テラーノベル
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「……ちゃんとやればいいんだろ」
エリオットが距離を詰める。
今度は、さっきみたいにぶつけるんじゃない。
ゆっくり。
相手の呼吸を確かめるみたいに。
視線が絡む。
逃げない。
チャンスも、動かない。
——あと少しで触れる距離。
エリオットの呼吸が、ほんの少しだけ乱れる。
(今度は——)
そう思った瞬間。
「……待て」
低い声。
「っ……」
唇が触れる直前で——止められる。
顎にかかっていた手が、ぐっと力を入れて距離を固定する。
「……は?」
エリオットの眉が寄る。
「なんで止める」
苛立ちがそのまま声に出る。
でもチャンスは、少しも動じない。
むしろ、さっきより落ち着いた顔で見下ろしてる。
「分かってねぇ顔してるから」
「は?」
「“ちゃんと”の意味」
静かに言われる。
そのまま、ほんの少しだけ顔を近づけて——
でも、触れない。
ギリギリで止める。
「今のままだと、また同じだろ」
「……」
「形だけ整えても意味ねぇ」
低く、ゆっくり。
逃げ場を潰すみたいな言い方。
エリオットの喉が小さく動く。
「……じゃあ何が違うんだよ」
少しだけ意地を張るように言う。
チャンスは一瞬だけ黙って、
それから、ふっと息を吐いた。
「余裕なくなってんの、お前の方だろ」
「……っ」
図星。
一瞬で言葉が詰まる。
「さっきからずっと」
軽く指でエリオットの顎をなぞる。
「嫉妬して、拗ねて、煽って」
「……」
「で、最後は無理やりキスして」
少しだけ笑う。
でも優しさはない。
「全部“自分のため”」
「……は?」
「相手見てねぇじゃん」
その一言が、刺さる。
エリオットの目が揺れる。
「ちゃんとやるってのはな」
距離を保ったまま、低く言う。
「自分の感情押し付けることじゃねぇ」
「……」
「相手ごと飲み込むことだろ」
空気が、ぴんと張る。
逃げ場がない。
エリオットは数秒黙って、
それからゆっくり目を細めた。
「……何それ」
小さく笑う。
でも今度は——
さっきみたいな余裕の笑いじゃない。
「難しすぎ」
「できねぇのか?」
即座に返される。
挑発。
エリオットの目が変わる。
「……できるけど」
低く返す。
さっきよりも、ずっと静かに。
でも芯がある声。
一歩、距離を詰める。
今度は——本当にゆっくり。
視線を逸らさないまま。
チャンスの呼吸、表情、距離。
全部確かめるみたいに。
「……これでいい?」
囁くような声。
でも今度は、押し付けてない。
“見てる”。
チャンスは一瞬だけ目を細めて、
「……まだ」
って言う。
「は?」
「足りねぇ」
わざとだと分かる言い方。
完全に——焦らしてる。
エリオットの眉がぴくっと動く。
「……どこが」
「全部」
即答。
「もっと来いよ」
低く、誘う声。
エリオットの呼吸が一瞬乱れる。
「……っ、ほんと」
小さく吐き捨てるみたいに言って、
でも逃げない。
むしろ——
「後で後悔すんなよ」
一歩、さらに踏み込む。
さっきよりも近い。
もう逃げ場はどっちにもない。
空気が、じわじわ熱を帯びていく。
でも——
まだ触れない。
触れさせてもらえない。
その“あと一歩”が、
やけに遠くて、やけに近い。
チャンスはその全部を見て、
わざとゆっくり息を吐く。
「……いいな、その顔」
余裕のある声。
完全に主導権握ってる。
「もうちょいだ」
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