― 私は何故か、ハヤテが『向こう側』に行くのを引き留めた。
私がわけも分からず行動した、ということは、私の生前の記憶が行動したということ。
推測される理由はある。それは、『ハヤテが生きる事に何か不都合がある』という事なのではないかという物。又は、単に自分が別れたくないのか。
そもそも、ハヤテが生きるデメリットなんて無いはず。『我が子は生きない方がいい』なんて、流石に生前の私も思うわけがない。
しかも、成仏することを拒んでまで、ハヤテを生の世界へ行かせないようにしている理由なんて……
ハヤテが生きてはいけない理由……いや、生きない方がいい理由か?…………
まさか…
― 『虐待』?
母親からの虐待が理由なら、納得がいく。あまりにも母親からの虐待がひどいものであれば、ハヤテを引き留め、苦しみ続ける所へと帰したくないという、生前の私の思いから生まれた行動だった、というわけだ。
そもそも今の私の記憶は、妻は事故で死んだことになっている。だが、実際に死んでいたのは私…
もし仮に、完全にこの世界と現世の事実が真反対になっているとすれば、妻はハヤテが誕生日の日にケーキを買って来るのを待っていたことになる。
そうすると、虐待の線は薄いか…? いや、様々な可能性は頭に入れていておいた方がいい。いま考えたことだって、全て仮説に過ぎない。
はあ…今更だが、記憶がないというのは面倒だな…
もっと他にもヒントがあれば… もう一度探してみようか…
本棚の他にも何か……
本…棚……?
おかしい。この本棚…
「本が…増えてる…?」
間違いない。この前見た時には無かった本がある。
これもヒントになるのだろうか。少しずつ前に進んでいるということなのだろうか。
読んでみよう。きっと何かあるはず。
そして私は本を開いた…
* * *
何時間経っただろう…増えた3冊の本を読んだ。その本の内容が衝撃的過ぎて、時間がかかってしまった。
本を開いた時、青色の空も暗くなり、雨が降っていた。
その本達の題材は見事に一致していた。きっと私がハヤテを帰したくない理由なのだろう。しかしそれは、決して信じたくないものだった。
『いじめ』
それがこの本達の共通する内容だった。ひとつのいじめから生まれる大騒動の話。読んでいて気が滅入りそうだった。
これがヒントとするならば、ハヤテは現実世界でいじめに遭っていたということになってしまう。
私の仮説は、あながち間違いでは無かった…
信じたくない。信じたくないが、一番信憑性がある。
「記憶を反映する」……か…
夕飯を作ってハヤテと一緒に食べた。
ハヤテはとても笑顔が似合う子だ。明るく輝くその笑顔が、みんなに元気を与える。
―とても…『そんな』事実があった顔には、到底思えなかった。
OVER 第六章 『理由』 完
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!