テラーノベル
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🖤「翔太くん、ラウから電話だよ」
めめが声を掛けてきたけど、俺はいい、と首を振ってストレッチを続けた。
海外にいるラウール抜きで、歌番組の収録が進んでいる。今は出番待ちだ。ラウールが入るはずの場所は空いたまま、歌割りはメンバーで適当に割り振った。2フレーズも増えて、間違えないように歌詞もちゃんと確認しなきゃいけないし…。
色々ともっともらしい言い訳はあるけど、テレビ通話に切り替えて佐久間や康二が、ニコニコしながらラウールに手を振ってるのを見ると、胸がモヤモヤした。阿部ちゃんが隣りに寄り添って、俺の頭をポンと叩いた。
💚「なに意地張ってんだよ」
💙「別にぃ?」
💛「翔太の方が子供みたい。ラウ、一番声聞きたいの翔太なのになんでいじけてんの」
右には阿部ちゃん、左には照。膝を抱えて床に座っている俺に絡んできた。
めめの私物スマホの周りには人だかりができていて、今は舘さんが話してる。ロイヤルっぽい応援の言葉を掛けたらしく、みんなで大盛り上がりだ。
ラウールが海外のモデル事務所にも所属したと聞いてから、明らかに海外での仕事の頻度が増えて、俺はそのたびに放っとかれている。別に仕事だし、愛されてるのはわかってるし、代わりに他のメンバーが気を遣って一緒にいてくれるし別にいいと思っていた。
でも今回は期間が長い。
長すぎる。
しかも俺が怒ってるのは、それを直前まで内緒にしていたことだ。出発の前日にベッドの中で聞かされた。共有スケジュールには載ってなかった。マネージャーにも口裏を合わせて、黙っているように頼んでいたらしい。
🩷「おーい、ラウール!翔太だよ〜」
めめからスマホを奪った佐久間がいつのまにか撮影役を買って出て、画面を俺の方へ向けた。わざわざピンク髪がフレームアウトするようにして俺だけを映す。
💙「やめろよ…っ」
左右にいた照たちも離れて笑顔で俺を見ていた。恥ずい。とても恥ずかしい。
俺は佐久間から強引にスマホを奪うと、スタジオを出て目についたトイレの個室に駆け込んだ。小便器に立ってしていたスタッフがのけぞるように驚いている。
🤍『おお、おお、どうなってんだ?』
ラウールのおどけた、でも、どこか嬉しそうな声が耳に届いた。こっちはもうとっくに夜なのに、ラウは陽射しの照りつける、庭園みたいな場所にいた。
💙「…………ラウ」
画面が落ち着くと、ラウールはニッコリと笑って見せた。庭園の花に負けないような笑顔に思わず見惚れる。
🤍『翔太くん、顔見たかった。嬉しい。今日も可愛いね』
💙「当たり前だろ」
本当は走って来たから、髪も崩れてそうだし、リップも塗り直してない。自分のビジュアルがこの若くて美しい彼氏に釣り合っているのか常に不安で堪らない。だから最近は美容にもますます力が入っている。
🤍『時々、こうして電話したいんだけど…。もう俺を許してくれない?』
💙「寂しいからヤダ」
🤍『んん?なんで?寂しいならいっぱい話そ?」
10コ以上も年下の恋人には、俺の複雑な男心なんてわからないんだろう。画面越しにでもこうして一目会ってしまうと、会いたくて会いたくて堪らなくなる。大きな身体に包まれたくなる。我慢がきかなくなりそうなんだ。
💙「それより、仕事!!仕事どうなんだよ。順調なのか?」
🤍『うん。みんなよくしてくれるし、とっても優しいよ。勉強になることばっかりだ』
💙「そっか」
🤍『言葉もね、大分喋れるように…。ちょっと、なんで泣いてるの翔太くん』
💙「泣いてねぇよ!!」
目尻に流れそうになった雫を指先で受け止めると、トイレットペーパーを破って、鼻を啜った。
🤍『あとそこ、どこ?随分暗いね』
💙「うるさい。もうすぐ出番だ。またな!」
耐えていた涙腺が崩壊しそうになったので、俺は慌てて通話を切った。切れる間際に、ラウールの大好きだよ、が聞こえて来てさらに涙を誘った。顔を見るのも、口をきくのも実に10日ぶり。電話もLINEもなければ諦めもつくのに、今の時代は簡単に人と繋がれるから余計に寂しい。
💙「さんきゅ」
めめにスマホを返すと、無言で背中を摩られた。こういう時、さりげなく優しいのが目黒だ。本当にこの男には敵わない。
楽屋に戻り、慌てて目元を直してもらう。
今夜は世界一かっこいいパフォーマンスをしてやる。そう意気込んで、俺は再び、スタジオへと向かった。
おわり。
コメント
3件
もうーーーなんてかわいいのしょぴ💙 ラウ早く帰ってこーい!!🤍💙