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※冥王様から聞いて、キミも分かっただろう? 狂座はこれまでに幾多もの歴史ーー平行世界を消して来た事を……ね。
ボクは今から十年程前、確かこの世界の六個前の平行世界、唯一の生き残りだ。
狂座は大体一年程で、世界そのものを消し去ってきた。その期間、地球の半分程の人間を“ゆっくり”と虐殺し、残りはそのまま星そのものと運命を共にさせる。その過程で見込みのある者は狂座入りが赦され、生き残る事が出来る。
勿論、盟約として悠久の刻を生きる権利を強制的に与えられてね……。
理由? 全ては冥王様の退屈しのぎの一環だよ。
ボクは冥王様に、この人の心を映す特殊な潜在能力を見出だされ、狂座入りした。
住んでた街も、親も他の人達も皆殺され、最後は宇宙空間からこのエルドアーク宮殿内にて、地球が宇宙の藻屑となる瞬間も見たよ……。
冥王様が光を放った瞬間、地球がまるで花火の様に消え散ったのを見た時、ボクは此処でしか生きて行けない事を思い知らされた。
そして新参者でありながら、早期直属に任命されてボクを待っていたのがーーアザミとルヅキの二人だった。
二人は直属の中で最も権力を持ちながら、新参者であるボクに目を掛けてくれた……。この世界でたった一人だと思ってたボクに。
何時の間にか二人はボクにとって、本当の兄と姉みたいな存在になっていたんだ。
狂座は最悪でも……二人が居たからボクは生きて行けると、そう思ってたのにーー
…
***
「そ、そんな事が……」
ユーリが語った凄惨な過去に。そしてやはり狂座が世界を消し去ってきたという事実に、アミとミオは戸惑いを隠せない。
「だからーーボクの生きる意味でもあった二人を奪ったキミは、絶対に許さない!」
そうユーリは思いの丈をぶつける様、ユキの左手の甲へ短刀を突き刺した。
「ぐっ!」
完全に貫通したその感覚に、ユキは呻き声を漏らした。
「ほら? 泣き喚いて命乞いしろよ! キミの苦しみだけがボクの気を晴らしてくれるんだからね!」
ユーリは泣いているかのような怒っているかのような、どちらとも取れぬ叫びで刺した短刀をえぐり回しながら、ユキへ命乞いの懇願を促す。
「…………」
勿論、命乞いをした処で見逃す筈はない。彼女はユキの心を折りたいのだ。ただ殺すだけでは意味を成さない、気が晴れない。それが分かっているからこそ、ユキは命乞いも苦痛も漏らさずただ耐えていた。
「もうやめて! 貴女の気持ちは分かるわ。でも、こんなやり方は間違ってる」
立ち上がったアミがユーリを止めようと諌めるがーー
「黙れよ。未だこの世界が存続してるキミ達に、全て失ったボクの気持ちが分かるはずがないだろ!」
ユーリは手を止め、痛烈に批難した。その殺気にアミは思わず気圧されそうになる。
「ええ、分かりませんね。アナタの気持ちなど」
「ーーっ! まだ減らず口叩けるのかよ!」
不意に口を挟んだユキへ怒り心頭のユーリが、今度は彼の右手の甲へと短刀を突き刺した。
「……痛み等で私を屈せれるとでも?」
だがユキは意に介さない。痛覚が無い訳ではない。
「アザミとルヅキ、彼らとは命を掛けて闘った。その想いは何人たりとも侵す事は出来ない。それに比べてアナタは何です? ただ怒りに任せてヒステリーを起こしているだけ。そんな想いでは、決して私を折る事など出来はしない!」
両の手の甲が貫通しているのも構わず、ユキは立ち上がる。その姿にユーリは思わず気圧され、退いていた。
「なっ……」
何よりーー自分自身を見透かされたような気がして。
「もう……いいや。もっと痛めつけてから殺すつもりだったけど、今すぐ終わらせてやるよ!」
折れないユキに業を煮やしたのか、ユーリが短刀を彼の心臓へ向けて狙いを定める。
「立ち上がった処で、状況は何も変わらないんだからね」
そう、ユキは彼女の力を破った訳ではない。ユーリがユキの心を映し出したアミの姿をしている限り、決して手を出す事は出来ない事を。
「…………」
事実、ユキは無防備にも動けないでいる。
「ユキ! 私を否定して! 私は何も気にしてないから!」
動かないユキを見てとったアミが、そう懇願する。
「無理だね。例え死ぬ事になろうとも、彼は覆さない。キミの為なら死さえも受け入れてるんだからね」
ユーリの言葉の意味を、アミも深い程に分かっていた。ユキは自分の為に、決して自身を顧みない事を。
「ユキ……お願い」
それでも願わずにはいられない。覆さぬ事が分かっていても、自分より自身を優先して欲しい事を。
「キミも彼女の為に死ねるなら本望だろ?」
「……くっ」
どうしても抗えぬユキへ向けて、心臓刺突の為に短刀を水平にしたユーリは狙いを定めーー
“ユキ……私の為に死んでーー”
「じゃあ、さようなら」
最後はアミの声帯と心の声でーー突進。