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「また冗談か?流石にもう驚かないぞ」
聖奈さんに求婚もどきをされた俺は目を細めそう返した。
「ううん。真面目な話。流石に国王が遊び歩いてたらまずいんだよね。
まず私が・・・」
どうやら真面目な話らしい。
聖奈さんが説明するには
・王族が俺しかいない為、結婚して決定権を持つ人を増やす。
・そうすると政務以外にも人事と外交を聖奈さんに任せられて、元々国王は国の英雄で神輿だから本当の意味でお飾りになれる。
纏めると、地球の知識があって俺の思い(国の方向性)を理解している聖奈さん以外に任せられないから、必然的に聖奈さんと婚姻関係を結び、出来る仕事の範囲を増やさなければならない。とのこと。
確かに一年前のミランに国の運営を任せても、民に俺を神扱いさせそうだし、エリーはポンコツだ。
間違いない。
「…ってことは、ミランも納得したんだな?」
「うん。地球の知識もセイくんへの理解度も、まだ私には及ばないから今は譲りますって言ってたよ」
そうか……まだミランは義理を果たそうとしているんだな。
俺なんかのことはいいんだ。
ミランにはやりたいことをやって欲しいが……
「あ。あと『諦めたわけではありません。セイさんの心は必ず私が奪います』だって。
健気だよね…ミランちゃん」
「奪いますって……どこのシルクハット被った泥棒さんだよ…」
むしろ銭◯警部か?ミランはル◯ン?
うーーん。表面上はここ一年、嫌われたくらいに思ってたんだけどなぁ。
最初に助けたのは確かに俺かもしれないけど…でも、ミランを仲間にしようと決めたのは聖奈さんなんだよな。
言いたくないけど旅に出る前に伝えておかないとな。
『俺への感謝は勘違いだぞ』
『セイさん最低です。乙女心を弄んでいたなんて…』
死ねるな。
冷静に考えて10回は死ねる。
旅に出るまでの1週間は激動だった。
なんせ結婚するんだ。
ホントにいいのか俺?
「おめでとうございます」
「あ、ありがとう。といっても、形だけだがな」
氷の様な冷たい視線をあびながら、俺はミランにやっとの思いでお礼が言えた。
「結婚式にはドデカイケーキが出るですっ!」
「エリーちゃん。ごめんね。式は挙げないの」
「ああ。流石に旅に出る為の方便で神様に嘘は誓えないからな」
式は挙げず、貴族や役職の高い者達に宣言するだけにした。
だって本物の神様を知ってしまえば、見えなくても嘘なんてつけないよな?
「ガーーーーン……」
いや…今時漫画でもいわんぞ…?
そういやエリーに一昔前のギャグ漫画を貸してたっけ?
さらに数日後。
このままだと旅に出る前にミランへ真実を伝えられないと思い、一念発起してミランを呼び出した。
「どうされました?」
「ああ……」
夜、俺の部屋でミランと二人きり。
覚悟を決めたはずなのに、中々言葉が出てこない。
「私はまだすることがあるので、用がないのなら失礼します」
「ま、待ってくれ!実はミランに隠していたことが…いや、隠すつもりはなかったんだけど…じゃなくて…」
「はっきり言ってください。覚悟は出来ています」
そう言ったミランの目元には大粒の涙が光っていた。
「えっ?!いやいや!!
泣く様なことじゃないぞ?むしろ俺が泣くというか……ええいっ!
済まなかった!
ミランは俺が助けたって勘違いしてるけど、実は聖奈なんだ!」
「……はい?何の話ですか?
セーナさんと結婚するから、私とは無理だという話じゃないのですか?」
「は?聖奈とは偽装結婚だぞ?
だからといって、今すぐミランと結婚出来るかと言われたら、それは…地球の紳士協定に触れるから無理だけど…」
何を言っているんだ俺は!
ミランにちゃんとあの時の俺と聖奈さんの会話を伝えなきゃだろ!
って、あれ?
なんでミランは涙目をやめて顔を赤くしているんだ?
「今じゃなきゃ………ってこと?」
何だかブツブツ言っていて怖い……
「コホンッ。いいかミラン?あの時ミランを仲間にしようと言ったのは聖奈なんだ。
だから俺を崇拝したり、義理立てすることはないんだ。
済まなかったな。今まで黙っていて」
「?知ってますよ?でも、実際に冒険者の私を助けてくれたのはセイさんです。
これも知っています。
セーナさん情報なので間違いないですよ。
そもそも最初はセーナさん、この世界に来れていないですし。
それより、一つ聞かせてください」
知ってたのかよ…確かにこの話は何処かでしたような?
俺もいよいよボケてきたか……
待っていろエリー。今、そのポジションに俺も……
「何だ?何でも聞いてくれ」
「ふふっ。そんなに身構えなくて大丈夫ですよ」
優しく微笑むミランは、それはそれは大人びていて綺麗だった。
久しぶりに見た気がするな。
「そんなどうでもいいことを、言いづらかったのはなぜですか?」
「……嫌われると、思ったからだ」
身構えてて良かった。
それでも消え入りそうな声しか出なかったけど。はずかちっ!
「ふふっ。私はセイさんのことを嫌いになんてなりませんよ。
寝ている時にオナラしても、鼻をほじっていたとしても」
「いや!そんな事してないからねっ!?」
何言うねん!!
「はい!喩えですよ。
でも、私はどんなセイさんでも嫌いになんかなれません。
神に…月の神様に誓います」
「……俺もどんなミランでも嫌いになんかならないぞ。
月の神様に誓って」
俺がそう言うと、ミランはとびきりの笑顔を見せてくれた。
これで憂なく旅に出れる。
「あっ。さっきの話に戻りますが、何歳になれば結婚していただけるのでしょう?」
「えっ…?」
うん。必殺先延ばし戦法あるのみだな。
「紳士協定を確認しとく…」
まぁなるようになるだろ。
いや…この考えがだいたい悪い気がしてきたな……
考えたところで、なるようにしかならんが。
「何かあった?」
今日も今日とて城にいる。
俺にする事はなくとも、ここが居場所だ!
あり得ない速さで書類を決済していた手を止めて、聖奈さんが話しかけてきた。
「何って?」
「ミランちゃんだよ。
今朝から雰囲気が変わったというか…綺麗になった?あれ?元々綺麗だよね?」
コイツは何を言っているのだ。
ミランは元々世界一可愛い天使だろっ!ボケたのか!?
流石同い年だな!エリーの世界へようこそ!
「よく分からんが、ミランが綺麗なのは間違いないな」
「ふーん。私は?」
「美人だ」
「それだけ?」
「むしろ他にあるのか…?」
いや、仕事も出来るし料理も美味いよ?
でも、今見た目の話だよね!?
リア充の会話を求められても、ぼっち歴の長い聖くんには無理だよ?
「ぶーー。愛しの奥様に対してつめたーい」
「久しぶりにぶりっ子が出たな…」
「うん。普通に返すのはやめてね?ただの痛い子になっちゃうから」
俺がぶりっ子を懐かしんでいたら、珍しく聖奈さんに勝てた。
勝てたんだよね?何の勝負?
「でも良かったよ。あのままのミランちゃんを置いて旅に出るようなら、セイくんの考えを改めさせなきゃって思うところだったよ」
あっぶねー。何されるかわからんからな……
グッジョブ!昨日の俺!
それにしても聖奈さんはみんなのことをよく見てるよな。
まさか俺の部屋に盗聴器仕掛けてないよな!?
「はい。これ」
そう言って、聖奈さんは小さなガラス玉のような物がハマった銀色のブレスレット(?)を差し出してきた。
「なにこれ?」
俺はアホな子みたいに聞いた。
「魔導具だよ。魔石が使い捨てだからめちゃくちゃコスパ悪いけど、肌身離さず持っててね」
「うん。だからこれは何なんだよ」
アホな子なんだからちゃんと説明しろよなっ!
「光るの。それだけ」
「はっ?何それ?俺に蛍になれってことか?」
「ふふっ。それもいいかも。
それはこっちが連絡取りたい時に光らせるから、その時はすぐに旅先から飛んできてね」
なるほど。確かに緊急事態には必須だな。でも……
「距離は?流石に国一つ分程度だと話にならんぞ?」
「それは大丈夫。エトランゼとリゴルドーでも問題なかったし、計算ではその倍以上届くから」
「は?どうやって?」
いやいや。いくら送信するだけだとしても……
「あの20階層のゴーレムの魔石が使い捨てなの」
「……そうか」
コスパ悪っ!?誰も使わんだろ!いや使えんだろ!
「まぁ普通は需要ないだろうけど……私達なら…ね?」
「そうだな。転移魔法があるからな」
これで連絡も問題ないな。
どうやら俺を旅に出させられなかったのは婚姻とこの魔導具の完成待ちだったようだ。
エリー博士はすげーな。
何かご褒美とお礼の品を献上せねば。
ミランも俺を早く自由にさせたかったようで、エリーの実験にずっと時間を割いてくれていたと聞いた。
そのミランの時間を作る為に、ライルはミランの仕事を手伝っていた。
みんな水臭いよな。
というか俺って馬鹿だよな。何がぼっちだよ。
みんなありがとう。
翌朝俺はみんなに感謝を伝えて旅立った。
…でも、聖奈さんには何故か素直に感謝できないんだよな。
裏がありそうで……