冬の足音が聞こえてきたある日のこと.
「(えー.思ったより早く降ってきた.)」
5時間目の授業中,ふと窓の外を眺めた🌸は落胆した.天気予報より早く雨が降ってきたうえに,自転車通学でレインコートを持ってきていなかったからだ.
「(じいちゃん経由でばあちゃんに迎えにきてもらおうかな….)」
と公衆電話からじいちゃんにかけると,了承してくれたので待つことに.
「(そろそろ来たかな~.)」
と呑気に外に出ると.
「え!?…おじさん!?」
眉をしかめ,見覚えのある車を覗くと思わず声が出た.
「濡れるから早く乗りな.」
促されるまま,慌てて助手席に乗り込む.
「おかえり.」
「ただいま.なんでおじさんが??」
「“柿いらんかー”っておやっさんが言うから取りにきた.」
「そうなんだ.いっぱいなってたでしょ.」
「うん.」
「私柿嫌い.」
「えー??おいしいのに.」
「なんか味と食感苦手.」
「ま,大人になったら食べれるようになるよ.」
と車を走らせていると.
「ごめんっ!!」
急ブレーキとともに,衝撃からかばおうと伸ばした手が🌸の胸先に触れた.
「びっくりした….」
「大丈夫??」
「大丈夫.お母さんと一緒のことするなーと思って.」
「怪我させたくないからつい手が出ちまった.」
「ベルトしてるし,これくらい大丈夫だよ….前,進んでるよ??」
「おっと….」
触れられたことには怒ってないんだと胸を撫で下ろしつつ,菊田はその感触が残る手をハンドルに戻すのだった.
「ほんとにありがとう.おじさんの車好きだから,ドライブできて楽しかった.」
「いえいえ.機会があればまた乗せてあげるよ.」
「うん.じゃあね.」
🌸は車を降りて足早に家に入っていった.
「さてと….」
菊田はタバコに火をつけ,車を発進させる.煙を燻らせ思いに耽る顔は,あの優しい“もくたおじさん”ではなくなっていた.
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