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コメント
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読了したわ!もうもうもう、今回の話は感情がドッと来た……。 とよさんの荷物が風呂敷一つってところで、もうグッと胸に来たし、千歳が初めて「お願いします」って声に出した場面は本当にぐっときた。玲司さんの「初めて何かを欲しがったな」って台詞、めちゃくちゃ刺さったよ。柘植の準備の良さも含めて、みんなが千歳を静かに支えてる感じがたまらん。 で、ラストの「今朝、男の方が」で終わる引き!? 誰だよ、誰が先に受け出してるんだよ!! 赤い珊瑚、無事に戻ってくるのか心配すぎる……早く続きが読みたい🔥
草原草原(くさはらそうげん)

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local99
#大人の恋愛
瑠璃マリコ
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四日後の昼、裏口に、とよが立っていた。
晴れていた。風呂敷包みを一つ、胸に抱えている。頭にかぶってはいない。抱えている。
「とよ」
千歳は裏口の土間に下りた。
とよは顔を上げた。前掛けをしていなかった。前掛けのない、とよを、千歳は見たことがなかった。
「お嬢様」
とよは手を拭こうとして、前掛けがないことに気づき、袖で拭いて、それから千歳の袖に触れた。
「暇を、いただきました」
千歳は包みを見た。一つだ。六十八年の荷物が、風呂敷一つ。
「給金が、払えないからと。奥様が」
藤乃の声が、聞こえる気がした。あの歳で、どこへ行けると思う。あの日、藤乃はそう言って千歳を御堂へ送った。とよを守るために、千歳は梢の名で来た。
その、とよが、ここにいる。
「どこへ」
「妹のところへ、と思っておりますが。遠うございますし、向こうも楽ではございませんし」
とよは笑った。腰を曲げたまま、笑った。
「お嬢様のお顔を、一度見てから、と」
千歳は、とよの手を取った。
袖に触れていた手を、取って、自分の両手で包んだ。荒れた手だ。千歳の手より、もっと荒れている。この手が、十年、千歳に何かを持ってきた。盆の上の、梢の残り物。冷えた茶。櫛。帯留めの話。
「上がって」
「お嬢様、それは」
「上がって、待っていて」
千歳は、とよを土間の上がり口に座らせた。お初が台所の奥から出てきて、何も聞かずに、茶を置いた。とよが「ああ」と言って、湯呟みを両手で持った。
廊下で、柘植と会った。
「柘植様」
千歳は言いかけた。とよを、と。とよを、この家に。
言葉が、続かなかった。柘植に言えば、柘植は旦那様に伝える。それは、報告だ。報告なら、十年、してきた。奥様、梢様のお召し物が届きました。奥様、米が切れました。
頼みごとは、したことがない。
柘植は時計を出した。出して、見て、戻さなかった。戻さずに、千歳を見ていた。
「……いえ」
千歳は頭を下げて、柘植の横を通った。書斎へ。
障子を、自分で開けた。
玲司は机に向かっていた。顔を上げた。
「お願いが、ございます」
声が、思ったより大きく出た。
玲司はペンを置いた。
「とよが、暇を出されました。有明の家に、給金が払えないからと。行く先が、ありません」
千歳は膝をついた。手を、畳についた。右手も。隠さなかった。
「この家に、置いていただけませんでしょうか。台所でも、裏でも、何でも。私が、とよの分まで働きます。私が」
「君が働く話ではない」
玲司が言った。千歳は顔を上げた。
玲司は千歳を見ていた。しばらく、見ていた。
「初めて、何かを欲しがったな」
千歳は、口を開けて、閉じた。欲しがった。そうだ。着物も、部屋も、温かい飯も、与えられた。欲しいと言ったことは、一度もない。
「……はい」
玲司は立ち上がった。
「柘植」
障子の外で、声がした。
「はい」
柘植は、そこにいた。千歳が通ったあと、ついてきていたのだ。時計を見る音は、しなかった。
「部屋は、裏の三畳を空けてございます。布団も出しました」
千歳は振り返った。
柘植は障子の外に立っていた。頭を下げたまま、言った。
「奥様が書斎へいらっしゃる前に、支度は済ませておりました。差し出がましいことでございますが」
玲司は何も言わなかった。千歳は、何も言えなかった。
台所で、お初がとよに湯を足していた。
「とよさん、っていうんですね。あたしはお初。奥の仕事は、まあ、ゆっくり覚えてくださいな」
「ありがとう存じます。ありがとう存じます」
とよは何度も頭を下げて、それから、懐から紙を出した。
「お嬢様。これを」
小さな紙だった。折り目がついている。千歳は受け取って、開いた。
質札だった。
品目に、帯留め、とある。珊瑚。
「奥様の箪笥を片づけたとき、見つけました。黙って、いただいてまいりました。あたしの最後の盗みでございますよ」
とよは笑った。
「期限が」
千歳は紙を見た。日付がある。
今日だ。
今日までに受け出さなければ、流れる。流れれば、誰かの手に渡る。母の、赤い帯留めが。
千歳は立ち上がる。
「文ちゃん」
文が台所の戸口から顔を出した。
「市電は、どこから」
「え、奥様、どこへ」
「質屋へ。場所を、とよに聞いて。一緒に来て」
廊下で、柘植がとよを呼んでいた。部屋へ案内するつもりらしい。柘植は千歳を見て、何か言いかけて、言った。
「奥様。旦那様は、三年前から、有明家のことを調べさせておいででした。とよさんのことも、ご存じでございます」
三年前。
千歳は足を止めかけた。止めなかった。聞き返したいことが、一つ増えた。増えたまま、走った。
質屋は、市電で三つ目の停留所の近くにある。
市電の中で、文は何も聞かなかった。聞きたい顔をして、聞かなかった。千歳は質札を握っていた。母の、赤い珊瑚。熱の夜の、枕元。赤いものは魔除けになる、と言った母の声。
暖簾をくぐると、番頭が帳場から顔を上げる。千歳は質札を出した。
「これを。今日が期限と」
番頭は札を受け取って、帳面を繰る。繰って、手を止めた。
「ああ。珊瑚の帯留めでございますね」
「はい」
「それなら」
番頭は帳面を閉じた。
「今朝、男の方が」