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「告白って、10秒以内に返事しないと成功率が下がるらしいよ」
ある日、凛がそんな話をしてきた。
昼休みの教室、机に伏せながらスマホをいじっていた俺に、彼女はノートの端にペンをくるくる回しながら話しかけた。
「……何そのデータ、どこ情報?」
「ネット。なんかの恋愛心理学の研究らしいよ」
「いや、適当すぎるだろ」
「でもさ、確かに考えてみると、返事を迷う時点でダメってことじゃない?」
そう言って、凛は俺の目をじっと見つめる。俺は何か言い返そうとしたけど、ふっと視線を逸らした。
「まあ、確かに即答されたほうが嬉しいかもな」
「でしょ?」
凛は満足げに微笑んで、ペンをくるくる回すのをやめた。
――まさか、その話が数日後に俺の人生を揺るがすことになるなんて、その時は思いもしなかった。
それは、放課後の下駄箱の前だった。
帰ろうと靴を履き替えていると、後ろから声をかけられた。
「ねえ、今ちょっといい?」
振り返ると、そこには凛がいた。普段通りの笑顔。だけど、少しだけ緊張したような表情。
「どうした?」
凛は、一瞬口をつぐむ。まるで何かを飲み込むように。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「好き。」
心臓が跳ね上がる。
「……え?」
「好き。……10秒以内に答えて」
ドクン、と心臓が脈打つのが聞こえた気がした。
1秒、2秒――。
凛の瞳はまっすぐ俺を捉えたまま、決して逸らさない。
3秒、4秒――。
突然すぎて、頭がついていかない。でも、冗談なんかじゃないことはわかる。
5秒、6秒――。
答えを出さなきゃ。
7秒、8秒――。
俺は――。
9秒、10秒。
「……遅い。」
凛は、苦笑しながら目を伏せた。
「やっぱり、迷うってことはそういうことだよね。」
「待って、違う!俺は――」
「ありがと。でも、もう10秒経っちゃった」
そう言って、凛は小さく笑って、くるりと背を向ける。
「じゃあね。」
軽やかな足取りで、夕日に染まる校舎の外へと消えていく彼女の背中を、俺はただ呆然と見送ることしかできなかった。
俺の返事を、10秒で伝えられていたら――結果は、違っていたんだろうか。