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#王子
おそるおそる、汗でしっとりとした背中にタオルを当てる。
「…痛くないですか?」
「ああ、ちょうどいい」
低い、心地よさそうな返事。
ゆっくりと丁寧に、肩から腰にかけてタオルを滑らせていく。
想像していたよりも、彼の肌はずっと熱く、そして吸い付くように滑らかだった。
肩甲骨の隆起をなぞるように拭うと、アイゼン様の体が僅かに震えた。
もしかして痛かったのだろうか。
「大丈夫ですか?」と訊くと
「……気にするな。熱のせいだ」と低い声が返ってきた。
絞り出すような声だ。
どうやら背中の中央あたりに寝汗が溜まっているようで、そこを重点的に清めていく。
作業を続けるうち、彼の呼吸が徐々に深く、穏やかになっていくのが伝わってきた。
無防備に私に背中を預けてくれるその姿が、たまらなく愛おしく感じる。
「……はい!これで綺麗になりました」
なんとか平静を装って着替えを手伝い終えると、私は立ち上がった。
使ったお湯を替えに、一度部屋を離れようとした
──そのとき
「……っ」
グイッ、と強い力で後ろから服の裾を引かれた。
「え……?」
驚いて振り返ると、そこにはベッドに上体を起こしたアイゼン様が
私のスカートの裾を、子供のようにぎゅっと掴んで離さない姿があった。
潤んだ双眸が、熱に浮かされたまま、縋るように私を見上げている。
「……行かないでくれ」
「アイゼン、様……?」
戸惑う私だったが
「……頼む、ノエル」
あの日、路地裏で死を覚悟していた時よりも、ずっと弱々しく、切実な響き。
「一人にしないで、くれ……」
あの日、路地裏で孤独に死を待っていた時よりも
ずっと弱々しく、剥き出しの心が漏れ出したような響き。
皇帝としての誇りも、鉄の仮面も
すべてをかなぐり捨てて、ただ私という存在を繋ぎ止めようとしている。
私は、実家で風邪をひいた時のことを思い出した。
暗く冷たい物置小屋で、誰も心配してくれず
ただ熱が下がるのを一人で待っていた。
あの胸が潰れるような心細さ。
この人も、あんなに豪華な宮殿に住んでいながら
心の中はずっと、あの物置小屋と同じ孤独に苛まれていたのではないか。
「…わかりました。アイゼン様が眠るまで、ここにいますね」
私はベッドの傍らの椅子に腰を下ろし、彼の手に自分の手を重ねた。
アイゼン様は安堵したように、けれど離すまいとする強い力で私の指を絡め取ってきた。
「どこへも行きませんから、安心して眠ってくださいね」