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短め
「菊〜チャオチャオ〜!」
「ふぇ、ふぇりしあーのくん、」
彼はいつも私に会う度ハグをする。
「菊、こっち向いて?」
「ん、」
彼はいつも私に会う度口にキスをする。
「ふふ、かわいいよ菊。今日もがんばろうね!」
「は、はい、」
そう、これはただの挨拶。
フェリシアーノ君達から見たら当たり前のこと。
動揺するのは日本人の私だけで、それが孤立しているみたいで嫌だからこのスキンシップにも慣れた。最初は恥ずかしさでショートしてしまうほどだったのが、今じゃ頭から湯気が出るだけで済むようになった。
ただの挨拶で跳ね飛ばすのも可哀想ですし。自分の普通だけじゃ世界の方々と共生できませんよね。
「菊ー?大丈夫?疲れちゃった?」
「あ、いえ。少し考え事を」
「ふーん」
「あ、そうだ!この後菊の景気づけに俺ん家でパスタ食べよぉよ!」
「最近作り方変えたんだぁ。味見してみてよ」
「あら、それは素敵な誘いですね。ではお言葉に甘えて」
「やったぁ!菊とランチだぁ!」
彼は変わらぬ顔で私にハグをする。
心臓がうるさい。体が妙に硬くなる。顔が熱い。カァァと頬を赤らめながら下を向いた。
「アイツら、今日はやけに距離が近いな」
「えーなになに?恋の前兆?」
「あ、ほんとだぁ。ねぇ僕も混ざりたいな。混ざっていいかな?いいよね?」
「君が混ざったら場が濁っちゃうだろう?」
「うるさいなぁ。メタボ君よりかはマシだと思うけど」
「けっ、たまたまだろ」
「未練タラタラじゃねぇあるか」
そんな連合とドイツの会話も、ショート寸前の菊には聞こえなかった。
「どお?美味しい?」
「ふぁい、!ほっへもおいひぃれす!」
「ヴェ〜!良かったぁ」
本場イタリアのお手製、熱々の出来立てパスタを頬張りながらテンプレのような会話をする。食する時が1番の幸福を感じる日本人、菊にとってそれはそれは幸せな時間になった。
「…ねぇ菊。今日泊まっていかない?」
「え、そんな。悪いですよ」
「大丈夫大丈夫!ルートも頻繁に泊まる時あるからさぁ、それ使えばいいよー」
「それに、菊ともっと喋りたいからさぁ」
「では…遠慮なく」
はにかみながら言う彼の提案を拒否できるほど、私は強くなかった。
「布団あったかーい」
「……ベッドってお2つあるのでは…」
「えー?ないよ?」
「だって、ルートさんもよくお泊まりに来るとおっしゃってたじゃありませんか、!」
「ルートも泊まる時一緒に寝るんだー」
「そういうことでしたか、」
「もしかして菊、俺と寝るのいや?」
「いえ、決してそのようなことは、」
「ほんと?」
「ほんとです」
「ふふ、じゃあ良かったぁ」
ふにゃ、っと笑う彼の顔がいつもより近くで目に留まった。それに可愛いという感情が芽生えたのも束の間、彼は真剣な顔つきでニコッと笑い、私の後頭部を抑え、口にキスを落とす。
「おやすみ。菊」
「お、おやすみなさい、」
ただの挨拶のはずなのに、変に意識してしまう自分に恥ずかしくなる夜だった。
菊は知らないだろう。
イタリアの挨拶は相手の耳元でリップ音を鳴らすことだということを、
挨拶で口にキスをする文化がある国はないということを。