ホテルの前でリムジンを降りると、ふいに腕が差し出されて、
「えっ、なんですか?」
その整った横顔を、わけもわからずに仰ぎ見た。
「腕を組まないか? 君は、私のパートナーなのだから」
まさかの提案に一瞬びっくりするけれど、こういう場ではそれも当たり前なのかもしれないと、腰にあてられた彼の腕の間へ、おずおずと自分の手を差し入れた。
彼の纏ったシルクのスーツの滑らかな手触りがじかに肌に伝わって、ドキドキとしてくる。
すると、「……そのドレス、似合っているな」と、彼が低く呟いた。
急な褒め言葉にハッとして、目を移すと、彼の耳が心なしか赤らんでいるようにも窺えて、思いも寄らない様子に、私の方も胸の高まりが増してくるみたいだった。
レセプション会場へ入ると、KOOGAの新たなトップである彼の元には、たくさんの人々が集まってきた──。
「久我社長、お初にお目にかかります」
「ええ、こちらこそです」
柔和な笑みを浮かべる顔を、横目にちらりと流し見る。
そんなソフトな笑い顔もできるのなら、私にもしてほしいかも……。きっと営業スマイルなんだろうとは察しながらも、自分にはまだ向けられたことのないにこやかな表情に、少しだけやっかみを感じていると、
「そちらの方は、どなたなのでしょう?」
取り巻きの中から、ふいにそう問いかけられた。
「ああ、彼女は香水メーカーのカッチェのお嬢さんで、」
そこまで話して言葉を切り、私の方を見やると、
「私の、婚約者だ」
彼は突然に、思ってもみない一言を口にした──。
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