「やめてくれ…!!
俺には小さい子供が2人と妻がいるんだ… 」
そんなことを言いながら彼は後ずさる。
「俺が居なくなったら、金を稼ぐやつがいないんだ、だから、頼む!見逃してくれ!!」
なぜ人間は、こうも生きるのに必死なのか。
そして、なぜ、こんなにも脆く、弱いのか。
僕は彼に問いかけた。
「だから何?家族がいるから何?小さい子供がいるから何?助けてくれ?ふざけたもんだよ。
お前のせいで死んだ奴も親だった。 お前のせいで、一生、子供におかえりを言えなくなった奴もいる。
それでも尚、お前は自分の命を乞うのか?」
彼はこう答えた。
「ああ、ああ!そうだよ!他の奴なんか知ったこっちゃねぇ!死ぬのが悪いんだ!!」
その回答に、小さく溜息をこぼす。
呆れたよ。最近はこんなヤツばっかだ。
もっとまともな回答をしていれば、苦しむことなく死ねるというのに。
全く、この世界は、本当に愚かだ。
「よっ!アズ!」
彼の声により、意識が呼び戻される。
昨日、夜遅くまで任務をこなしていたせいか、少し眠たい。
「おはよ。ケイ。」
彼の名前は 植村圭一(うえむら けいいち)。
幼い時に知り合い、今も良好な関係を築けている、唯一、”友達”と呼びたい人だ。
「どうしたアズ?いつもよりやる気無さそうだぞ?もっと元気だしてこうぜ!」
僕は内心、少し煩わしく思いながらも、眠たい声で返信をする。
「僕がいつもやる気ないみたいな言い方しないでよ。僕だって、やるときゃやるんだから…。」
「俺はお前のその”やるとき”を見た事ないけどなぁ?」
「でも…じゃケイはテストで僕に勝ったことある?」
ケイは「うぐっ…」とまるでダメージを負ったゲームキャラのように呻く。
あれ、そういえば…
「テストといえば、今日数学の小テストあるんだったっけ?」
「やめろ!追い討ちをかけるな! 」
そんなつもりはなかったのだけれど、彼には大きなダメージになってしまったらしい。
そんな他愛もない会話をしながら学校へ向かう。
その時だった。
「__ピコン!」
僕のスマホが鳴った。主様からだった。
「……は?」
僕はその内容を理解することができなかった。
『次の任務内容:植村圭一の暗殺』
植村圭一。今、僕の真隣にいる彼の名前。
「ピコン!」
ご丁寧に、本人の写真まで送られてきた。
僕は絶句した。
どこからどうみても、送られてきたその写真は、ケイだったのだ。