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「メガネは、いつもはされないんですか?」
もう少しだけ彼自身のことが知りたくなって、できればおしゃべりを続けられたらと、些細なことながら話題を投げかけてみた。
彼がメガネを掛けているのは、以前にテレビの会見で見たきりで、他ではメガネ姿を見かけたようなことはなかった。
「ああ、これはダテだからな」
あっさりとそう返されて、
「ダテだったんですか?」
意外な答えに驚かされる。
「そう、私は社長になったばかりで若さゆえに軽視されることもあるんで、多少は圧をかけられるよう、たまにメガネを掛けているんだ。テレビなど公の場では、メガネ越しの方が相手方にも圧をかけられることもあるだろう」
「圧を……そうなんですね」
単純にカッコいいなと思って見てしまっていたけれど、それだけなんかじゃない彼なりの戦略的な交渉術があったんだと気づかされる。
「……メガネを、している方がいいのか?」
──と、ふいに顔を向けられ、そう尋ねられた。
「いえ、その、別に、そういうわけでも……」
実際そう感じていたこともあり、彼から視線を逸らすと、しどろもどろで口にして慌てて首を振った。
「そうか、違うのか……」
恥ずかしさから否定をしたことで、思わぬ誤解をさせてしまったようにも感じて、「ああいえ、」と、口を開いた。
「……嫌いというわけではなく、そのどちらかと言えば、す……きな、方です……」
たださらりと好ましいとだけ伝えるつもりが、勝手に頬が熱くなるのを感じていると、
「……。好きな方、か……」
間を置いて相づちを打った彼の方も、ふとどこか気恥ずかしそうにも思えた。
けれど取り澄ましたその顔からはあまり感情は読み取れず、会話はそこでぎこちなく止まってしまった。
そうして車内に微妙な空気感が漂うと、それ以降は突破口は見つけ出せないまま、程なくしてパーティー会場に到着をして、結局は大して話ができなかったことで、この後への不安がまたふつふつと湧き上がった……。