テラーノベル
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私は空いた方の手で、彼の熱い額を優しく撫でる。
ひと月前まで、遠い世界の住人だった彼。
今、私の手の中で、私という存在に救いを求めているこの人は
間違いなく、私にとって世界で一番守りたい、大切な人になっていた。
静かな夜の闇の中、彼と同じ「愛おしさ」という名の熱に、私もまた侵されていくのを感じていた。
◆◇◆◇
翌朝───
カーテンの隙間から差し込む朝日が、白いシーツを眩しく照らしていた。
昨夜の重苦しい熱気は嘘のように引き、室内には爽やかな朝の空気が流れている。
アイゼン様は穏やかな寝息を立て、憑き物が落ちたような安らかな寝顔で、深い眠りの中にいた。
そして私は……。
彼の手を握ったまま、ベッドの縁に頭を預けて眠ってしまっていたことに気づく。
もちろん、服はちゃんと着ているけど。
そっと身を起こすと、薄手のシーツがはらりと肩から滑り落ちた。
「ん……?」
かすかな衣擦れの音。それに反応したように、アイゼン様がゆっくりと瞼を持ち上げた。
「あっ、おはようございます、アイゼン様。お加減はいかがですか?」
私が顔を上げて笑いかけると、彼はぼんやりとした視線を私に固定した。
その瞳には、昨夜のような混濁した影はなく、澄み渡った冬の空のような青さが戻っている。
けれど、状況を理解するにつれ、彼の顔色が昨夜とは赤くなっていく。
「……ノエル」
名前を呼ばれるだけで、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
「はい?」
アイゼン様は一拍おいて、状況を理解したのか
昨夜、自分がどれほど子供のように甘え、縋り付いたかを思い出したらしい。
「っ!き、昨日は…すまない。変なことを言ってしまった気がするんだが…忘れて、くれ」
アイゼン様は慌ててシーツを引っ張り上げ、口元を隠して視線を泳がせた。
耳まで真っ赤に染まっている。
普段の威厳はどこへやら、初心な少年のように動揺するその姿に、私は思わず口元を緩めた。
「ふふっ、いいんですよ。看病されるのは病人の特権ですから。…でも、もう大丈夫そうですね。報告してきますので、待っててください」
私はくるりと踵を返し、廊下へと足を踏み出した。
昨夜の余韻が残る身体に、少し肌寒い空気が心地よい。
背中に感じる彼の視線が、なんだか今までよりもずっと、熱を持ってい射抜いているような気がする。
彼が本当の意味で弱さを見せられる相手は、私だけかもしれない。
そんな、甘やかな自負が胸の奥で静かに燃え始めていた。
#王子
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