テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「片方は、貴方の実父、怪物だなんだのと話していたのは間違いなく私の養父です」
「…なら、話の流れ的にも〝怪物〟って言ってたのは、アルベルトのことを指してるの……?」
「……」
彼の長い睫毛がぴくりと揺れた。
否定も肯定もしない。
けれど、その重苦しい沈黙こそが、逃れようのない答えだった。
「……事実だけを話すと、私の昔の記憶は断片的で曖昧です。まるで飲み残ったシャンディガフのように、本来の色も味も失われ、濁っている」
こんなときまで、カクテルで自分の気持ちを例えるなんて。
それが彼なりの防衛本能なのか、あるいはすでに人間らしい言葉を失っている証左なのか。
「あのテープの通りなら……アルベルトは生まれながらにしてクロムウェル家の人間じゃなくて、何らかの理由でスラムから身柄を引き取って……いえ、買い取られて育てられていたってこと……?」
アルベルトは小さく頷いた。
「そう、でしょう。育てられた、という認識はありませんが……ある日、暗い部屋で目が覚めると、白衣を着た男たちに囲まれていた記憶が頭の片隅にありました、その中に養父の顔もぼんやりとあった気がします」
「ですが、私の養父……もとい実施者である男の顔を見るたびに、言葉にできないほど激しい復讐心と憎悪が湧いてくる。だから邪魔だと思って、私の手で始末したんです」
「……それだけで?」
「〝ノイズ〟は邪魔ですから。私の回路を乱すものは、排除すべき対象に過ぎません」
「……そう」
「……ひとまず、貴方の実父と、私の父親───もとい実施者が繋がっているのは分かりました」
アルベルトは空になったグラスを見つめ、決意を固める。
「最初は復讐のお手伝いのために調べ上げようとした貴方の実父についてですが……」
そこで言葉を区切って、琥珀色の液体で喉を潤した。
そしてまた続ける。
「……先程のテープを聞いたときは取り乱してしまいましたが、興味が湧いたんです。私という存在の〝中身〟について」
「アルベルトの中身? そんな他人事みたいに」
「はい。私は「私」が分かりません。私が今感じているこの焦燥も、疑問も、 本当に「私」のものなのか。簡単に言えば……その〝空白の記憶〟の部分を、探りたいのです」
「……なるほど……つまり、アルベルトはアルベルト自身のことを思い出すために、養父と繋がっている私の父を調べ上げたいということね」
「その通りです。私が「私」であるために」
「……確かに、貴方の養父と私の父親が繋がっているのは驚きだったけど、調査を続ければ他にもなにか見つかりそうだし……いいわ、お互い、引き続き協力しましょう」
アルベルトのその短い応答に含まれた凄みに、私は言い知れぬ高揚感を覚える。
バーの淡い光の下、私たちは再び、互いの利益と謎を共有する真の共犯者となった。
窓の外では朝靄が街を覆い始めていたが、私たちの心は、失われた過去を暴くための黒い炎で燃え上がっていた。