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諸々の話がまとまると、ダガルガは冒険者ギルドの奥へ戻っていった。
テオに促されるまま外の通りに出たところで、俺は恐る恐るたずねてみる。
「あのぅ……」
「なんだいタクト?」
「これからどこに連れていかれるんでしょう?」
「そーだな~……」
腰に付けた銀時計で時刻を確認するテオ。
「……11時過ぎ。もうすぐお昼かぁ……そうだ! 天気もいいし、お昼ごはん買ってピクニックでもしよっか」
「ぴ……ぴくにっく?!」
「うん、色々喋りたい事もあるし。あ、今日のお昼は俺がおごるぜっ!」
「は、はァ……ありがとうございます……?」
やっぱりテオはよく分からない。
2人で雑談――ほとんどテオが一方的に喋るだけ――しながら、エイバスの街の正門へと向かう。
途中でテオが“彼のお気に入り”だという屋台でランチボックスを購入。
正門では、昨日と同じくウォードが守衛を務めていた。俺達が連れだっている事をウォードに驚かれつつ正門を抜け、テオの道案内で森の奥へと進んでいく。
しばらく歩き、森の中の開けた場所へと到着した。
近くに魔物や冒険者らがいそうな気配はなく、鳥のような鳴き声だけが時折遠くから聞こえてくるだけの静かな所。
「このへんでいいかな。タクト、お昼にしよー!」
「はい……」
テオが魔法鞄から、大きな厚手の布を取り出す。
「広げるの手伝ってよ」
「あ、はい。……この布は?」
「『旅人の絨毯』っていうアイテム。濡れないし燃えないし汚れもつかない加工がされてるから、ピクニックとか野営とかに便利なんだよねー」
いうなれば地球のレジャーシートのようなものってことか。
そういやゲームにもあった気がするな。
2人がかりで絨毯を敷くと、テオは座ってランチボックスやティーカップ等を並べだした。
「ほらタクトも早く座って!」
「はい……」
言われるがままに座る。
自分の顔が強張っているのが嫌でも分かる。
「飲み物は温かい紅茶でいい?」
「大丈夫です……」
「レモン? ミルク? ストレート?」
「ストレートで……」
「りょーかい!」
上機嫌らしいテオは鼻歌を歌いながら魔法鞄からポットを出し、湯気のたつ紅茶をカップへと注いでいく。
準備が終わったところで全体を見渡し、満足げに笑った。
「よーしっ、お昼の準備はOK。あとは仕上げに【隠密】発動っ! ……うん、これで大丈夫かな? じゃあ食べよー、いただきまーす! …………う~ん♪」
早速サンドウィッチにかぶりつくなり、テオは幸せそうな顔を見せる。
こちらの緊迫感などお構いなしな能天気ぶりを見ているうちに、俺はもうどうしていいのか分からなくなってしまった。
2口3口と食べ進めるテオが不思議そうな顔になる。
「あれ? 食べないのかい、タクト?」
「…………」
「う~ん……」
考え込みはじめるテオ。
ふいに「あぁ……」と何かに思い当たった表情になったあと、彼は申し訳なさそうに喋り始めた。
「図星っぽいね。さっきのあれはちょっとからかっただけで、別に本気でしゃべるつもりじゃ無かったんだけど……まぁ俺が悪かった、ごめん! ここまでタクトが深刻になると思わなくてさー」
「え、いや……」
素直に謝るテオに、少し面食らってしまう。
「ちなみに“あのこと”って――」
「タクトが勇者だってことだろ?」
「う! やっぱバレてたんだ……」
テオはにっと笑ってから、話を続けていく。
「……そうそう、さっき念のため【隠密】スキル張っておいたんだよね。【隠密LV1】は自分中心に半径3mの気配を消すことができるスキルだから、しばらくは魔物にも冒険者にも気づかれにくいはずだし、安心してしゃべれるよ! 勇者だってこと、隠したいんだろ?」
「あ、はい……ありがとうございます……」
相変わらずテオの意図が読めない。
考えれば考えるほど訳が分からなくなってきて――
――ええい、もうどうにでもなれ!!
逆に覚悟を決めた俺は、真剣にテオを見据えた。
「ん?」
一瞬の沈黙。
なんとテオは大きな口を開けて笑い出した。
肩透かしをくらい、ポカンとする俺。
ややあって、テオが再び話しはじめる。
「……ごめんごめん、俺と同じこと考えてたんだなーって思ったら可笑しくなっちゃって!」
「はぁ……」
「で、何がしたいかってことだけど。俺、夢があってさ」
「夢?」
「うん。俺の歌で、世界中の皆を笑顔にするって夢。だから勇者を探し続けてたんだ。それが、俺のしたいこと!」
「……全く意味が分からないんですけど」
「やっぱり? 『何考えてるか分かんない!』とかよく言われる~!」
茶化すように言ったあと、テオは少し寂しそうな顔をした。
何となく、その表情が引っかかる。
ゲームのテオはいつでもどこでも笑顔で歌を届けていたし、そんな表情は今まで1度も見た記憶がなくて……“らしくない”気がしたのだ。
思い切ってタメ口で話を切り出す。
「分かるようにって……何話せばいいんだか――」
「全部!」
「え?」
「テオが『俺に話してもいい』って思う範囲でいいからさ、最初から教えろよ!」
「……」
いつの間にか、憑き物が落ちたかのように、テオからふざけた空気が消えていた。
「……タクト、最初からだと時間かかるぞ?」
テオがおずおずと口を開く。
「急ぐ用事は別にない。あ、19時にウォードさんと約束してるから、それまでなら大丈夫」
「……分かるように話せるかも分かんないけど?」
「分かんない部分は俺から質問する」
「……引かない?」
「もう引きまくってるから、これ以上引くことはない!」
「なんだよ、それ……」
どちらからともなく笑い合う俺達。
「……じゃあ、食べながら話すってことでOK?」
「ああ」
改めて、全く手をつけていなかったランチボックスを開けてみる。
中に入っていたのは、まだほんのり温かいハンバーガーっぽい丸パンのサンドウィッチ、ゴロッとした唐揚げっぽい塊肉の揚げ物、シンプルな生野菜のサラダ。
テオによると、この世界の冒険者には【収納】や『魔法鞄』がそれなりに普及しているので、こういったランチボックスを大量に買い込んで旅をする人が多く、その中身はサンドウィッチが定番らしい。
また「国や店によってランチボックスの中身が全然違うから、旅先での食べ歩きはほんと楽しい!」とのこと。
「さぁ~て、どっから話そうかな」
「テオが話したいとこからでいいよ」
「わかった。少し長くなるけど……」
そう前置きし、テオは話し始めた。
とある街で、小さな商店を営む両親のもとに生まれたテオ。
彼は幼い頃、周りから“神童”と持てはやされていた。
勉学をさせても武器をもたせても、努力することなく全てを器用に上手くこなす。
そして人間族なら“1属性の適性”を持つだけでも“天才”扱いされる魔術スキル。
テオはなんと『火・水・風・土』と4属性もの魔術スキルを、生まれつき使うことができたのだ。
ところが周囲の期待に反し、彼は年齢を重ねるにつれ、だんだんと他の子供たちに埋もれ、そして落ちこぼれはじめていく。
その事実に気付いたテオは、とにかく頑張った。
片っ端から色々試してみた。
だが何をやってもどのようにしても、ある一定の壁を越すことができず……。
あれこれ悩んでいるうちに、テオは10歳になった。
この世界では、10歳になると自分のステータスを見ることができるようになる。
ステータスというのは、称号やスキルという形で、本人の適性を明確に示すものでもある。
だから『10歳の誕生日』は自分の将来の可能性を知れる特別な日なのだ。
テオも他の子どもたちと同じように、10歳になるその日を、ずっと前から心待ちにしていた。
色んな可能性を夢見て、色んな未来を空想して。
そして迎えた誕生日、午前0時。
あらかじめ親に教えてもらった通り、テオは「ステータスを見たい」と念じる。
開いたステータスウィンドウを初めて見た瞬間。
テオは知ってしまった。
そこまで喋ったところでテオは複雑な顔で黙り込む。
俺はちょっと迷ったが、あえてストレートに聞いてみることにした。
「なぁ。10歳のテオは、何を見たんだ?」