ブルージェリー……
たくさんの種類の海月が、水槽の中で蠢いている。
『イルカとか言うかと思ったのに、意外だな。』
「イルカが好きなのは友達だよ。」
『へーえ。』
「うっわ、興味なさそう。」
しばらく、海月の水槽を見て回っていた。
そういや。海月は死ぬ時に、海に溶けて消えてしまうらしい。
それは、体の90%が水分で出来ているのが理由である。死ぬと細胞が維持できなくなり、溶けてしまう。
こんな事を思うのは少し異常かもしれないけど、私はそういうふうに死んでいきたい。
空気に融解されて、跡形もなく消え去ってしまいたいのだ。
「……ん?」
気づいた時、あいつはミズクラゲの水槽の前で止まっていた。
「何黄昏てるの?」
『…お前さ、海月は死ぬと溶けるっていうの知ってる?』
「うん。ぶっちゃけさぁ、そういう風に死にたいわ。」
『何でだよ。』
「何も残すものなんてないからね。それなら、何も残さずに死んだ方がいいよ。」
『お前が何言ってるかは分からんけど、俺はそんなの嫌だぞ?』
さっきまで水槽を見つめていた目が、こちらに向く。空気が変わる。
さっきまでふざけていた目が、真剣そうな目になる。私は黙り込む。
『俺には何も。なんにも、残すものがなかったんだ。』
「は?お前生きてるんじゃ…」
『それは後でわかる事だ。』
逆に、こいつの言っている事が分からない。
残すものがない?
『だから、せめて存在は残しておきたい。
この夢を通じて、お前にだけでも存在を覚えていて欲しい。』
「いやあの、さっきからお前死んでる設定じゃ…」
『死んだんだよ。俺。』
体温が下がる感覚。
「…………………」
『大嫌いなお前に!俺という存在をずっっっと残しておくために!!
………忘れさせないために。
俺はお前に、この夢を見させた。
もう何にもない俺と、まだ未来が残っているお前。な、違うだろ?
これからの未来、俺を忘れる事があったら…呪い殺すからな。』
「やめろ。」
『なら覚えてろ。俺を。』
はっとした。
この表情は、見たことが無かった。
残念そうな笑み、今にも涙が出てきそうな潤んだ瞳。
その瞳には、命の儚さも、無念さも混じっている気がしたんだ。
「…………………………」
朝すぐに目覚めた時は、まだ夢の感覚でいた。
ここが現実であることは数分後に気づいた。
「まぁ…嘘…だよな」
流石に亡くなってはないだろう、夢の話だろう。そう思った。
そう思っていた。
「……長内游太さんが、交通事故で急逝しました…」
先生の口から、あいつが亡くなった事を聞かされるまでは。
今となっては、本当にあいつが夢を見させたのか、それとも偶然だったのかは闇の中だ。
ただ、あいつにはとんでもない呪いをかけられたようだ。
“忘れさせない”という呪いを。
『忘れさせない夢でいい』