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Side青
暗い部屋に帰って、電気をつける。やっと緊張が解けた。
「はぁ…」
今日はけっこう仕事が詰まっていた。番組収録にロケにラジオとエンタメのオンパレードだ。
疲れた身体を何とかソファーまで引きずっていったところで、バッグの中から着信音が流れる。
「んぁ…?」
寝転がったままで腕を伸ばしてスマホの画面を見ると、視線が固まった。
きょもからメールが来ていた。
こんな時間にどうしたんだろう、と考えると同時に嫌な予感が頭をよぎった。
タップすると、
『じゅりごめんいえきてほしい』
「え」
漢字に変換されていないきょもの文面なんて初めて見た。だからきっとこれはヤバい。
慌てて跳ね起き、返事もせずに車の鍵をつかんで家を飛び出した。
ピーンポーン、と機械的な音が聞こえてからの間がもどかしい。
もしかしたら中で倒れてるんじゃないか、と嫌な想像ばかりが頭を巡る。
心配と恐怖で心が押しつぶされそうになったところで、ドアがガチャリと開いた。
「あっきょも、大丈夫!?」
顔を出したきょもは、少しだけ顔色が悪いように見える。
「…うん、ごめんな、こんな遅くに」
「そんなことより、どうした」
寒いし入って、と促されてリビングに通される。
「ねえきょも、大丈夫なの?」
「……さっき激しめな咳したらさ、ちょっとだけ血が混じっちゃって。俺びっくりしてとりあえず樹に連絡しちゃった」
俺は言葉を失った。それを見て、なぜかきょもは微笑んだ。
「いや、今は大丈夫。咳も落ち着いたし。だけどほんとに来てくれると思わなかったよ。だってラジオ終わりでしょ?」
「…そうだけど、ガチで心配したよ…」
とりあえず倒れてなくてよかった、と膝に手をつく。
「今の時間、かかりつけの病院もやってないしどうしようかと思って。調べたら喀血っていうらしいんだけど、もうわかんなくて。焦ってよく使う番号の一番上にあった樹に掛けたんだよね」
「でも、さすがに病院行ったほうがいいでしょ。だってもうすぐあれあるよ?」
あれ、と繰り返す。
「ああ。…まあ大丈夫っしょ、だってもう全然何ともないし」
今のお前の大丈夫が一番大丈夫じゃねえんだよ、と小さくつぶやいた。でも彼にはたぶん聞こえていなかった。
「もう苦しくない?」
うん、とうなずく。
「じゃあとりあえず早く寝な。俺そばにいるから」
きょもは笑って、「どうも」と寝室へ向かった。
横になった彼に優しく布団をかけると、おかしそうに笑った。笑顔が出るなら元気になったようだ。ほっと安堵する。
「樹、もう大丈夫だから帰っていいよ。こんな遅い時間に呼び出しちゃって悪いし」
「……倒れられるより夜中2時に呼び出されるほうがマシ」
クールだなあ、と微笑む。
「…じゃあ、おやすみ」
おやすみ、と声がする。
ドアノブに手をかけたところで、
「今ならほんとに大丈夫だから。樹が来てくれて安心した」
聞いてたのかよ、と笑みが漏れる。
「本番、俺らもきょもの体調考えてしっかりサポートするから。別にきょもだけが頑張りすぎることないから」
前を向いたまま告げる。
「おやすみ」
もう一度そう言って、ドアを閉めた。
続く