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 翌日。つまりは土曜日。僕は秋葉原の改札口の前にいた。理由はもちろん、小出さんが誘ってくれた同人誌のショップに一緒に行くためだ。


「確か、この改札でいいんだよね」


 小出さんに指定された待ち合わせ場所の改札は『電気街口』という所。電気街かあ。僕にとっての秋葉原って、まさにそんなイメージ。でも前もって調べておいたんだけど、今ではいわゆる『オタクの街』って印象みたい。僕、浮きまくったりしないかな……。


「それにしても」


 さすがは土曜日なだけあって、とにかく人が多いこと多いこと。電車が到着するたびに、人がどんどん流れ込んでくる。そろそろ、待ち合わせ時間の十一時になろうとしているので、この中に小出さんもいるはずなんだけど……って、ん?


 僕が着ているコートの袖がくいくいと引っ張られた。小出さんだった。この前、本屋さんで会った時と同じワインレッドのコートを羽織っている。やっぱり、いつも見ている学生服姿よりもずっと可愛らしく見えてしまう。でもやっぱりスカートではなくてパンツ姿なのは相変わらずだった。そこが小出さんらしいんだけど。


「おはよう、園川くん」


「おはよう、小出さん。さっきの電車に乗ってたんだね。小出さんって小さいから全然気が付かなかったよ」


「ち、小さい!?」


 あ、しまった。思っていることをそのまま口にしちゃった。小出さん、背が低いことを気にしてたんだ。ちょっと拗ねるようにしてぷくりと頬を膨らませている。


 ……あれ? 頬を膨らませる? 学校での小出さんは、そんな仕草もしなければ表情を浮かべたりすることはなかったはず。


 もしかして、これが自然体の小出さんなのかな?


「ごめんね小出さん。小さいなんて言って」


「……大丈夫です。言われ慣れてますから」


 うん。全然大丈夫じゃないね。すごく気にしてる。僕としてはその背の小ささも含めて好きなんだけどね。でも、もう言わないでおこう。


「小出さん、改めて今日はよろしくね。僕、秋葉原って来たことなくて。だから道も全然分からなくてさ」


「ううん、全然平気。今日は私に任せてください」


 おお! なんだか今日の小出さん、すごく頼もしく見える。よし、今日は全てをお任せしよう。女の子のエスコートもできない自分がちょっと情けないけど。


「それじゃあ行こう、園川くん」


* * *


「うわあ、なんかすごいね」


 電気街口を出て少し歩いたところで、僕の視界いっぱいに広がった。一体何が広がったのかというと、それはアニメだったり漫画だったりの大きな広告だ。


 一応、調べて知っていたとはいえ、こうして実際に自分の目で見ると、いっそうそれを感じるなあ。


 正直、ちょっとビックリだったし。こういう街だったり雰囲気だったりを見たり感じたりするのは生まれて初めての経験だったから。


「すごいよね。でも、昔はもっと賑やかだったの。一時期、ここって完全に廃れちゃって。それで私が大好きだったお店も、ほとんどなくなっちゃって」


 小出さんは遠くを見るようにして、寂しげな表情を浮かべた。でも、それは一瞬だけだった。そして、言葉を紡ぎ続けた。小出さんの想いを詰め込んで。


「だけど、少しずつだけど戻ってきたの。私が大好きだった頃の秋葉原の雰囲気が。嬉しかった。失っちゃったものもたくさんあるけど、それでも街は変わろうとしているんだって。元に戻ろうとしてるんだって」


「小出さん……」


 小出さんの言葉には、たくさんの気持ちが込められていた。悲しさ。嬉しさ。喜び。そして希望。それらの感情が、僕の中に流れ込んできた。


 小出さんは、この街が大好きなんだ。


「良かったね、小出さん」


 こくりと、小出さんは頷いた。はにかんだ笑顔を浮かべながら。


「楽しみだなあ、同人誌ショップ」


「ううん、それはメインで。まずはその前に一緒に行きたい所があるの」


「行きたい所? どこに?」


「うん、メイド喫茶なんだけど」


「め、メイド喫茶!?」


 ニュースの特集で観たことがある。確か入店する際に『いらっしゃいませご主人様』とか言って出迎えてくれたりする、ちょっと変わった喫茶店であることを。


「でも、どうしてメイド喫茶に? 目的は同人誌じゃなかったっけ?」


 小出さんは小さくを振った。


「そうなんだけど、どうしても連れていってあげたくて。園川くんにも、この街を好きになってほしいから」


 その言葉が、僕の中で何かを弾かせた。嬉しかった。嬉しくて堪らなかった。小出さんの心の中に、僕はちゃんといたんだ。存在していたんだ。それを知ることができただけで、僕の心はほっこりと温かくなった。


 それに、小説やアニメだけじゃなく、小出さんは僕と同じものを共有しようとしてくれてるんだ。望んでくれてるんだ。僕にとって、それは何ものにも代えがたい宝物のように思えた。


 まだ同人ショップにも、メイド喫茶にも行ってないけど、すでに僕は十分だった。小出さんから、そんな大きな宝物をもらうことができたのだから。その宝物は、僕の心の中でキラキラと輝いてる。まるで綺羅びやかな宝石のように。


 この輝きは、きっと失うことはないだろう。これからもずっと、僕の中で輝き続けるんだ。それだけは、はっきりと分かるんだ。


「――ありがとうね、小出さん」


 そして彼女は頷いた。


 さっきよりも、ちょっとだけ大きく。

【完結!】仲良くしてよ小出さん! 〜本が大好きなコミュ症な女の子を振り向かせるため、僕は頑張ります〜

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