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学園に入って、2回目の夏季休暇も終わろうとしている。ドレスの仮縫いもあり、あれから2回夏季休暇中にジョージアと会って打ち合わせをした。ジョージアは自宅のあるローズディアに戻っていたので、わざわざ私の家まで打ち合わせのために来てくれていた。ローズディアに戻ってからの話をしてくれるのでとても興味深い。
「一度、ローズディアに伺ってみたいですね。学園の一歩外に出れば、ローズディアですけど、公都はどんなところなのでしょう?」
「そうだね。ぜひ案内したいよ。公都はとても賑やかな街だよ!」
社交辞令でお互い言っているのはわかっているので、あえてそこまで深く話さないでいる。私の情報が正しいのであれば、帰省中は、男爵家からジョージアにソフィアとの婚約について、相当な圧力がかかっていると聞いている。
ジョージアにとって、自国に帰ることは、実はとても頭の痛いことなのだ。それを会う日には顔にも出さず、笑顔で受け流していく。
「今日はドレスが完成したと連絡をもらったのでご招待したのですけど、少しお疲れですか?」
優しい笑顔で受け流しても、ジョージアの顔は見てわかるほど草臥れている。
「いや、大丈夫だ。それよりも、アンナのドレスの出来が楽しみだ。今日は着て見せてくれるんだろ?」
「いいですよ! ジョージア様も見せてくださいね? とても楽しみです!」
先に見たいと言ってしまえば、ジョージアは嫌とは言わない。ニコッとしながらの先手必勝である。
「あぁ、わかったよ。アンナが望むなら、俺も衣装合わせしよう」
ため息交じりだが、まんざらでもなさそうだったのでよかった。
「遅くなりまして、申し訳ございません!!」
勢いよく兄の部屋を開けたのは、私たちの衣装を作ってくれたデザイナーである。その間に私は、ジョージアの隣に座り直し、デザイナーへ席を譲ることにする。
「慌てなくてよくてよ。それより、一息入れた方がいいわ。冷たい飲み物を」
そう指示すると控えていた侍女が、デザイナーへ配膳してくれる。飲み物をごくごくと勢いよく飲んで一息入れている。少し試着の用意にも時間がかかるようなので、ジョージアともう少し話をすることにした。
「この休み中に兄は、相当エリザベスに贈る宝飾品を悩んでいたようで、私も一緒に連れまわされたのですよ……」
「そうか。それは、大変だったね? それで、いいものはあったの?」
「結局、兄が思い描くようなものはなかったので、デザインから作ることにしたのです」
ジョージアは、私の話にほうっと聞き入ってくれる。それが嬉しくて、内緒だってことだったけど、ついつい話を続けていく。
「たまたま入ったお店が、私の友人のお父様が経営されているところだったようで、知らずに兄を連れて入ったんですよ。そこでも、兄が気に入るものがなくて諦めていたんです」
エリザベスに贈る宝飾品の話を珍しい話でも聞くかのように聞いてくれる。
「その友人、実は宝飾デザイナーなのですが、見てくださいってデザイン画を見せてくれたら、どれもこれも素晴らしくて……欲しいなと私も思ってしまいました。そこで、友人に兄がイメージしたものを私なりに想像して伝えたところ、素敵なデザイン画を描いてくれたので、それを兄に見せたら即決まりました」
「サシャは、結局アンナに頼りっきりだったんだな。それも含めて、なんともサシャらしいんだが……」
私は苦笑いするしかない。ジョージアのいうことは、もっともなのだから……。
「でも、兄もちゃんとエリザベスにとって似合うものを考えてはいたんですよ! たまたまそれに似合うものがなかったので、私と友人でデザインしちゃったってだけです」
「それならいいんだ。しかし、彼女もサシャに相当惚れ込んでいるようだね? 見てるこっちが、もどかしいほどだったんだ。こんなふうに卒業式が迎えられると思うとひとしおだろうね!」
エリザベスの想いは、ジョージアもうすうすわかっていたようだ。他人事とはいえ、微笑ましいと喜んでいた。
「あっ! そうだ。この話、私、ジョージア様にしちゃったけど、兄にもエリザベスにも内緒にしてください。墓場まで持っていく約束なので……」
そうニッコリ笑うと、柔らかい笑顔が返ってくる。
「わかった。アンナと秘密を共有できるなんて、俺も思ってもいなかったよ」
「もう! 茶化さないでください!!」
パシンっと腕を叩くと、「いてて……」なんて大げさに痛がるジョージアと笑いあっていた。
「……お話し中すみません…………大変、お待たせしました……。あの……こちらが、今回の衣装となります!」
「とってもいい雰囲気で話をされてましたので入れませんでした」と言いたげに視線をくれるデザイナーにコホンと2人が同時に咳払いした。
「あの、先ほどの宝飾品の話、もしかしてティアのことですか?」
こっそり聞き耳を立てていたようで、デザイナーに尋ねられる。
「そうよ。私の友人なの。今回、初めて仕事を任せたのだけど、すごく素敵なものを作ってくれたわ。兄も私もとても感動したくらい!」
「そうでしたか。私たちの中でも若手のティアは、これからがとても期待されているのです。発想も素晴らしいですし、彼女自身で加工もできてしまうので有望株なのです」
誇らしげにそのデザイナーは、ティアのことを語っていた。だが、今日は貴族である私たちの試着のために来たことを思い出したようだ。
「--申訳ございません。お話がそれてしまって……」
「いいのよ。学園でのティアしか知らないから、そんな風に友人の話が聞けて嬉しいわ。ただ、今聞いた兄のことは内緒にしてね!」
「もちろんでございます。こういう仕事は、顧客との信頼関係が重要ですから!! では、ご試着をお願いできますか? 」
そう言われて、試着することになる。部屋に設えられた簡易の試着室はジョージアが使用し、私は兄の衣裳部屋で着替えることになった。侍女に着替えを手伝ってもらい、試着するドレスに着替えると全身鏡に映る。
白から順番に紺色に向かっていくグラデーションがとってもきれいで思わずほぅと吐息が漏れる。濃い色で青薔薇の刺繍がされており、前回までの仮縫いと全く違うできに感嘆してしまう。
「お嬢様、少し髪を触らせてもらってもよろしいですか?」
私が頷くと、着替えを手伝ってくれた侍女にハーフアップにしてもらい少し夜会に行くかのごとく華やかにしてもらう。そうするとまた、ドレスが違った魅力を発揮する。
「ジョージア様、よろしいですか?」
「あぁ、こちらも準備できている」
衣装部屋から、出ていくとジョージアがこちらを見ている。
「…………とても、綺麗だ!」
ドレスの魅力に見とれていたのか、一瞬の沈黙のうち褒めてくれる。
「ふふふ……デザインがいいのですわ!」
「いや、アンナが着たからこそのドレスになったよ。どうだろ?」
デザイナーは、ジョージアを手伝っていたので私の試着を見て、手を前で組み神にでも祈るかのような恰好である。
「はい……とっても。アンナリーゼ様の魅力を私のドレスが引き立ててくれてます。とても……嬉しいです!」
大げさなとも思ったが、目には涙まで浮かべ始めたので、侍女にハンカチを渡してもらう。「ありがとうございます」と言ったきり、彼女はこちらに戻ってこない。何度も何度もハンカチで目頭を拭いていた。ジョージアに目配せして、デザイナーはそのままにすることにした。