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話がまとまると、ダガルガは冒険者ギルドの奥へ戻っていった。
テオに促されるまま外の通りに出たところで、恐る恐るたずねてみる。
「……あのぅ」
「なんだいタクト?」
「これからどこに連れていかれるんでしょう?」
「そーだな~……」
腰に付けた銀時計で時刻を確認するテオ。
「11時過ぎ。もうすぐお昼かぁ……そうだ! 天気もいいし、お昼ごはん買ってピクニックでもしよっか」
「ぴ……ぴくにっく?!」
「うん、色々喋りたいこともあるし。あ、今日のお昼は俺がおごるぜっ!」
「は、はぁ……ありがとうございます……」
この状況でピクニック……?
……やっぱりテオは、よく分からない。
2人で雑談――テオが一方的に喋るだけ――しながら、街の正門へと向かう。
途中でテオが、彼のお気に入りだという屋台でランチボックスを購入。
正門では、昨日と同じくウォードが守衛を務めていた。
俺たちが連れ立っているのを驚かれつつ門を抜け、テオの案内で森へと進んだ。
*************************************
しばらく歩き、森の中の開けた場所に到着した。
周囲に魔物などがいそうな気配はない。
鳥のような鳴き声が、遠くから聞こえてくるだけの静かな所。
「このへんでいいかな。タクト、お昼にしよー!」
「はい……」
テオが魔法鞄から、大きな厚手の布を取り出した。
「広げるの手伝ってよ」
「あ、はい。……この布は?」
「『旅人の絨毯』っていうアイテム。濡れないし燃えないし汚れもつかない加工がされてるから、ピクニックとか野営とかに便利なんだよねー」
いうなれば地球のレジャーシートのようなものだろう。
2人がかりで敷くと、テオが座ってランチボックスやカップ等を並べだした。
「タクトも早く座って!」
「はい……」
言われるがままに座る。
自分の顔が強張っているのが、嫌でも分かる。
「飲み物は温かい紅茶でいい?」
「大丈夫です……」
「レモン? ミルク? ストレート?」
「ストレートで……」
「りょーかい!」
上機嫌らしいテオは、魔法鞄からポットを出した。
流れるような手さばきで、鼻歌まじりに湯気のたつ紅茶をカップに注いでいく。
準備が終わったところで全体を見渡し、満足げに笑った。
「よーし、これでOK。あとは仕上げにスキル【隠密】発動っ! ……うん、大丈夫かな? じゃあ食べよー、いただきまーす! …………う~ん♪」
サンドウィッチにかぶりつくなり、テオは幸せそうな顔を見せる。
こちらの緊迫感などお構いなしの能天気ぶり。
俺はもう、どうしていいのか……分からなくなってしまった。
2口3口と食べ進めるテオが、不思議そうな顔になる。
「あれ? 食べないのかい、タクト?」
「…………」
「う~ん……」
考え込むテオ。
不意に「あぁ……」と何かに思い当たった表情になる。
それから、申し訳なさそうに喋り始めた。
「『あのことばらす』、だろ?」
「……!」
「図星っぽいね。さっきのあれはちょっとからかっただけで、別に本気でしゃべるつもりじゃ無かったんだけど……まぁ俺が悪かった、ごめん! ここまでタクトが深刻になると思わなくてさー」
「え、いや……」
素直に謝るテオに、少し面食らってしまう。
「ちなみに『あのこと』って」
「タクトが勇者だってことだろ?」
「う! やっぱバレてたか……」
テオはにっと笑ってから、話を続けていく。
「……そうそう、さっき念のため【隠密】スキル張っておいたんだよね。【隠密LV1】は半径3mの気配を消すことができるスキルだから、しばらくは魔物にも冒険者にも気づかれにくいはずだし、安心してしゃべれるよ。勇者だってこと、隠したいんだろ?」
「あ、はい……ありがとうございます……」
相変わらずテオの意図が読めない。
考えれば考えるほど訳が分からなくなってきて……。
……ええい!
もうどうにでもなれッ!!
逆に覚悟を決めた俺は、真剣にテオを見据えた。
「テオさん!」
「ん?」
「単刀直入に聞きます! あなた、いったい何がしたいんですかッ!」
一瞬の沈黙。
「ふっ……それこっちのセリフ、あははは!」
なんとテオは大きな声で笑い出した。
肩透かしをくらい、ポカンとする。
ややあって、テオが再び話しはじめる。
「ごめんごめん、同じこと考えてたんだなーって思ったら可笑しくなっちゃって」
「はぁ……」
「で、何がしたいかってことだけど。俺、夢があってさ」
「夢?」
「うん。俺の歌で、世界中の皆を笑顔にするって夢。だから勇者を探し続けてたんだ。それが、俺のしたいこと!」
「……全く意味が分からないんですけど」
「やっぱり? 『何考えてるか分かんない』とかよく言われる~!」
茶化すように言ったあと、テオは少し寂しそうな顔をした。
――何となく、引っかかる。
ゲームのテオは、いつでもどこでも笑顔で歌を届けていた。
そんな表情は1度も見た記憶になくて……らしくない気がしたのだ。
思い切ってタメ口で話を切り出す。
「ああ、分かんねぇな。一応今日が初対面だし。だから分かるように話せよ」
「そんなこと言っても何を話せばいいんだか――」
「――全部!」
「え?」
「テオが『俺に話してもいい』って思う範囲でいいからさ、最初から教えろよ!」
「……」
憑き物が落ちたかのように、いつの間にかテオからふざけた空気が消えていた。
テオがおずおずと口を開く。
「……タクト、最初からだと時間かかるぞ?」
「急ぐ用事は別にない。あ、19時に別の約束してるから、それまでなら大丈夫」
「……分かるように話せるかも分かんないけど?」
「分かんない部分は俺から質問する」
「…………引かない?」
「もう引きまくってるから、これ以上引くことはない!」
「なんだよ、それ……」
どちらからともなく笑い合う俺達。
「じゃあ、食べながら話すってことでOK?」
「ああ」
改めて、全く手をつけていなかったランチボックスを開けてみる。
ハンバーガーみたいな丸いサンドウィッチ。
唐揚げのような塊肉の揚げ物。
シンプルな生野菜のサラダ。
テオによると、この世界の冒険者には魔法鞄が割と普及している。
だから、こういうランチボックスを買い込んでストックするのが定番だとか。
中身は街や店によって全然違うから、旅先での食べ比べも楽しいらしい。
「……さぁ~て、どっから話そうかな」
「テオが話したいとこからでいいよ」
「なら少し長くなるけど……」
そう前置きし、テオは話し始めた。
とある街で、小さな商店を営む両親の元に生まれたテオ。
彼は幼い頃、周りから『神童』と持てはやされていた。
勉学をさせても武器を持たせても、努力することもなく全てを器用にこなす。
そして1属性の適性を生まれ持つだけで天才扱いされる魔術スキル。
テオはなんと『火・水・風・土』という4属性を生まれつき使えたのである。
ところが周囲の期待に反して、彼は落ちこぼれ始めた。
年齢を重ねるにつれ、だんだんと他の子供たちに埋もれていくのだ。
テオはとにかく頑張った。
片っ端から色々試した。
だが何においても一定の壁を越すことができず――
あれこれ悩むうち、テオは10歳になった。
この世界では、10歳になると自分のステータスを見られるようになる。
テオも他の子どもと同じように、ずっと前から、その日を心待ちにしていた。
色んな可能性を夢見て、色んな未来を空想して。
そして迎えた誕生日、午前0時。
あらかじめ親に教えてもらった通り、テオは「ステータスを見たい」と念じる。
開いたウィンドウを初めて見た瞬間。
テオは知ってしまった。
――自分の可能性は、ほぼゼロなのだと。
そこまで喋ったところでテオは複雑な顔で黙り込む。
俺はちょっと迷ったが、あえてストレートに聞いてみることにした。
「……なぁ。10歳のテオは、何を見たんだ?」
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