テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
にゃみ3
526
#チート能力
厨二病の創破
98
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
4,290
#婚約破棄
霞花怜
322
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
中央広場の時計の針は、いつの間にか午前9時を指そうとしていた。
しばらくベンチで考え続けていた俺だったが、良い解決策は見つかっていない。
「……まだ1時間あるし、せっかくだから街中でも見て回るか」
冒険者ギルド方面へと戻りつつ、目に入った店をのぞいていく。
ただし現在の所持金はたった70Rのみ。
無駄遣いどころか、生活必需品を揃えるのすら厳しいだろう。
気になった品物と店はメモだけ取っておく。
買うかどうか悩むのは、もう少し懐が暖かくなってからで十分だ。
「今夜ウォードさんと飲む約束もあるしなぁ。やっぱり命の恩人だから、俺が全額出したいし……ドロップ品の買取についてもギルドで確認しないとな!」
*************************************
そして午前10時過ぎ。
俺は、冒険者ギルドの前へと戻ってきた。
深呼吸してから、ゆっくり入口の扉を開けて中に入る。
ギルド内は朝一の人混みからは想像できないぐらい、人もまばらで静かだった。
「良かった……テオはもう、いないみたいだ」
ホッとしたところで。
誰も並んでいないカウンター窓口に向かう。
「すみません」
「おはようございます。ご用件は何でしょうか?」
すぐに顔を上げて対応してくれたのは、20代前半ぐらいの美人な女性職員。
ゲーム内でもおなじみの彼女だ。
素敵な爽やか笑顔にニヤけそうになるのを押さえつつ、手短に用件を伝える。
「タクト・テルハラと申します。原初の神殿にご紹介いただき、ダガルガ・ボア様へお会いしたいのですが」
「紹介状はお持ちですか?」
「はい、お預かりして参りました」
「かしこまりました。少々そのままお待ちください」
【収納】から『紹介状』を取り出して、言われた通りに待っていると。
カウンター横の扉から、眼帯を付けた大柄な男が現れた。
「おう、兄ちゃん。神殿の紹介だってな!」
「は、はい……タクト・テルハラと申します」
「ガハハ、固ぇなァ! かしこまんなくていいからよ、楽に行こうぜ、楽に!」
「はぁ……」
浅黒く日焼けしたゴツゴツの筋肉。
傷跡が残る厳つい面構え。
やたらと大きく響き渡ってくる野太い笑い声。
というか身長高くない?
軽く2mは超えてる気がするんだけど!!
ゲーム画面越しに見るのとは段違いな迫力に、やや怖気づいてしまう。
「しょうがないですよ。ギルド長は『いかにも……』って感じの人ですし、初対面なら怖がるのが当たり前です!」
「違ぇねェ、ガハハハハハッ!」
眼帯男にビシッと言い放ったのは、先ほどの女性職員だった。
「ほらギルド長、挨拶」
「おう、そうだな! 俺がダガルガ・ボアだ、よろしくなっ!!」
「……よろしくお願いします」
*************************************
ダガルガと一緒に、部屋の隅のテーブル席へと移動する。
座るよう指示された椅子は、よりにもよって『先ほどテオがいた席』だった。
少し戸惑ったものの、大人しく座っておくことにした。
「紹介状があるんだってな?」
「はい、こちらです」
準備していた『エレノイアの紹介状』を渡す。
ダガルガは小さなナイフで封を切ってから、中の便箋に目を通していく。
「……状況は大体分かった。エレノイアの嬢ちゃんの言う通り、ある程度の知識とチカラさえありゃあ、どうにか生きてけるだろ。よっしゃ、俺が何とかしてやるぜッ!」
「ありがとうございます! あと、エレノイア様からこれも預かってまして……」
【収納】から『エレノイアの手土産』を取り出し渡す。
「おっ! 【収納】持ちなのか!」
「そうです」
「【収納】スキルは便利だよなァ、うらやましいぜ!」
「持ってる方は少ないんですか?」
「そっか、お前にゃ記憶が無ぇんだったな……【収納】持ちは確か100人に1人位だと思うぞ。有ると無ぇとじゃ、探索時は雲泥の差だからなァ……ってな訳で、俺みてぇに無ぇほうの奴はコイツを使うのさ!」
とダガルガは、自分の腰に付けた革袋を指さした。
「実はこれ『魔法鞄』といって、【収納】の効果がついた凄ぇアイテムなんだぜ!」
『魔法鞄』自体はゲームにも登場するアイテムだ。
ただしプレイヤーは、収納量に上限なしのアイテム欄を使えてしまう。
単なる趣味装備だとばかり思っていたが……現実では、重宝されているらしい。
「でもやっぱり【収納】スキルは羨ましいよな~。魔法鞄は結構高ぇしよ、袋自体を落としたり盗まれたりしちまったら意味ねぇからな、ガハハハッ! ……いけね、忘れてたぜ!」
手土産の存在を思い出したダガルガは、嬉しそうに開封し始めた。
「エレノイアの嬢ちゃん、いつも気の利いたモン届けてくれんだよなァ……おっ、流石分かってんじゃねぇか!!」
甘い香り漂う焼き菓子が10個ほど入った器。
黄金色の液体が詰まったおしゃれな小瓶。
さっそく焼き菓子を1つ食べ、ダガルガが笑顔になった。
「うんめェ! おい、お前も食うか?」
「ありがとうございます、いただきます」
すすめられるままに一口かじってみる。
硬めのクッキーみたいな食感で、ナッツが良い感じのアクセントになっていた。
「……おいしいですね!」
「だろ? 嬢ちゃんの得意料理でな、たまに焼いては届けてくれるんだよ……で、こっちは『ローズ印の蜂蜜』だ!!」
小瓶を回し、貼られたラベルを俺に見せてくるダガルガ。
描かれていたのは、蜂と薔薇が美しくデザインされた精密画。
「ローズ印は大人気で、なかなか手に入んねぇんだよ! ここの蜂蜜食べたら最後、他じゃ物足りなくなっちまう旨さだからなァ……くぅぅ~~」
幸せそうな顔で、蜂蜜の小瓶に頬ずりするダガルガ。
甘いものに夢中な姿を見ているうち、いつの間にか俺の緊張はとけていた。
「ギルド長」
ピリピリと声をかけてきたのは、窓口にいた女性職員。
「おう! なんだ、お前も食いてぇのか?」
「違います!」
彼女は差し出された焼き菓子の器には目もくれず、ムッと否定する。
「なんだ食わねぇのか」
「……昼休憩にいただきます」
「やっぱ食いてぇんじゃねぇか! うめぇもんなァ、これ――」
「そうじゃなくて! ちゃんと仕事をしてください、ギルド長!」
「なんだ、そっちかよォ…………あッ!!」
「こちら昼まで預からせていただきます」
「そりゃないぜ……」
隙をついて蜂蜜と菓子を没収した職員は、颯爽とカウンターへ戻っていった。
しょぼんとするダガルガだったが、溜息交じりに俺へと向き直る。
「……ところで何か質問はあるか?」
「えっと……ここに来るまでに、森で魔物を倒してドロップ品の鉄鉱石や石炭を手に入れたんですが、買取ってお願いできますか?」
「もちろん大歓迎だ! エイバスは『職人の街』だから生産素材は需要があってな。遠慮なく窓口に相談してくれ! 他に困ったことは?」
「そうですね……生活必需品や防具を揃えるのにお勧めのお店ってありますか?」
「まぁ予算次第だな! 手持ちの金はどんな感じだ?」
「全部で70Rです」
「まぁその状況じゃ、しゃあねぇよな……なるべく安くて品物もそれなりな店をいくつか教えといてやるよ!」
ダガルガは魔法鞄から紙とペンを取り出し、候補店と場所をサラサラッと書いた。
「ほらよ! この辺りの店なら、ぼったくりはないから安心していいぞ!」
「ありがとうございます」
「いいってことよ、無くさねぇうちにしまっとけ!」
「はい」
貰ったメモは【収納】へしまっておく。
「そんで、剣術指導についてだがよォ――」
「ちょっと待ったぁ!!」
話に割って入ってきたのは、俺が会いたくないと思うあの男。
「テ、テオ?!」
素っ頓狂な声を上げ、思わず立ち上がった。
――やばいやばいやばいッ
――なんで居るんだ?
――コイツにバレたら全部が崩れる
――隠し通さなきゃ!
――いや、まだ大丈夫なはず……
色んな思考が、頭の中を駆け巡る。
そんな俺の焦りをよそに、能天気に会話するダガルガとテオ。
「……なんだ、お前ら知り合いか!」
「うん、さっき仲良くなったんだよー」
「そうかそうか! ところで、テオは何の用だ?」
「タクトへの剣術指導なんだけど、俺に任せてよっ!」
「へ!?」
急すぎるテオの提案に、俺は顔を引きつらせてしまう。
「いやでも、エレノイアの嬢ちゃんに頼まれたのは俺だしな――」
「ちっちっち」
渋るダガルガに向け、指をふるテオ。
「ダガルガが、すっごく強い一流剣士だってのは認めるよ? でも使ってる剣は大きくて重いじゃん。『斬る』って表現より、『パワー生かして剣で殴りつけたり、叩き斬ったり』って言った方がしっくりくる戦闘スタイルなんだよねー」
「おう、その通りだな!」
テオの言葉にうなずくダガルガ。
「タクト、今の物理攻撃力っていくつ?」
「えっと……」
ステータスを確認し答える。
「24です」
「に、24だとォ?! ……低すぎだろ。剣術教える以前にまずはLVアップか何かでチカラつけねぇと、こりゃどうにもなんねェぞ……」
黙り込むダガルガ。
テオはニコッと笑って話を続ける。
「そこで俺の出番ってわけだっ!」
「……なるほど。テオの剣術スタイルは『軽い剣』と『素早さ』を生かすタイプだから、確かにタクトでもすぐに真似できそうだな!」
「だろ?」
「え、テオって剣で戦えるのか?!」
ゲーム内のテオはずっと歌ってばかりで、戦う描写なんか一切無かったはずだ。
「当然っ!」
胸を張るテオ。
「テオは凄ぇんだぞ、剣だけじゃなく槍も弓も斧も、何かよく分からんマイナーな武器でも戦えるんだぜ!」
「1番得意なのは楽器だけどね、やっぱり吟遊詩人だからさー」
「あ、俺の剣は無理だったな!」
「ダガルガの剣が重すぎるんだって! あんな重い大剣よく使えるよねー」
「ガハハハハッ」
笑い合う2人。
ひととおり笑い終えたあと、テオは話を切り出す。
「てなわけでダガルガ、俺がタクトの剣術指導したほうがよくない?」
「そりゃそうだが……エレノイアの嬢ちゃんに頼まれたのは俺だし、なんだかんだと色々貰っちまったしなァ――」
「あのさー、ひとり立ちの支援って何も『剣術指導』だけじゃないだろ?」
「……なるほど! ちょっと待ってろ」
腰の魔法鞄の中身を確認し始めるダガルガ。
ややあって取り出した“丸い盾”を、俺へと差し出す。
「おいタクト、やるよ!」
「これは?」
「『ミスリルバックラー』だ! だいぶ昔にダンジョンで見つけてから、すっかり売るの忘れてたんだけどよ。防御力が高い割に軽くてな。片手剣との相性もいいから、お前さん向きだぜ!」
「そんな、もらえないですよ――」
「もらってくれねぇと困るんだって! エレノイアの嬢ちゃんに『ローズ印の蜂蜜』なんてレアなもん貰っちまったし、このままじゃ俺の気が済まねぇんだよ!」
「あの蜂蜜、そんなに珍しいんですか?」
「おう! 限定生産らしくてな、毎年時期になるとすぐ売り切れちまうんだ! ローズ印をよ、ほんのちょっとの量スプーンでとってなめると、薔薇の香りが口の中にブワァーっと広がるんだぜ……」
うっとりしながら語るダガルガだったが、話の途中であったのに気が付く。
「おっといけね! ……まぁなんだ、蜂蜜の件がなくても、嬢ちゃんには世話になってるからな。出来る範囲で面倒みてやっから、困った事があったら言えよ!」
「ありがとうございます! あの、でも、俺やっぱり剣術指導は――」
瞬間、テオがボソッと俺の耳元でつぶやいた。
「――あのこと、ばらすよ?」
ゾワッとした何かが背筋を走り、思考が停止する。
「剣術教えるのは俺でいいよね、タクト?」
笑顔のテオによる無言の圧力。
「…………はい、よろしくお願いします……」
俺は、抵抗を諦めた。